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第30話:陰キャの悪ノリは大抵厄介

気づけば30話

 んなバカな。


「んなバカな」


 つい声に出てしまった。

 わたしが男の人を好きになる? ムリムリありえない!

 もう恋愛なんて懲り懲りなのに、ただでさえ苦手な男の人を好きになるとか天地がひっくり返ったってありえない。

 どこをどう誤解したら、鈴鹿さんはわたしが万葉さんのことを好きだと考えるのか。


「バカじゃねぇよ!」

「あ、すみません……」

「いや、そうじゃなくってだなぁ……。はぁ、オマエ相手だとなんか調子が狂うな……」


 そりゃあ陰キャですもん、調子だって狂いますよ!!

 陰キャの陰の力は自分のネガティブ思考だけではなく、他の人にも悪影響を及ぼすのだ! ふーははは!!! 死にたい……。

 いつもの転生ジョークはさておき、死ぬ前に万葉さんが誰ルートに行くか興味はあった。

 だって主人公とは言えども、周りはハーレムですよ。誰を彼女にするかぐらいちょっと年老いた20歳からしてみれば気になるわけで。

 気分はいつだって近所のお姉さん。どうも、相沢美鈴です。


「つーか、突然どんな風の吹き回しだよ……」

「わたしは別に万葉さんのこと好きでも何でもないですけど」

「はぁ?!!」


 ちょっと大きな声で怒鳴らないでほしい。ビビるし、現に怖い。


「じゃあなんだよ、万葉のこと聞きまわってたろ」

「……?」


 はてな。わたしそんなことしたかな。

 思い出すのは数日前からのグラフィティアート活動。


 「ということで誰か好きな人はいますか?」

 「はい。まゆさんにはいないのかなー、と」

 「えっと、好きな人がいるかなー、と」


 よみがえる記憶。はたから見たら誤解しかねない人選ラインナップ!

 グラフィティアートの設計図を描くために万葉さんの好感度を聞きまわっていたのが、最終的に裏目に出てしまっていたらしい。

 そりゃ異性に好きな人がいるか聞いたり、周りの同性に質問したりしたら誤解するか。

 確認の意を込めて、わたしはその回答を口にする。


「ひょっとして、グラフィティアートの件ですか?」

「どうして絵の話になるんだよ」

「えっと。周りの人に聞いて参考にならないかなー、と」

「……それで好きな人を聞きまわってたってのか?!」

「…………はい」


 最後はもう尻すぼみだった。

 冷静に考えてみたら、好きな人とグラフィティアートは何一つ関係がないというか、間にある『イベントの仕様』を完全に無視して空回っていた。

 しまったなぁ、知識が足を引っ張って純粋に目の前が見えてなかった。


「はぁ……。じゃあ美鈴は万葉のこと好きじゃないってことでいいんだな?」

「未来永劫ありえないと思います」

「そっか。……そっかぁ」


 返しがだいぶトゲトゲしかった気がするけど、それよりも気になったのは鈴鹿さんの顔だった。

 わたしが万葉さんのことを好きじゃないと聞いた瞬間、張り詰めていた緊張を一気に解いたように安堵の表情を浮かべたのだ。

 心底安心したような。まるで、競争相手がいなくなったかのような。


 そういえば鈴鹿さんって、万葉さんのこと好きな設定あったなぁ。

 ……ひょっとして。


「鈴鹿さん、万葉さんのこと好きなんですか?」

「え? …………えっ?!!! いやいやいやいや!!!!!」


 教室中のクラスメイトが一斉に鈴鹿さんの方へと目線を向ける。

 うるさかったからだと思うけど、その反応は流石に予想外だよ……。そんなオーバーリアクションされながら、耳を髪の色のように赤くしたらバレますって。


「はっ! あー、いやいやいや。ははは……」


 鈴鹿さんが笑って誤魔化した直後、わたしの腕がものすごい勢いで引っ張られた。

 一瞬空を飛んでたか? そのぐらいの勢いだったと思う。

 気づけば階段室。え、いまワープしてきた?


「オマエ! 絶対言うなよ! 言ったら分かるよな?!」

「大丈夫ですよ、言いません言いません」


 あ、わたしの内なるわたしがくすぶりそうになってる。すごく弄りたい。


「でもそうですかぁ、あんなに雑に扱ってた相手のことがそんなに好きだったんですかー」

「そ、そうじゃねぇし!」

「じゃあ嫌いなんですか?」

「そうでもない……」

「好きなんですか? 嫌いなんですか?」

「…………オマエ、アタシを弄って遊んでるだろ」


 バレました?


「でも聞きたいんですよ。ちゃんと応援しますよ!」

「……意外と恋バナにグイグイ来るんだな」

「他でもない鈴鹿さんですから!」

「……はぁ」


 観念したように階段室の壁に額を当てる。

 熱くなった顔を冷やしているのだろうか。どちらにせよ、髪の色より赤くなった顔を冷やすのは容易なことではないだろう。かわいい。

 こちらにこっそりと視線を傾ける。


「絶対言うなよ」

「言いませんってば」

「…………好き、だよ」


 っはー! なにこのメインヒロイン!

 ツンデレだ! ツンデレだわこの子!

 久々にギャルゲーの恋愛要素を摂取して、お姉さんテンション上がっちゃいますよ!


「もう言わない……」

「うずくまらないでくださいよー!」


 陰キャはこういう悪ノリには全力で乗りすぎてしまうもの。

 そのまま壁沿いに丸く体育座りになる悪友枠、もといメインヒロインをニヤニヤしながら背中をさする。


「わたしでよかったら応援しますから!」

「……頼りにならない」

「ガーン」


 そ、そこまで……。

 いや! ここでくじけてなるものか。弄りがいのあるおもちゃ、じゃない! 応援したいかわいい子を置いてなるものか。


「グラフィティアートでそういうの、頑張ってみます」

「……どうやって何をするんだよ」

「…………がんばります」

「やっぱ不安だ」


 まぁここまでやって何も思いつかないわけがなく。

 鈴鹿さんの恋の応援をどのように描こうか頭の中で試行錯誤しながら、わたしは彼女の背中を撫でるのだった。

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