第27話:ついに始まるゲームイベント
美少女ゲーム『ライクオアラブ』のゲーム内イベントのひとつに悪友ポジションの馬場鈴鹿からの呼び出しがちょくちょくある。
というのも、大抵の場合トラブルの発端になるのが彼女なのだ。
いわゆるトラブルメーカー。しかも意図して起こしているタイプの。
いつも尊花さんの頭を悩ませていながら、わたしからの好感度が高い理由は「バカだからな」の一言に尽きる。
トラブルの内容。その問題が、ヒジョーにしょうもないのである。
「なぁなぁ! 5月ってなんもないよな!」
尊花さんにバレないように教室を脱出。その足で廊下の階段を上り、屋上手前の謎の空き部屋。もとい階段室にやってきたわたしとまゆさん。それから鈴鹿さんと万葉さんに綿密な計画なんてものはない。
「そうだねー。GWも終わっちゃったしー」
「よし、じゃあなんかしようぜ!」
なんか。その「なんか」に大抵の登場人物が振り回されていた。
確か共通ルートでの悪だくみって『グラフィティアート』だったっけな。壁に塗料で落書きする話。
思ったよりもゲーム内のイベントが進行しているみたいだ。
こういうのは最初に語っておくべきだった。
主人公である万葉とメインヒロインの3人は4月、5月に爆速で距離を縮めて、6月の夏祭りで告白する流れがゲームの進行だ。
自分のことで精一杯だったけど、気づけば共通ルートも中継地点を折り返してきたところ。
いわゆる、急接近するイベントがこのグラフィティアートイベント。
そして尊花さんがメインヒロインになれない理由もここにあった。
「何やるにしたって、バカの言うことだ。どーせろくでもない事だろう?」
「バカって言うな! それにろくでもなくない! 楽しいことだ!」
「その楽しいことで人を困らせないようにな」
暴走する鈴鹿さんと意外とノリがいい万葉さんにかき回され、頭を痛めるのが尊花さんのポジション。
そんな彼女がメインヒロインになるとすれば、万葉さんが鈴鹿さんを制止する側に回らなければならない。
お察しの方はもうわかるだろう。このイベントが始まると、尊花さんのルートはもうなくなってしまうのだ。
「ま、楽しい事の内容によるけど」
「だろっ?! じゃあ何するか考えねーとな!」
あ、いま尊花さんのルートが消えた。
ファンディスクではここを何とかしてくれると思ったんだけど、どうやらファンディスクの時空ではないらしい。あー、尊花さんルート見たかったなぁ……。
それをはた目から見てニヤニヤするんだ。ホントこの委員長かわいいなーっておちょこで砂糖水を一飲み。甘ったるいぜ……。
「なんかあるか、美鈴」
「ぴえっ?!」
妄想してたら鈴鹿さんが不意打ち気味に殴ってきた。
声をかけられてものすごい勢いで小鳥の鳴き声と一緒に首を振る。
「な、ないです!!!!」
「オイオイ、そんなに怯えんなよ。さすがにアタシもへこむぞ」
「す、すみません……」
だって身長差はさておきとしても、ちょっと不良っぽい赤髪と刺々しそうな上からの視線がわたしを小鳥にさせるんだ。ぴよーんぴよーん。ほら。
要するに鈴鹿さん、目の前にすると結構怖い!
「むー! 美鈴さんを泣かせたら、めっ! だよ?」
「アタシ何もしてねぇって!」
「馬場はこういうやつだからな」
「万葉までー! オマエ、後で覚えてろよ……」
「なんで、俺なんだよ……」
それは主人公の役得ですよ。いじられ役、うーん。主人公って感じ。
ここに主人公を甘やかすお姉さんがいればいいんだけど、万葉さんの義姉ってあの人だからなぁ……。
「まぁ、こいつには慣れていくしかないだろうな」
「は、はい……」
「美鈴さんよしよーし」
頭をなでられて気づいた。確かまゆさんがその甘やかす立ち位置だったはずだ。
でもなんでわたしが撫でられてるんだろう。
しばらく考えて気づく。そっか、わたしが原作よりも情けない奴だからか! はっはっはっ!
とか冷静に考えてないと、まゆさんに頭をなでられてる状況で死んでしまう!
女神はおそらく光の即死魔法を持っているのだろう。てか今かかってる! 被弾してる! 一撃必殺で1mone入っちゃうよ!
「あひゃー……」
「弥生もその辺にしておけ。……その、相沢が今にも天へと昇ろうとしている」
あー、まゆさんの苗字って弥生だったっけー……。
まゆさんがその手で溶かしているみたいに脳みそがいい感じにぽあぽあしている。このまま中身吸われるのかなー、ストローとかで。
「あっ! ご、ごめんね、美鈴さん!」
「べつにいいですよ~」
「ありゃ屋上に出たら風でひとっ飛びな顔してるぜ」
「いっそ出してみるか」
「やめてー!」
陽キャの会話をしている気がする。まぁ、なんと言いますか。尊いなぁ、天界会議みたいだ。
「冗談はさておき。こういうことは年の功って言うし、義姉さんに聞いてみるか」
来た!
ぼんやりとしている場合ではない。気持ちを切り替えて、その方向へと舵を切ろう。
「えー、響か……」
「なんだ、嫌なのか?」
「嫌ってわけじゃないんだけど、さぁ……」
煮え切らない鈴鹿さんには申し訳ないけど、ここは義姉、響さんイベントに誘導させてもらう。
まゆさんの制服の裾を引っ張ってから、響さんを知っているかどうかの旨を伝える。
もちろん彼女が面識がないことも折り込み済みだ。
「櫻井響さん……。ってあの響さん?!」
「あの、ってなんだよ。一応俺の義姉だぞ」
「まゆの言う通り、"あの"響さんだよ。学園のつまはじき者で、2年主席の変わり者」
『ライクオアラブ』のメインヒロインであり、唯一の年上キャラ。
それこそが櫻井響。文字通り万葉さんの義姉にあたる人だ。
「んじゃあ行くか」
「うげー、行くの?」
「嫌か?」
「いやぁ……。まぁ、行く」
「弥生と相沢も行くだろ?」
「うん! 実は気になってたしねー」
まゆさん、意外とノリノリだなぁ。これが陽キャというわけか。
……ん? 待って。もしかしてわたしも参加する流れですか?!
有無も言わさず、3人とも歩き出したんだけど!
ま、まぁいいか。どのルートになるか気になってたし。
嫌がる鈴鹿さんとノリでついていくことになったわたしは、彼女が住まう図書室へと足を運ぶのだった。




