第38話:おねだりはかわいい子の特権
人の期待の目線はいつだって苦手なものだ。だって陰キャだし。
例え尊花さんが相手だとしても、期待に添えるようなものを持ち合わせているわけではない。
ましてや、この会話をすっ飛ばしたかのような展開に、はてなが5000兆個ぐらい並んでいた。
「え?」
すれ違う運命、交差する思い。
なーーーーーんてバカなこと言ってる場合じゃない!!!!
尊花さんがなんでそんなにも何かを懇願する状態になってるの?!
なに? わたしなんか天使にえっちな開発をしたか? 寝ている間に?
このおバカ! そんなことを推し友相手に考えるんじゃあありません!
じゃあなんだろう。
真面目に考えても思い当たるものがない。
「……あっ。……えー、おほん。今日はいい天気ですね」
「えっ?! あっはい。そうですねー」
「だねー、いい天気だねー」
突然変な舵切り始めたぞ。
尊花さんが何かを期待しすぎてバグりすぎてる。
これはこれで可愛いけど、対面しているわたしにとっては何がなにやらさっぱりなのだ。
「こ、こんな天気はー外にお出かけとかしたくなっちゃうねー」
「うーん、最近暑くなってきたしあんまり……」
「えぇー? 美鈴さんお出かけしたくないのー?」
「あ、行きます」
天使と女神に懇願されてしまえば、ころっと手のひらを返すのがわたしのようなダメな陰キャです。
ただ夏場は暑いし、私服があのゴテゴテの戦闘服だと思うと、なにか対策を考えないと干からびるかもしれない。
「ホント?! やったー! じゃあ!」
そういうとまた先程と同じような何かを期待するような眼差し。
待て待て待て。今なにかワンクッション置いた? 時間が一部切り取られてない?
なんだろう。どこかお出かけしたいのだろうか。試しに予定を取り付けてみた。
「えっと、今度の日曜日は空いてますけど」
「あー、えっと! 今度お祭りあるねー!」
無視した。無視された。結構勇気持ったんだけど。
まぁそれはそれとしてでいいんだ。うん、気にしてないし。大丈夫。ダイジョブダヨ。
「ありますねぇ」
「っ! 美鈴さんって、誰かと一緒に行ったりしないのー?」
「まだ誰とも予定付けてないんだー。このままじゃ1人で行くことになるなー……?」
ちらっ、とわたしの方を見る。
あー、流石になんというか。分かってしまった。
わたしが考えていることと、尊花さんが今からやろうとしていたことが合致した瞬間だ。
でもわたしなんかに誘われても、大して嬉しくないと思うんだけどなぁ。
――友だち、だからだろうか。
いつまでもくすぐったい響き。そして呪詛でもある言葉。
陰キャに、引きこもりになる前の前世にだって友だちはいた。なんだったら普通に女子高生やってた覚えもある。
友だちって、そういえばこんなにもかわいらしくて、推しみたいな形をしていたな。
……ちょっと待って?!
これ、最推しに懇願されてるんだよね? おねだりされてるの?!
はっ?! 可愛すぎか!!
自覚すればするほど、このかわいさに悶え苦しむ羽目になりそうだ。
これは焦らしプレイをしてみて、反応を楽しみたい気持ちもある。でも推しに対してそんな恐れ多いことできない。
――それに。
「ね?」
そんな上目遣いされたら……。うぐぅ……、死にそう。
いや、死んでたからまだノーカン。
身長、わたしの方が低いのにどんなテクニックをすれば身体を縮ませる事ができるんだろうか。
これ以上は身が持たない! 先にやられるかやるかのチキンレースに、挑む理由はない!
「えっと。お祭り、一緒に行きませんか?」
「いいの?!」
それはあなたが言わせたんでしょうが!
「流石にまゆさんでも分かっちゃったよー。尊花さんが誘えばよかったんじゃないの?」
「えへへ、たまには美鈴ちゃんからお誘いもらいたかったんだ!」
「分かるなー。美鈴さんはガード硬いからー」
「え、そうですか?」
そんなつもりはないんだけどなぁ。
思い返してみても、そんなに絡みづらいことは……。
してたかもしれない。主に気絶したり、アワアワしてたり。うん、これは反省。
「あと……」
「あと?」
「…………ううん、これは何でもないや!」
「むー、まゆさん気になっちゃうよー」
「えへへー! あ、そうだ。美鈴ちゃん、今からトイレ行かない?」
といれ? これあれですか。世の女子高生がやっているという連れションというやつ?
それが意味するものはひとつ。何か言いたいことがあるということ。
い、いったい、わたしに対して物申したいこととは……?
「う、うん。いいけど」
「じゃあまゆちゃん、美鈴ちゃん借りるねー」
「んー! 行っトイレー」
今のは突っ込んだ方が良かったかな。いや、言わぬが花というやつか。
ふふふ、わたしも成長したな。
そんなどうでもいいことを考えながら、トイレの前に来ると、ちょいちょいっと尊花さんがわたしを誘う。
あれ、トイレ行くんじゃないの?
「どうしたんですか?」
「いやー。その、ちゃんと推し友には伝えておきたいなーって」
お、推し友……!
なんてグッと来る言葉なんだ。グッと来るセレクション第1位です。
「な、何を?」
「私ね、誰かと一緒にお祭り行くの夢だったの。他でもない……推し友と」
「う、うん……」
な、なに? これ今告白されてます?!
い、いやいやいや。わたしそんな。そんな、ねぇ。同性愛の趣味は持ち合わせていないと言いますか。
推しは推しでも、お付き合いしたいとかそんな邪なこと考えているわけではないんだよ? 本当だよ?
「だから、お礼が言いたくって!」
「……っ! それは。……尊花さんがお願いしたからで」
そう。わたしは後押ししてもらっただけ。
こんな春の咲き誇った桜みたいな笑顔をされるって分かってたら、もっと早く言っていたかも。
あぁ、今日もかわいいな。わたしの推し。
「ううん。美鈴ちゃんが誘いたい、って思ったからでしょ?」
「そうですけど……」
「ならそういうことで!」
そして敵わないな、とも思った。
畜生。こんなかわいいこと言われたら、誰だって落ちるだろ。
さすがわたしの推し。こんなにも……。胸を撃ち殺してくる……っ!
「じゃああとは日曜日の予定も立ててー」
「え、そっちもですか?!」
「私、浴衣ないんだもん。どこかでいいのレンタルしようかなーって」
いや、そんな事しなくても。
「余ってるの、うちにありますよ?」
「え?」
だって、わたし元アイドルですし。
……。あれ? わたし今、さらっと推しを家に誘った?




