第43話:ハッピーエンドの意味
お祭りは3日にかけて行われる。
といっても、1日じゃ混雑するだろうから3日やることにした、ぐらいの考え方だと思う。
そして今日は日曜日で、お祭りは次の火曜日から。
「やっぱ最終日の終了間際がいいかなぁ」
人混みが少なくて、告白にも適したタイミングというとその辺りかなぁ、と漠然と考える。
何故かわたしが予定を決めることになっていたけれど、こうして考えると案外ちょうどいいのかもしれない。
イニシアチブ、というか尊花さんとまゆさんはわたしのことを考えて、こう言ってくれたわけで。響さんと鈴鹿さんもそういった理由から了承してくれた。
――でも。
「それじゃあみんな楽しめないよなぁ……」
なんでみんな、わたしに合わせてくれているのか分からない。
分からないなりに考えると、単純に頼りないからという理由だけなんだけども……。
陽キャの気遣いって、思わぬところで陰キャにダメージが及ぶ。もっと自分のしたいことをやればいいのに。
今回だって、わたしなんて無視してみんなで楽しめばいい。
わたしが無理すればちょうどいいんだから。
「火曜日まで、あと2日。まぁ、どうとでもなるか!」
考えるのやーめた!
勉強机からベッドに身体をダイブ!
この瞬間、すべての責任から解放されたわたしは無敵なのだ!
「はぁ……。しんど」
どうせ最終日にはする予定だったし、大丈夫か。
枕の柔らかさに、あの日のぱいケーキを思い出す。うぅ、なんか最近まゆさんの攻めが強い気がする。
距離感バグってるとかは自分で言ってたけれど、あれはそのレベルじゃないでしょ!
友だちってあんなに距離感の幅狭かったっけな?
『お前は友だちぐらいの距離感でいいや』
不意にあの呪詛が出てくる。
そう、だよね。まゆさんの距離、どう考えても近い。
別に女同士がどうこうというわけじゃない。好きなら好きで性別とか関係ないとは思う。
でもいざ自分にその感情を向けられたとき、わたしはどう考えればいいか分からない。なんというか……。
『怖いって?』
「うわっ!!!!」
ベッドと壁の隙間から頭だけが出てくる。
こっわ!!!!!! なんだこいつ?! おばけかよ!!!!
『失礼な。カミサマは神様だよーん』
「神様がそんな登場の仕方しないでくれる?!!」
シリアスブレイカーというか、こいつの前では本当に何もかもの雰囲気がぶち壊れてしまう気がする。
人徳というか、神徳か? わからんけど、一発殴りたい。
『それで、どうよ。キミも意中の相手を見つけられたかな?』
「はぁ?」
なんでそういう話になるの。
あれか! 原作では告白イベントになるから、わたしにもそういうのないの? っていう親戚の集まりで知らないおじさんやおばさんに言われるあれだ!
ねーよ、バーーーーーーカ!!!!
『バカとは失礼だなぁ、バカとは。これでもキミの考えていること全部読めるんだよ?』
「人権侵害で死刑」
『神様に法律キキマセーン!!』
キレそう。手のひらをわたしに向けてそう言うんだから、喧嘩売ってるでしょこの神様。
『さてさて、この辺で読者の皆様にもこのお祭りイベントがどういう展開なのか教えてあげないとねー』
「読者って、誰?」
ニコっと笑って、そのままパンっと手のひらを叩く。
すると、視界が一転しそこはわたしがさっきまで崩れ落ちていたベッドはなく、神社と境内。それから巨大な神木が立っているだけ。
それ以外の景色はなにもないという、神社だけが立っている世界にやってきた。
……え?! やってきた?!!!!
「ちょっと待って?! ここどこ?!!
『そういえばキミに見せるのは初めてだね。カミサマはその気になれば世界を変えられるんだよ。試しにキミの部屋をいまコトノハ神宮に変えてみた』
どこまでも人知を超えたチカラすぎて、なんというか……。これ夢じゃないよね?
てかちゃんと戻るの? このままわたしの部屋神社になったら嫌なんですけど?!
『安心してよ、ちょっとしたら戻すから』
「まぁいいけど」
せっかくなので神木の下が影になっているので、そこに座る。
まぁ聞いてやろうじゃないか、その話ってやつを。
『このお祭りはね、コトノハ神宮祭と呼ばれるものでギャルゲーのライクオアラブの転換期でもあるイベントだ』
「それは知ってる。確かコトノハ様って神様に賑わいを奉納するために生まれたお祭りって」
『まぁ、それはカミサマのことなんだけどねー』
「は?」
待って。いま自分のこと指さした?
は??? なに、自分のためのお祭りの説明しようとしてるのこのカミサマ?!
『ちなみにこのイベントで告白したら恋が叶う、という伝説があるんだけどー。あれ、カミサマが流した噂なんだよ! これ、裏設定ね!』
うわ、なんかもう何もかも台無しだ。
ゲーム的都合を全部カミサマが背負っているのだとしたら、なんというか。今とんでもないネタバレを食らってる感じだ。心底気分が悪い。
「それって人間の感情を捻じ曲げてるんじゃないの? 前に因果律がどうこうって言ってたし」
『あーないない。カミサマそういうの一番嫌いだから。因果律もキミが死にかけてたから曲げただけだし』
本当に好き勝手やっているようで、実は人間がさせたいことをしているだけにすぎないと言っているようだ。
でも、信用がなさすぎる。
「カミサマって、結局何がしたいの? わたしを転生させたり、恋が叶う噂を流したり」
『んー? それは単純だよ』
カミサマはわたしの方へとゆっくり近づいてくる。
見た目は金髪碧眼のかわいい女の子なのに、どうしてこうも恐ろしいのだろうか。
少し後ずさりすると、そのかわいい女の子は邪悪な笑みを浮かべる。
――まるで、人間で遊んでいるようにも見えた。
『人間たちのドラマはカミサマが生きる上での最高のスパイスなのさ。こと恋愛に置いてはとてつもなく感情が乱れる。カミサマはそれを見て、ポップコーンを食べたり、コーラを飲んだりして楽しんでいるのさ』
予想以上に邪悪だった。
人間はあくまでおもちゃで、わたしたちはカミサマが生きる上での餌にすぎない。
どこまでも身勝手で、相容れない上位種。反吐が出る。
『さてっと!』
パンっともう一度手を叩く。
さらに世界は一転して、元のわたしの部屋へと戻ってきた。
『じゃ、カミサマは帰るから』
「ちょ、ちょっと待って!」
幽霊のように壁を貫通しながら、消え去ろうとする背中に待ったをかける。
このカミサマには、前々から聞いておきたいことがあったんだ。
今ならちょうどいい。だから声をかける。
「ハッピーエンドって、なんなの?」
『そこ聞いちゃうかー』
振り向いたカミサマの顔は、純粋無垢そうな笑顔を向けていた。
でもどこまで貼り付けた笑顔を傾けようとも、その表情の裏にあるものが恐ろしかった。
『文字通りの意味さ。ギャルゲーにおけるハッピーエンドってなんだと思う?』
「それは、誰かと付き合って……。って?!」
『そういうこと。それじゃねー!』
煙のように消え去ったカミサマがいた場所をただただ見つめる。
嘘でしょ……。仮にだとしたら性格悪すぎでしょ……。
「わたしに、恋愛……?」
思い出すのは在りし日の過去。
甘酸っぱかった頃の、前世の記憶。
そして。陰キャ人生の始まり。恋愛嫌いのわたしが生まれた原因だった。




