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第48話:この「好き」は違う

「人混みすごいねー」

「ですね。周り人だらけ……」


 わたしが元アイドルだからとは言えども、みんな自分の次の動きについて夢中だ。

 意外とわたしという存在は気づかれていないようだった。

 まさしく木を隠すなら林、ということなんだろう。もしくは普通の浴衣を着ているからか。


 ともかく目的はたこ焼きと焼きそば。あとひもくじでハズレとして掴まされる振るとびよーんと伸びるおもちゃか。

 確かにお祭りの戦利品って感じがしてわたしは好きだけど、尊花さんはなんであんなニッチなものをまゆさんに送ろうとしたんだろう。

 こうして考えると、わたしって意外と尊花さんのこと、何も知らないんだな。


「どうしたの?」

「いえ! えっと、ケバブってどこにあるかなーって」


 わたしのこと、推し友って言ってくれた時は嬉しかった。わたしと尊花さんの距離はちゃんと縮まっているんだって、誇らしく思ったから。

 でも好きなこととか、食べ物、場所とか全然知らない。

 プロフィール欄には書いてあったけど、きっとそれだけじゃない。

 この世界で生きていくのなら、尊花さんのことをもっと知りたい。もっと、近づきたい。


「ケバブ屋さんって、確か角の方だった気が……」

「あ、肉巻きおにぎりですって!」

「食べてく?」

「はい!」


 よし、目標を決めた。

 尊花さんの好きな食べ物探しだ。あわよくばここで仕入れて、笑顔を頂戴する!

 なーんて。まずは聞くことが困難だっつーの。


 財布からワンコイン取り出して、屋台のおじさんに渡して肉巻きおにぎりと交換する。

 うわ、結構大きい。というか、ずっしりしてる。美味しそう。


「ほかほかだ」

「ですね。あっちにたこ焼き屋もありますよ!」

「ホント?! まゆちゃんのお土産に買わなきゃ!」


 引っ張られるようにして人混みをかき分けて、尊花さんが進む。

 なんか、いっつも尊花さんに引っ張られてる気がする。

 情けないと思う自分の心とは裏腹に、頼もしい彼女の姿に今日もときめく。

 やっぱ推しはすげーや。


「えーっと、次は……。焼きそばですね」

「あっちかな? ちょっと歩こうか」


 やっぱ委員長だな。こういうところは本当に頼りになる。

 わたしの方が実年齢は上のはずなんだけど。

 釈然としない気持ちは人混みの中にしてておいて、焼きそばの屋台を探すために左右を確認する。人の壁すっごい。何にも見えねぇ。


「こういう時、男の人って便利だなぁ」

「美鈴ちゃん、いきなりどうしたの?!」

「男の人って身長高いから、今だけ男にならないかなぁ、と」

「変なの! 鈴鹿ちゃんになりたいって言えばいいのに」

「……それもそうですね!」


 あの女、めちゃめちゃ背高いもんな!

 万葉さんが確か平均より少し高い設定だったはず。

 それと同じか、上を行く鈴鹿さんって、いったいなに食ったらそんなにでかくなるんだか。

 やっぱり遺伝かな。


「……美鈴ちゃんが男の人になったら嫌だし」

「何か言いました?」

「ううん?! なんでもないよー」


 もっと力強く手を握るもんだから、わたしも握り返した。

 実はちゃんと聞こえてた。けれどその言葉を掘り返すことは流石にしたくない。

 まるで昔聞いた一説が本当のことだと実証しているみたいで。

 男が、女が。そういうのは関係ないとは思っているし、その程度で推し友をやめたりはしない。

 でもデリケートな問題だから、いつか打ち明けてくれる日を待つしかない。

 踏み込む勇気もないしね。


「あ、チュロスだって! 揚げたてかなー?」

「いいですね、チュロス! そういうのも売ってるんだ」


 気を取り直して、チュロスの列に並ぶ。

 結構人気みたいで、裏まで長蛇の列が並んでいた。こりゃ結構待つことになりそうだなぁ。

 手をつないで、ただ並んでいるのも味がない。もっと尊花さんを楽しませなきゃ。


「えっと……。尊花さんって、休日は何してるんですか?」

「……え、いきなりどうしたの?!」

「い、いやぁ。話題があった方がいいかなぁ、と」


 話題の作り方が下手くそか?! それともお見合いかよ!!

