最終話:クラスの委員長と友だちに救われた話
それからどのぐらい経っただろう。
落ち葉がカラカラと地面を鳴らす季節が過ぎ、枯れ木に雪が乗る季節ももうすぐ終わりを告げそうだった。
それでもわたしの恩返しの計画はあんまりにもずさんすぎて、何も思いついていなかった。
「勢いで行ったけどなぁ……」
「何を考えているの、奈緒ちゃん」
「あ、お母さん」
ダイニングテーブルで夕飯を待つついでに、ぐでーっと考え事をしていたらご飯が届いてしまったらしい。
並べられるお皿に茶碗が、お腹の減りを刺激した。
「なんと言いますか。普段お世話になってるみんなにお礼をしたいと言いますか」
「お礼、ねぇ……」
「何も思いつかないわけじゃないけど、具体的にこれがしたい! ってのがあんまりなくて」
今日はチキン南蛮か。美味しい。
もぐもぐと箸を進めながら考える。
行動に起こさないと、そう焦るばかりで具体的なアイディアはまったく思いつかない。
「いいんじゃないかしら、それでも。わたしにしてみれば、奈緒ちゃんが普通に学校に通っていることが十分幸せだけどね」
「うぅ、その節は大変お世話になりました……」
「いいのよー」
人の望みはきっと誰しもが違うものだろう。
だからすべてを叶えるお礼を一挙には出来ない。
……でも全ての人が好きなお礼っていうのは、存在するんじゃないだろうか。
「お母さん」
「ん? なぁに?」
「ありがとう、2年もわたしのことを見ていてくれて」
コトノハはこういうことに使えるんだ。
わたしに関わってくれた人すべてに感謝の気持ちを込めて「ありがとう」を伝える。
まずはそれでいいか。
「ううん、こっちも愛娘が2人になって嬉しいわ!」
◇
「ふあぁ……。ねみぃ」
「鈴鹿さん、春休み何してたんですか?」
「寝てた。春眠暁を覚えずとかなんとか言うだろ? だからずっと家でゴロゴロ……」
ごめん、お礼を言う気失ったわ。
この人実は恋人という地位に甘えて、何もしていないのではないだろうか。
少しケツを蹴ってやろう。
「鈴鹿さん、知ってました?」
「ん。何をだ?」
「半年以内にそういう行為に持ち込めないカップルの90%だかはさっさと別れるらしいですよ」
「……へ?」
風のうわさで聞いただけだけど、半年も付き合ってたらだいぶ気持ちなんて離れていくわけで。
悲しいなぁ。わたしは目の前で万葉さんと鈴鹿さんが別れるところなんて見たくないなー!
「な、なんだよ! 急に脅しか?!」
「最近なんか変化とかなかったんですか?」
「変化……。何もなさすぎて…………」
あ、鈴鹿さんの身体が止まった。それはもう石化のようにガッチガチに。
「な、なぁ。オマエんところはどうなんだよ。3人だろ? その。してるのか?」
「たまに……」
わたしも堕ちるところまで堕ちたものだ。
初心な佐山奈緒はもういない。男よりも弱点を知り尽くされた女の方が気持ちがいいと脳が判断してしまったのだ。
要するに身も心も完全にレズに堕ちてしまった。
全ては尊花さんとまゆさんのせい、ってことにしておこう。
「ちなみにそっちは?」
「…………まだしたことない」
「はぁ?!!」
「だってよぉ!! 恥ずかしさとかなくなったら、前みたいな友だち関係になった感じがしてすげー居心地いいんだぜ?!」
な、情けなさすぎる……。
尊花さんやまゆさんですらあんなにも強かったのに、この女と来たら。
強そうなのは見た目と語気だけかよ!!
