第36話:ぱいケーキ
鈴鹿さんを舐めていたわけではない。むしろ尊敬している。
彼女が日和るだなんて百も承知だった。だから目の前で狩りゲー『モンブレ』を流されてしまうのは分かっていた。
予想通りすぎて、あ、こいつヘタレだな。とか思っちゃって親近感湧いちゃったよね。
尊敬します! 鈴鹿パイセン!!!!!
「なーにしてるの?」
「ぴよっ! まゆさん!」
あ、そうだった。わたしもまゆさんと話してたところだったっけ。
まゆさんのことだから、律儀に待っててくれたりしてたんだろうか?
そんなことないだろ、まゆさんはもっといっぱい友だちがいるんだ! わたしなんかいなくたって……。うぅ、泣けてきた。
「どうしたの?」
「まゆさん友だち、いっぱい。わたしはぼっち……」
「本当にどうしたのー?!」
「情けないわたしを許してほしい、女神ぃ……」
天に罪を懺悔するように両手を合わせて懇願する。
あぁ、まゆさん。わたし、友だちだよね?
「まゆさんは、わたしのこと好き、ですか?」
「っ! あ、あはは! もう、美鈴さんはかわいいなー」
うおっ! さり気なく肩を抱き寄せてまゆさんの胸元へダイブ!
ほふっ! それともぱふっ?! や、柔らかい……。顔に、柔らかい何かが……!
こ、これは。い、いや結論は早急に得るべきではないだろう。
美鈴サーチ! わたしは以前から思っていたけれど、まゆさんって制服の上から分かる程度には大きかった気がする。
戦闘力はEか? だからこのパフッ! は……。
「あぁああああああああああああ!!!!!!!」
「暴れないのー! よしよーし!」
あばば!! む、胸に! わたしの顔がまゆさんの胸に!!
や、柔らかい……! まゆさんの胸の中、ふわっふわ……!!!
「パ、パンケーキ……」
「食べたいの?」
おっぱいが、だよ!!!!!!!!
やばい。これは理性がゴリゴリ削られていく!
どうしよう。この沼から早く出ないと!
あーでもこのまま身を委ねているのも悪くないっていうか……。女の子の大きなお胸って、すごく気持ちいいかも。パンケーキみたいに柔らかいし、はちみつみたいに甘いにおいするし。味もきっと蕩けるような味わいなのかもしれない。
食べないけどね!!!!!!
いや、そうじゃない! そろそろ抜け出さなきゃ! 陰キャとしてこれからの生活のシグナルがレッドゾーンだ!
「は、離してくださいぃ~」
「あ、ごめんね!」
拘束された肩をようやくが解かれて、なんとか自分の足で立つことができた。
そのまま自席へと座る。
な、なんという破壊力だったんだ。わたしが男の人だったら迷わずまゆさんを食べちゃってたことだろう。
まぁ彼女も、わたしが女じゃなかったら、しなかっただろうけど。
「その、元気出た?」
「え、えぇっと。まぁ……それなりには」
「本当にごめんねー! まゆさん、こういう距離感が疎くってー」
近すぎて、近すぎ新左衛門になっちゃったよ。
なんとか心の許容を広くするために、一旦深呼吸する。よし。
「だ、大丈夫です! その、ちょっとびっくりしただけですから……」
「……怒らないの?」
「怒りませんよ。むしろ幸せだったと言いますか……。ごちそうさまです」
「………………」
その言葉が以外だったのか、純白の肌が徐々に赤らめていくような気がした。
え、今の照れポイント?! いや、わたしがそれ言われたら確かに照れるわ。
「ごめんなさい、調子に乗りました。今すぐ首を差し上げます」
「そ、そうじゃないよー! もうー」
うはっ! 目の前で顔を赤らめながら、手のひらをパタパタさせてるのかわいい。
やはり女神だったか。時々出てくる邪神みたいなカミサマじゃなくて、こういう正しく化身みたいな子がカミサマをやるべきなんだ。
照れというものは、やはりGODである。
「でも、ちょっと……。美鈴さんって、攻撃力高いときあるよね」
「え?」
それ、前に尊花さんにも言われたんだけど、どういうことなの。
「って! そーじゃなくって! トイレに行く前の話、覚えてる?」
「あー、お祭りの話でしたっけ」
そう。先ほど鈴鹿さんに質問した理由はここに帰結する。
まゆさんが6月にお祭りがあるんだよー、という話から始まり、浴衣着たいねーとか人混み怖いなー、とか言う話をしていたのだ。
ただ、尊花さんはいつものように忙しいから離席。お祭りは誘えていない状態にあった。
「そーそー! 尊花さんも誘いたいよねー!」
「……あれ、わたしも行くこと確定なんですか?」
「行きたくないの?」
「行きます! 行かせてください! お供します!!」
わたしも同行しよう。相沢院!
と言うわけではないが、友だちのお誘いを無下にする訳にはいかない。
ただ単に、尊花さんやまゆさんがナンパされたらどうしようかなーって。
人混みは別に怖くないです。ホントだよ?
「よかったー! じゃあ後で尊花さんも誘ってー……」
「それはわたしにさせてください!」
「おっ! 活発だねー!」
思い出すのは先程の鈴鹿さんとの会話。
ここで勝てばジュースを奢ってもらえるのだ。ふふふ、待ってろオレンジジュース。鈴鹿さんの小銭を生贄に召喚してやる!
「この前までとは違う、ネオニュー美鈴を見せてあげます!」
「おぉー、すごそー!」
フッフッフッ。誰がなんと言おうと、わたしは尊花さんを誘えるんだ!
ちょうど彼女も帰ってきたことだから、一声かけるとしよう。
「あの、尊花さ……」
「市川ー、わりぃ宿題やってたりしねぇ?」
「もう、そういうのはちゃんと自分で解くから身につくの!」
もう心折れそう。
「おまたせー! 美鈴ちゃん、私のこと呼んだ?」
「ぴえっ! いえ、なにも!!!!!!」
今世紀一番情けない相沢美鈴だった。
せっかくチャンスだったのに。……うぅ、推し友はどうした、推し友は!
それから帰りまで一緒だったけど、勇気を出すこともできずに情けない自分をベッドにぶつけるのだった。