 もっとトーク番組でスラスラ解答できるような素晴らしい頭脳の回転ができれば……。

 ……いや、解答出来たらダメじゃん。わたしがお題を出す方だよ。

 うおぉおおおおおおおおお、わたしはダメだぁああああああああああ!!!!!


「私はー……。ショッピングかな」

「ど、どんな?」

「帽子! 好きなんだー」


 そういえば私服立ち絵でベレー帽付きの立ち絵があったっけ。

 そっか、帽子好きなんだ。でもかわいいだろうなぁ、黒い髪にオレンジ色の帽子がちょこんと乗ってたら……。かわよ(尊死)


「美鈴ちゃんは?」

「わ、わたし?!」

「そうだよー! 私ばっかりじゃなくて、美鈴ちゃんのこといっぱい知りたいし!」


 どうしよう。ここで言えるような趣味が、なさすぎる。

 趣味はソーシャルゲームの周回です。ハムスターになった無の気分を味わえるので好きだよ、一緒にいかがかな?

 何て言えるわけないだろ?!!!!!!

 あとは、なんだろう……。あ、一応解釈を変えれば……。


「ゲ、ゲームかな」

「美鈴ちゃん、ゲームするんだ! そういえば休み時間の時に必死にソシャゲしてたけど、あれ?」

「えーーーーーーーーーーっと…………。はい」


 バレていた。流石陽キャだ、目ざとい。

 しばらくの沈黙が痛い! くっ、自供するか!


「ち、違うんですよ?! 家とかだとちゃんとコンシューマーのゲームとかやるし! この前好きなRPGシリーズの新作が出たから、それをずっとやってましたし! えっと、その……。ごめんなさい」

「どうして謝るの?!」

「なんか、言い訳苦しいかな、って」


 うぅ、墓穴掘った。もっといいとこ見せたいのにぃ。

 見せてるところなんて、気絶しているところとか、情けないところとか、そんなのばっかだ。


「……げ、幻滅しました?」


 思わず握っていた手にチカラが入ってしまう。

 友だちと遊ぶことなんてなかったし、着ていく服だってフリフリのゴスロリしかない。

 注目されることが嫌なわたしにとって、家に出る=死に直結する。

 だから1年間も部屋から出ることはなかった。もっと外交的な自分になりたいのに。


 でも、彼女は握った手とは反対の手でわたしの肩を外側から撫でてくれた。


「大丈夫だよ。そんなことで幻滅してたら、きっとキリがないし」

「うぐっ!!!」


 と思ったら刺してきた。


「違うんだよ?! 私はそんな美鈴ちゃんが親しみやすくて好きなんだし!」


 「好き」。好きかぁ。そっかぁ……。


「こんなボロボロのわたしを?」

「うん! ちゃんとボロボロな方が好き!!」


 言い方にかなり問題はあるけど、それでも……。

 慌ててしっちゃかめっちゃかになってる尊花さんも、わたしにとっての推しなわけで。

 そう思ったら途端に愛おしさがこみあげてくる。


「ありがとうございます! わたしも…………」


 「好きですよ!」

 そう言いたかった。

 けれど、その言葉だけはどうしても喉の奥の方でつっかえて、それ以降動こうとはしなかった。

 その言葉だけは、あの呪詛が蘇るから詰まってしまうんだ。


「美鈴ちゃん?」


 大丈夫。あの時とは違う「好き」だから。


「あ! チュロス買えそうですよ!」

「え? あぁ、うん……」


 ごめんなさい、肝心なことが言えないわたしで。

 それだけは。それだけは言えないんです。

 誤魔化すように、話題を変える。

 そうだ目標! わたしにはちゃんとした今日の目標があったんですよ!


「尊花さんの好きな食べ物って何ですか?」

「んー。オレンジジュースかな」

「食べ物というか、飲み物?」

「あはは! 美味しいよね!」

「まぁ、ですね!」


 ちょっとした目標を達成したし、また1つ尊花さんに近づけたかな。

 また焼きそばの屋台を探しながら、わたしたちはお祭りを堪能するのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] もどかしい感じがする…でもこのもどかしさがどことなく彼女らしい気がしてなんか応援したくなるなぁ 頑張って美鈴ちゃん
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