第45話:コトノハ神宮祭
月に思いを馳せていたら、お祭りの最終日になっていたぜ!
なんてことだ。とりあえず最終日なら空いているだろう、という予想はまるっきり外れていた。
めっちゃ人いるじゃん……。流石は『コトノハ神宮祭』。悔しいけど、あのカミサマは信仰に値する集客力を持っている。
みんな騒ぎたいだけだろうけどね。
「来たねー、お祭り!」
「来ましたねー」
「ふふ、2人ともかわいいよー!」
すかさず褒めていくなんて流石は陽キャのまゆさんだ。
お前の方がかわいいよ(イケボ)みたいなことを言いたい気持ちはある。
でもわたしの声はきゃるきゃるしてるし、低い音を出そうとすれば声がかすれそうな気がする。
「えへへ、ありがとう! まゆちゃんもかわいいよ!」
「嬉しいなー! ね、美鈴さん!」
「え!? は、はい! 2人ともめっちゃめちゃかわいいです!!!」
それはもう燦々と輝く太陽のように、直視できないけれどその存在自体だけでありがたいと言いますか。
ほら言うじゃないですか。日光って人を元気にする作用があるって!
尊花さんとまゆさんはまさしく、そこにいるだけで光なんですよ。ありがとう光。今日も陰キャ植物はぐんぐん育っていきます!
「オマエら、ホント飽きないよな」
「まったくだ。珍しくこのバカと同感だな」
ちなみに今日いるのはフルメンバーマイナス万葉さん。
少しだけ早く出た響さんを追うような形でいま会場に向かっているんだとか。さっきDMが飛んできた。
「鈴鹿ちゃんもかわいいよ! 前髪キメてきたんじゃない?」
「そのネイルもいいねー。ちょっと香水もつけてきた?」
「や、やめろぉ!!!!」
ふふふ、気合入っているのは2人にはバレバレらしいな。さすが陽キャ。こういうところは鋭い。
わたしから見ても、今日の鈴鹿さんは気合が入っているというか、オーラが何段階か女子に傾いている。
こんな子に好きって言われたら、多分惚れるね。イエスって言うわ。
「ま、万葉が気づくかは分からんがな」
「うるせぇ! いいんだよ。ちょっと、オシャレしてみたかっただけだし……」
「「……っ!!」」
なにそのポイント高い照れ具合!
今日の鈴鹿さんはなんだか一味も二味も違う! 確実に落とす。その覚悟が体からにじみ出ているのだ!
すごい、すごいよ鈴鹿さん! ファイトだ鈴鹿さん!
「おまたせー。ってお前らめっちゃ気合入ってるな」
「よぉ義弟よ。きみはいつも通りだな」
「まぁ、着ていく服とか分かんなかったし」
万葉さんの格好と言えば、ちょっと暑さも感じてきた辺りの初夏。
ラフなシャツとジーパンという、本当にあなたこのデートの意味わかってます? という格好だった。もっと本気出せ。本気出して向こうは落とそうとしてるんだぞ?!
「…………」
「鈴鹿さん?」
「……やばい、緊張してきた」
「ヘタレ……」
そんな中鈴鹿さんはわたしたちの影に隠れて、万葉さんからは見えないようにしている。
影に隠れるのは陰キャだけで十分だ。わたしは尊花さんとまゆさんにアイコンタクトを取る。そうだ。わたしたちが今回目標にしているのは、鈴鹿さんと万葉さんのデートの完遂、たったひとつだけ!
一致団結。これからわたしは修羅に入る!
「そういやぁ、鈴鹿はどこだ?」
「いますよ! ほらここにっ!!」
「や、やめろぉ!!!!!」
こいつめ、逃げようとしているのか?!
だが無駄だ。いくら体育の成績がカスだったとしても、尊花さんとまゆさん3人がかりに、敵うわけないでしょうが!!
よぉい! 一本釣りの鈴鹿さんを万葉さんの前に引きずり出す!
「とっとっと……っ!」
「おっ、大丈夫か?」
「え……。あ、あぁ……」
鈴鹿さんがこちらを睨む。すぐさま目をそらした。
そこまでチカラは入れるつもりはなかった。
で、でもいいじゃないですか! バランスを崩して万葉さんの胸元にダイブ! おー青春。
「なんか、いい匂いするな」
「ま、まぁな」
「…………そっか」
あ、お互いに固まった。草ですね。
初心な2人を見ていると、お姉さんまで気分3歳ぐらい若返った気分になりますよ、うん。
でもそのままじゃいけないでしょう、鈴鹿さん?!
「万葉さん。今日の鈴鹿さん、どう思いますか?」
「え、っと……。いや、なんというか……」
万葉さんと鈴鹿さんの身長は同じぐらいなのに、どことなく鈴鹿さんが縮んでいる気がする。
恥ずかしいんだな、このこの~!
自分の頬を指で掻きながら、直視しない程度にうっすら流し目で鈴鹿さんを見る。
赤い発色が、今日は一段と煌めいて見えるな。
「その……。いいんじゃないか? 綺麗だと、思うぞ」
「っ! う、うん。わ、分かってるじゃねぇか! ハハハ……」
その勢いのある口調からはおおよそ予想できないぐらいに万葉さんの胸元を指でちょんと押し返す。
は?! なんだこの女、かわいすぎか?!!
というかさすがギャルゲー主人公と言うべきか。こういうことを濁さずに直球で投げてくる辺り、この人もたいがい人たらしだなぁ。
でもここで固まったらお祭り行けないのでは? わたしは訝しんだ。
ごった返す人だかりの中、立ち止まっているわけにはいかないし。
というか、わたしも1回新鮮な空気を吸わないと、人混み死ぬ……。
「予定がないなら、そこのボート乗り場でも行ってこい。ぼくはその間対岸で休んでる」
「え、でも相沢たちはどうするんだよ」
「わ、わたしも一緒に付き添いますよ! ね? 2人で楽しんできてください!」
「だったら俺も……」
瞬間。鈴鹿さんの思考とわたしの思考がリンクする。気がした。
このままだと6人仲良くお祭り回りで、2人っきりになれる機会がなくなる、と。
ここはとっさに言い訳を考えなきゃ。えっと。えーーーっと……。
「あ、あー! わたし休憩の時は男の人がいない方が楽なんですよねー」
「え、そうだったのか?! す、すまんかった……」
「いいんだよー! まゆさんたちも付いてるし、1人で回るのも嫌でしょ? 鈴鹿さんと一緒に回りなよー」
「そ、そうだぜ?! ボートつったら、2人一組だもんなぁ?!」
さりげなく腕を組む鈴鹿さん。
なんと。ヘタレも危機的状況に進化するというのか!
「お、おう……。てか……胸」
「な、なんだ?!」
「……なんでも、ない」
「じゃあ行こー! ほっほっほ!!!」
鈴鹿さんが無理矢理連れて行くような形で、何とか2人っきりにすることができた。
ふぅ、ひと段落。疲労がどっとやってきた。疲れた……。
「じゃあ私たちは対岸でのんびりしてよっか!」
「そうだな。ぼくはもう限界だ」
「わ、わたしも……」
「あはは……。仕方ないなー2人とも」
情けないわたしですまない。およよ。
わたしたちは1度列から離脱する形で、人気の少ない場所へと休憩に行くのだった。




