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第35話:日和る女たち

 6月。この世界で意味するものとは何か。

 それは夏祭り! 告白イベント! 共通ルートの終わりである!!

 うわー、お祭りなんて最高ね! なんて思う陰キャはいるだろうか?

 わたしは漏れなく人混みが苦手なタイプなので、できれば家でジッとしていたい。


「オマエも行くだろ、祭り!」


 まぁそんなこと、陽キャの前では些細な障害にすぎないわけで。

 障害は排除される。さよなら陰キャの引きこもり祭り。おはよう人混みわんさか祭り。


「え、えぇ。まぁ……」


 なんで鈴鹿さんとこんな話をしているかと言えば、理由は単純にトイレで偶然一緒になったから。

 それで鈴鹿さんがわたしに対して話を振ってきた、というだけのこと。

 その場のノリで流しても良かったんだけど、よくしてくれているバカ(愛称)を手前に難癖をつけるのはどうかと思うのです。

 わたしだって空気ぐらい読める。


「なんだよ、その煮え切らない感じ! まーいーけど!」


 鏡を前にして思うのは、この人本当にでかいな。

 背とか、態度とか。胸は言うほど大きくないけど、手足が長いからスラッとしたモデル体型だ。

 明らかに、生きる次元が違えばメインヒロインに抜擢されてもおかしくない。


 ハンカチなんて持ってないので、手をブンブン振って水滴を飛ばす。

 同じく持っていなかった鈴鹿さんもブンブンしていた。


「オマエ、ハンカチ持ってきてないのか?」

「面倒かなって」

「わかる~! 絶対ポケットに入れて忘れるんだよ! んで、洗濯のときにポケットから出し忘れる」


 わ、わかる!

 そのときって大抵ティッシュと一緒だから、洗濯物と混ざって大惨劇が起きるんだ……。それが怖くてわたしはポケットに財布とスマホ以外は入れていなかった。

 まぁそこから話題を広げられるか、と言われたらムリなんですけどねぇ……。


「美鈴ってさー、尊花といるときはめっちゃ会話弾むよな」

「え?! そ、そうなんですか……?」


 気にしてなかった。必死に会話をつなげようとしてるからかなぁ。


「そうだぜ? いつもの数倍はテンション高い」

「……マジですか?」

「マジマジ。心なしかちょっとニヤけてる」


 嘘でしょ?! 思わず口角を鏡で確認してしまった。

 ま、まぁ。なんと言いますか。相手は推しですし。


「アタシにも優しくしてほしい、っつーか。万葉の奴もそうだけど、アタシの扱い雑じゃね?」


 まぁ、うん。鈴鹿さんはなんというか、その……。別にいいかなーと。

 なんて言えるわけもない。ど、どうしよう。人徳とでも言えばいいだろうか。


「そ、そんなことより! あれから万葉さんとはどうなんですか?!」

「……急に舵切るじゃん?! それいま聞く?!!」


 聞きますよ。だって雑に扱ってるのは別にいいかなー、とか言えないですし!

 それに気になっていたことでもある。

 次の夏祭りイベントで万葉さんに告白するとしたら、恐らく鈴鹿さんぐらいしかいない。

 今の進捗状況はどうかなー、というわたしからの威嚇だったんだけど……。むむ?

 鈴鹿さんの露骨にテンションが低くなった顔。これは……。


「進んでなかったりします?」

「うぐっ!!!!」


 あ! 鈴鹿さんが胸を抑えて膝をついた! トイレで!! ちょっとばちぃ。

 そっかー、あれから進捗ゼロだったかー。


「夏祭り、誘ったりしないんですか?」

「それができれば苦労はしねーよ!!!」


 キレられた。何故。わたし結構いい線踏んでると思うんですけど。


「誘えばいいじゃないですか。いつものノリで夏祭り行こうぜー! って」

「………………」


 あれ、静かになっちゃった。

 ともすれば今まで聞いたことのない声でボソリ。


「いつものノリじゃダメなんだよ……」


 曰く、いつまでもウダウダしていてはいけないと、強く意識すればするほど、自分が万葉のことを好きなんだなと自覚して恥ずかしくなってしまうと言う。

 何だこの可愛い生き物。

 わたしも陽キャだった頃に好きな人がいたから分かる。そうなるよなぁ、やっぱ。


「初心なやつですねぇ。青春してるなぁ……」

「オマエも同じ歳だろ」


 いやいや。わたしはすでに20年人生やってますし。

 つまり、わたしはこの中で一番の先輩だ。さぁ先輩と呼べ!

 おいバカ(愛称)、焼きそばパン買ってこいやー! みたいなのしてー!


「でも案外情けないんですね。そういうのグイグイいけるタイプかと思ってました」

「オマエも案外容赦ないな」


 嫌だなぁ、鈴鹿さんだけですよ。


「大体、オマエだってそうだろ! 誘えたのか? ん??」

「うぐっ!!!!!!!」


 貴様、言っていいことと悪いことがあるんだぞ!

 陰キャが「友だち誘えた?」なんてできるわけないだろうがよぉ!!!!!

 うぅ、わたしだって尊花さんやまゆさんを誘いたいですよぉ……。

 でも囁くんです。裏尊花さんと裏まゆさんが……!


『推し友だけど、女友だちとお祭りはなぁ……』

『まゆさん、彼氏いるんだー。ごめんね!』


 みたいな!

 絶対ありえないけど、そういう妄想をしちゃうの、陰キャだから!!!!!


「人のこと言えないじゃん」

「そっちこそ」


 ……見つめ合うわたしと鈴鹿さん。うん、首が痛い。

 だが、決意を胸にガシッと固い握手を交わした。


「どっちが先に誘えるか、競争しようぜ!」

「そっち?!」

「オマエは何考えてたんだよ」

「い、いえ? 別に」


 一緒に誘おうな、とかだと思ってました。

 いま後ろから背中を押されて崖に突き落とされたみたいな感情だったよ?


「勝った方が今度ジュースおごりな!」

「なるほど……ありですね」

「よし決まりぃ! じゃあ善は急げだぁ!!」

「あ、ちょっと!!」


 握手が解かれた瞬間、速攻でトイレからダッシュする鈴鹿さんを見て、いつも通りだな、と感じてしまった。

 やっぱりバカだあの人。さっきまで悩んでた理由はなんだ。


 その答えを見に、教室へとやってきたら……。


「えーっと。も、戻ったぜ!」

「おう。モンブレの続きするぞ」

「おう! やろうぜやろうぜー!」


 こいつ、流されたな。

 そこには万葉さんが目の前にいるのに、休憩時間に狩りゲー『モンスターブレイク』の続きをする情けない悪友の姿があった。

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