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第28話:恐怖! 義姉は小説家!

 櫻井響、という人物をご存じだろうか?

 知らない? まぁそうだよね。では一から説明したいと思います。


 櫻井響はその名の通り、原作主人公である櫻井万葉の義姉にあたる人だ。

 さらにはメインヒロインでもあり、万葉さんと絡む機会が特に多いキャラクターである。

 幼い頃、両親が離婚した響さんの母親は劇中の2年前に再婚。そこで万葉さんと出会うこととなった。


 自身は小説家でもあり、大手出版社の新人賞に受賞するほどの実力の持ち主だ。

 わたしもちょこっと文章を書いたことはあったけど、まとまりがなさすぎて、ぬわーっと投げ出したほどなので、かなり頭がいい。

 学園では2年生の主席であるとともに、変人だ。


 図書室にやってきたわたしたちはその在り様をまざまざと目撃することになる。

 部屋の一角。人気がないところに壁のように立ちふさがる山積みの本。

 まるで人を拒んでいるようにも見える本の山は、少し触れば崩れ落ちてしまいそうなほど脆いようにも見える。


「義姉さん、相変わらず掃除が下手くそだなぁ」


 下手くそとか、そういうレベルか?!

 むしろ部屋を汚くする天才なのでは。


 よく言えば天才。悪く言えば変わり者。学園のつまはじき者である彼女は、こうやって人との距離を本で物理的に遮っていた。


「………………」

「……無視を決め込んでるな」


 返事は無視。うーん、このわたし以上のコミュ障具合。

 わたしだって声が聞こえたら返事ぐらいする。「ピエッ!」とか「ひょい!」とか奇声を上げて。


「義姉さんに会いに来たんだけど」

「んん? ……ふあぁ。誰だい?」


 この女、寝てたな?


「おーい、響のねーさんやーい! 早く出てこーい」

「図書室では静かにするのがルールだぞ、このバカ」

「バカって言うなよ!!!!」


 静かだった図書室が途端にうるさくなる。さすが鈴鹿さん。声もそうだけど、ジェスチャーもうるさい。

 わたしもほっといてほしい時はあるけど、今はそうじゃないんですよ響さん。


「まぁいいか。ちょっと待っていたまえ」


 よいしょ、と起き上がる声が聞こえれば、そのまま本の壁を隙間を縫うようにしてこちら側まで姿を現す。

 おぉ、予想してたよりもちっちゃい。

 身長139cmとサバを読む気もない身体にぼさぼさと手入れをしていない黒髪。

 眠いのか、目が半開きのまま。それに制服もぶかぶかだし、なんというかただの無気力な子供に見える。

 これが年上だって言うんだから冗談も休み休み言ってほしい。まぁ、わたしもちょっと前まではこんな感じだったけど。


「なんの用だい?」

「用っていうか、なんというか……」


 本当に不機嫌そうな顔してるな、この人。

 類に漏れず、これで万葉さんを好きなんだから大した度胸をしている。

 クーデレってやつなのかな。それともダウナー系。どちらにせよ愛され系なんだよなぁ。響さんのデレた顔とかそりゃあもう、たまらんのよ。イベントスチルが本当に好き。

 あ、一番好きなのはもちろん尊花さんなんですけどね!


「本当に実在するんだね」


 こそこそとわたしだけに聞こえる音量でまゆさんが呟く。

 流石に失礼だと思うんですけど。


「まぁいい。そんなにぼくの知恵が必要かい? 天才である、このぼくの!!」

「図書室は静かにって言ったのは響の方だろ」

「なんだ馬場、まだいたのか」

「なんだこいつーーーーーーー!!! 腹立つわやっぱ……っ!」


 そして鈴鹿さんと非常に相性が悪い。バカと天才は紙一重だというのに。

 いや、この世には同担拒否という言葉もあるし、同じようで違うのかもしれない。知らんけど。


「静かにしろ。義姉さん、何かやりたいことないか?」

「はぁ?」

「なんつーか。これからバカ騒ぎを起こしたいんだけど、内容が決まってなくてな」

「バカなのは義弟の頭とこいつだけでいい」


 怒り心頭に髪の色と同じ色に染めあがる顔を必死で抑える。

 ケンカを売らないでほしいんだけどーーー! なんというか、とある人の地雷がそこにあるからやめてほしい。


 ケンカを仲裁するように、まゆさんは前に出ると事のあらましを説明し始める。

 と言っても内容は先ほど万葉さんが言ったように、バカ騒ぎする材料が欲しいというものだ。


「ほうほう。それで、この"天才"であるぼくが抜擢されたわけだ」

「まぁ、そうなるな」


 自分で天才って言うの、バカっぽいけど、実際天才だからなぁ。

 「とはいえ」

 響さんはそう言って、椅子に座る。


「漠然と面白いこと、と言われても何も出せないのが常だ。きみたちも分かるだろう?」

「それは、そうですけど……」

「1から10を作るのは簡単だ。元となる1があるのだからね。だが0は何をかけても0だ。無からは何も生み出せない」


 的を得ている。その通りこの状況ではあまりにも意見を出せないのが現状だ。

 よし、ここで原作通りに事を進めるとしよう。

 えーっと、そこに画集がある。あれを借りるとしよう。


「あの……。じゃあ、イラストとか、どうですか?」

「イラスト?」

「画集があったから、言ってみたんですけど……」


 大丈夫かな。ちゃんと乗ってきてくれるかな。

 そんな不安をかき消すように鈴鹿さんが笑い飛ばした。


「バカ騒ぎにイラストはないだろー!」

「……イラスト、か」

「お、おい。まさかそれで行くとかじゃないよな?! アタシ絵心ないぞ!!」

「………………」


 画集を手に取って、パラパラとページをめくる

 沈黙の時間を審判を待つ罪人のような気分で響さんの決断を待つ。

 ピタリ、と手が止まる。たまらず覗き見るように鈴鹿さんが本の内容を見た。


「ぐらふぃてぃ?」

「世の不良どもがやっているだろう、橋の下の壁に描く落書き。あれをもっと芸術的観点から見た作品だ」

「へぇ……」


 机に広げられた資料を見てしてやったりと口がゆがむ。

 まさにゲームの展開通り。わたしの話術誘導が恐ろしいね。ふへへ。


「これ、いいんじゃないか? ちょうどいいのが体育館倉庫にあるだろ!」

「倉庫の壁だねー。なんか面白そう!」

「弥生もそういうの乗る方なんだな」

「まゆさんも在りし日を思い出す出来事は多ければ多いほど、いいと思っているのですよ」

「んじゃ、決まりだ!」


 とんとん拍子に決まっていって、ちょっと怖いけどゲームの展開通りだし別にいいか。

 そんな感じで今後はグラフィティを作ることに決定した。もちろん無断で。

 怒られないように立ち回らないとなぁ。わたしは陰キャだから大きな声が苦手なんだよ!


「じゃ! 美鈴、任せた!」

「……へ?」


 赤い稲妻の如く胸元に突き刺さった鈴鹿さんの言葉は、わたしが怒られる展開までが容易に想像できた。

 まぁじでぇ。

レインボーアートデラックス

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