第26話:抱き着く女女は健康にいい
「はぁ……推し、いい……」
誰にも聞かれないぐらいの音量で、昨日のことを思い出してニヤける。
1日いっぱい最推しである尊花さんと一緒にいれて、わたしはニヤニヤが止まらないのである!
いやー、だってさ! 推しがさ! 熱心にさっ! 看病してくれてるんだよ?!
はい、あーんってして! とか! 汗かいた? タオル使う? とかさーーーーー!!
そんなイベント、欠片もなかった気がするけど、わたしの中の美鈴さんで妄想するので大丈夫です!
「にへー……」
「尊花さんが元気そうで、まゆさんも安心ですよー。うむうむ」
「……はっ?! まゆさん!!」
そんなことを考えていると、登場してきたのはゆるゆるふわふわ系超絶怒涛かわいいのお姫様、弥生まゆさんだ!
いやぁ、マジでかわいい。1日ぶりだけどやっぱりかわいい。尊花さんほどではないけれど、推しなんだよなー。だってかわいいし!
というか『ライクオアラブ』の登場人物全員推し! 箱推しです! サインください! みたいな。
「恥ずかしいところを見られた……」
「大丈夫だよー、元気なのは伝わってきたから!」
「ま、まぁ……」
昨日尊花さんが休んだ理由がわたしであることを知られてはいけない気がする。
多分気のせい。先に尊花さんが言ってそうだしね。
「まゆさんも美鈴さんのおうち行きたかったなー」
ほらやっぱり。尊花さんは手が早い。
「あはは、なんもないですよ?」
「そんなことないよ! きっとかわいいフリフリのお洋服がいっぱいあるんだよー!」
それは……。その通りでございます。
我が家にはいただいたアイドルの衣装がいくらかあったり、お母さん(今世)もしくは相沢美鈴(わたしじゃない方)の趣味によって膨大な数のお洋服がある。
わたしが前世で持ってた服の云倍はあるんじゃないかな。これだけあったら毎日着ていく服が多くて大変そうだなー。とかは考えてた。
「でも美鈴さん、そういうファッションには無頓着そうだし」
「あはは、ご明察通り……」
「だから変なんだよねー。こー、服は持ってるのに着慣れてない感じが。あべこべだよー」
中身が違いますからね。
滝汗を心の中でかきながら、このために用意した言い訳砲を発射する。
「見てるのは好きだからつい買うんですけど、着慣れないものがいっぱいあるから……」
「わ、わかる!」
分かってくれたか、我が推しにして同士よ!
実際見てるのはすごく幸せな気分になるのは本当。これは転生特典とも言うべきチート技能のひとつかもしれない。技能でも何でもないけど。
時たまクローゼットから取り出して、身体に合わせてみたりするし。
まるでお洋服のデパートやー!
この比喩表現、ぜんぜん比喩になってないな。
それはともかく。着慣れてないから、集めるのが趣味、ということにしている。
ね、それっぽい言い訳でしょ?
「すごいなー。やっぱり今度遊びに行ってもいい?」
「えっ?! ……えーっと」
自分の家を見られるのってすごく恥ずかしいのに、まゆさんは一切の抵抗がないのだろうか。
これが陽キャの光。まぶしすぎる。
「おっ! 美鈴にまゆじゃん! おはよう!」
「鈴鹿ちゃん、おはよー!」
「おっ……。おはようございます……」
陽キャの光がまたひとつ輝いている。
まぶしすぎて灰にならないかヒヤヒヤしつつ、鈴鹿さんに挨拶を返した。
鈴鹿さんって、スタイルいいよなぁ、ホント。
首を上にあげないと顔が見えないぐらい身長高いし、気まずくて下を見たら細長い脚部が少しまくられたスカートにぴったり合っている。
この女、本当にずるいなぁ。
「ちょっと見ない間にまた縮んだか?!」
「…………」
「鈴鹿さん、それは失礼だよー!」
こういうところは本当にバカと言われる由縁だなと言わざるを得ない。
「だってよー! ちょっと美鈴立ってくんね?」
「あ、はい」
鈴鹿さんの隣に立つ。横を見る。胸だ。
はぁ?! 胸?! このまま抱き着いたら胸にダイブじゃん?!!
「アハハハハハ!!! オ、オマエ! 頭のてっぺんがアタシの肩じゃん!!!」
そ、そこはかとなく腹立つーーーーーーーー!!!!!!
そうだけど! 事実はそのぐらい身長差あるけど!!!
それはそれとして背中をバシバシ叩いてくるの、めちゃめちゃ体格差を意識させられてムカつくーーーーーーー!!!!!!
この野郎。陰キャがこのまま黙っていると思うなよ?
この! 聞いてるのかこの!
……陰キャだから黙ってるんですけどね。言いたいことも言えないこんな世の中じゃポイズンだよ。
不意に、まゆさんと目が合った気がした。
大人しく叩かれているわたしに何か物申したいことでも?!
できればこの状況を助けてほしいのですが。
「まゆさんもこのぐらいだねー! よいしょー!」
「おっ?」
「お"っ"?"!"!"!"!"」
思わずわたしが汚い声を出してしまった。
え、なに? 今まゆさんが鈴鹿さんに抱き着いてる!?
なんで?! でも尊い! 女女のボディタッチ尊い!!
「おーどうしたどうしたー! オマエも小さいなー! アハハ!」
「鈴鹿さんが大きすぎるんだよー!」
なんか親子を見てる感じ。
両腕をがっしりホールドして、逃げ場を失わせているみたいな……。ん?
まゆさんがわたしに対してアイコンタクトをする。ウィンクだ。
もしかして、わたしを助けてくれたの? それも後味が残らない感じに?!
すご。陽キャの気遣い、すご……。
「……きみら何やってるんだ」
「おっ! 万葉じゃーん! ちーっす」
「まゆさん万力ー!」
「うぎゃー! ハハハ!」
そんなことを言ってたら櫻井の万葉さんが乱入。
まゆさん、もういいのでは? 途中から自分も楽しくなっているんじゃないの、それ。
「相沢も。よっ」
「あっはい……」
男の人がやや苦手なので少し後ずさる。
いい人なのは間違いないんだけど、いい人すぎてちょっと怖いんだよなぁ。
「悪いな、バカがいつも」
「いえ、いつも通りですから」
多分この人最初から見てたな?!
まぁ面白い箇所ではあったけど……ん? この状況、どっかで見覚えがある気がする……。
詳細な部分は違うけど、見覚えがある。なんだったっけ……?
「おいバカ。市川がいない、今がチャンスなんじゃないか?」
「ん? おぉ、そうだったな!」
まゆさんが静かに離れ、代わりに疑問符を頭の上で浮かばせる。
なに? 何の話? 2人付き合うことになりました的な?
「ちょっとお前ら、放課後ツラ貸せよ!」
「へ?」「ぴえっ?!」
まるで不良のように顔を貸せと言われた。
覚えがある。これ、ゲームのイベントだ!!




