表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/100

第34話:愛と幸福のグラフィティアート

2章完結です

 それからわたしは尊花さんを『監視する』名目で、尊花さんと行動を共にすることになった。

 もちろんずっとではない。トイレに一緒に行くとかはない。そんな変な関係ではないから。


 グラフィティアートの設計図もちゃんと作る。もちろん尊花さんを『監視』しながら。

 んー、この矛盾感。悪いことを正そうとしている人の目の前で風紀を乱す手伝いをしているのだから、なんだか変なの。


「すごいね、ちゃんと描けてる」

「意外と思い立ったらスラスラ描けて」


 それから数日後。出来上がった設計図を見て、にんまりと満足する。

 森林をぼうぼうと燃える炎が優しく包み込む。

 言葉だけでは説明しづらいけれど、矛盾をはらみながら存在している有様は結構面白いイラストだと自負していた。

 無論、プロでもアマチュアですらないわたしが描いたものだから、ところどころ雑なところがある。そこはほら、響さんがなんとかしてくれるはず。アーティストだし。


「でもここのスペル間違えてるよ?」

「え?」


 小説家ってアーティストで合ってるよね?


 まぁそんなこんなで設計図を依頼人である鈴鹿さんに渡した。

 反応は、わかりやすかった。


「すっげぇーーーーーー!!!!! めっちゃいいじゃん! オマエ天才か?!」

「そ、そんなことないですよー」

「いいや、あるね! こんなイラストめっちゃいいって!!!!!」


 いやいやいや、みなまで言うな。

 そんなに褒められても出せるものなんて転生ブラックジョークしかありませんよ? はっはっは。


「で、なんで森を焼いてるんだ?」

「……鈴鹿さんの依頼ですけど」

「え、なんで?」


 本当に分からないという顔だった。

 ま、まぁ。芸術というものは100%他人に伝わることはないだろうし? 別にわたしは気にしてませんよ。気にしてないけど……。


「んー。ん?」


 用紙を180度回転させても何も変わりませんよ、それ。

 まぁいいか、原作でもよく分からないグラフィティアートとかあったし。

 まゆさん、万葉さん。それから響さんにも見せたし、あとはどうにかしてくれるだろう。


「すごいね、美鈴さん!」

「これ、何で燃えてるんだ?」

「さぁな。文章はともかく、イラストはぼくの管轄外だ」


 ……やっぱり泣いていい?

 みんな褒めてくれたけど、肝心の伝わってほしい2人に伝わってないの、つら。


 妥協しながらも、監視という名目は続けてさらに数日後。

 学園内にとある噂が流れ始めていた。


『体育館倉庫裏で森が燃えている』


 いつの間に作戦を決行したのだろうか。わたしも聞いていなかったし、まゆさんも知らなかったらしい。

 ハブられた、というネガティブな感情は珍しくなかった。

 あったのは「もしかしたら」という淡い考え。


「3人が気を回してくれたのかもね」

「だったら、嬉しいです」


 こっそりお昼休みに教室から抜け出して、体育館倉庫裏にやってきたわたしと尊花さん。それからまゆさんは完成したグラフィティアートを目にして打ち震えていた。


「なんか、すごいねー。美鈴さんが作ったものがこうして形になってるの」

「そうだよ、私の推し友はすごいんです!」

「えへへ……。ありがとうございます」


 ところどころ垂れてしまって不格好になっているし、想像していたものとは迫力が足りない。

 それにスペルも間違えたままだ。でも……。


「…………っ!」


 思わず笑みが漏れてしまう。

 こうして自分が作ったものが、他人の手に渡って形になる。

 ある意味では創作者の幸せなのかもしれない。嬉しいなぁ。


「美鈴ちゃん、笑ってる!」

「本当だねー」

「な、何か悪いことでも……?」


 ふるふると震えながら、2人の反応を見る。

 わたし、なんかやっちゃいました?

 まぁ、目の前でやらかしが描かれているんですけどもね。

 尊花さんとまゆさんは顔を見合わせて、笑う。


「「なんでもないよー」」

「な、なんかあるから笑ってるんじゃないんですかー?!」


 鈴鹿さんと万葉さんのカップリンググラフィティアート事件の顛末はそんな感じだった。

 もちろんカプの2人はもちろん、もう一人の実行犯である響さんはそれはもうメタメタに怒られたらしい。


「自分なりの物語、か……」


 月は巡るもの。5月ももうすぐ終わりを告げようとしている。

 後半はマッハで終わった気がしたけれど、それだけ濃密な5月だったと言える。

 カミサマが言っていたことは今でもわかっていない。

 実際にこの世界がどのルートに進んでいるのもわからないし、命の危機がないわけではないと思っている。


 でも、件の神託を信じるのであれば。


「第二の人生、ちゃんとやり直したい」


 ちょっと遅すぎたかもしれない。

 もっと。1年前に始められていれば。募る後悔はある。

 けれど後悔の積み重ねの先に、今のわたしがいるのなら。

 そんな『わたしの物語』も悪くない気がしてきた。


「……って言っても、6月はあのイベントがあるんだよなぁ」


 来る6月15日。

 チェックマークの付けられたカレンダーの意味するものは……。


「ヒロインとの告白イベント……」


 世紀の主人公とヒロインがくっつくイベントが間近だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