「それじゃあ響さんに取られてるのも時間の問題かもしれませんねぇ」
「はぁ?! 響ねーさんは……。いや、あながちありそうっていうか……」
「百合小説で再ブレイク。わたしたちがネタを提供してるから続編も書き放題。懐にはお金がガッポガッポ」
「…………」
ぶっちゃけありえないと思う。響さん仕事が忙しそうで、高校も最低限しか行けてない。
そんな暇があったら、小説書いてる、なんて人だし。
でも焚き付けたら、この人ならヤる。
「ど、どうすりゃいいかな?」
「鈴鹿さんの部屋に呼んで誘ってみるとか。あとはホテルとか?」
「春休みの内に、決着着けてくる」
「頑張ってくださいねぇ」
万葉さんも紳士とは言え、好きな女に欲情しないわけがない。
これも2人が長続きするために必要なことなんだ。頑張れ、鈴鹿さん。
「ところで、2人へのプレゼント、どうしたらいいですかね?」
「んぁ? んー……」
◇
「進捗どうですか?」
「最悪だ……」
別の日。
響さんに誘われて、いつものようにわたしたちのことについて話そうとしたらこれだ。
「進まないんですか?」
「2人だけじゃ煮詰まった。新キャラ出したい」
「えぇ……」
そういう症候群ですか。わしにも覚えがありますよ。
「でも教える代わりに3人だけじゃないとダメって言いませんでした?」
「話のデパートリーがそう簡単に生み出せると思うなよ?!!」
「それは経験不足なだけなんじゃないんですか?!!」
喫茶店で2人で怒鳴りあったら、マスターに怒られた。反省。
「まぁそれは否めないがな。何ぶん百合物なんてそう簡単に正解にたどり着けるものでもないだろう」
「正解なんてあるんですかね?」
「あったら世間一般で肯定されているだろうさ」
それはそうなんですけど。
わたしたちだって表向きではなかよし友だち3人組ってことで通っている。
ちょっと悔しい一面はあるけど、興味本位で関係をグチャグチャにされたら溜まったもんじゃないし。
「異世界ならともかく、舞台は現実世界。デートしてキスしたらあと何がある?」
「経験なさそうですもんね」
「そこを突かれると痛いな。せめて参考資料がもっとあれば……」
参考資料ねぇ……。響さんだって見た目をもうちょっと整えたら可愛い女の子に……。
嘘付いた。癖のある可愛い女の子になると思うんだけどなぁ。
響さんには仕事になると、一辺倒になりがちな性格だ。だからもっと自由にいろんなことをすればいいとは思う。
「響さんも恋人作ればいいんじゃないですか?」
「はぁ……。バカ言え、こんな変人を好むやつなんかいないさ」
おっしゃる通りで。
でも最初から諦めているよりは、少しでも可能性を勝ち取っていくのは、悪くないことだと思う。
少なくとも創作にはファンタジー要素とリアリティ要素をバランスよく入れた方が、面白くなるんだから。
「ただ、肝には命じておくよ。ぼくにも出会いがあればな」
「そうですね!」
まぁ、見た目ロリで文系で、ものぐさだけど小金持ちの女子高生とか、その手のマニアなら喉から手が出るほどの物件だと思うけども。
◇
「桜、まだ咲いてないねー」
「だねー。もうちょっとかなー」
春休みももうすぐ終わりという時期。
わたしと尊花さん。それからまゆさんは3人で近くの公園へ遊びにいっていた。
デートですよ、デート。付き合って半年も経つからだいぶゆるい感じだけど。
「というかやっぱまだ寒い。自販機にあったかいやつあるかなー」
「そう言うと思って、先に奈緒ちゃんと一緒に買ってきましたー!」
「あーずるーい! ありがとー」
おしることコーンスープとオニオンスープ。
とりあえず3つを公園の机の上に置いてみた。何がほしいさぁ言ってみなさい。
「まゆさんはコーンスープかなー」
「わたしはオニオンで」
「じゃあおしるこー」
カポッとホット缶特有の少し鈍いプルタブの音を聞きながら、椅子に座ってあたたかいスープを飲む。
んー、安心する味だ。
「もうすぐ新学期ですね」
「ねー。はぁ、面倒くさいなー」
「尊花さんみたいな優等生がそんなこと言っちゃうんだー」
「私だって出来ることならこの3人で居たいですー! 委員長立候補しなくても、指名されそう」
「尊花さんならありえますね」
「むー!」
隣の尊花さんが肩で少し突いてきた。痛くないし、なんならかわいい。
「その前に、クラス替えで離れ離れにならないといいねー」
「げっ……。わたしだけ一人ぼっちとか、死ぬほど嫌なんですけど」
「また自己紹介で噛んじゃうかもね」
「その話はやめてくださいよー!」
くすくすと左右で笑う2人に呆れながら、スープを口にする。
そっか。もうすぐ2年生なんだもんね。なんか長かったようで短かったような。
時間の感覚が1年前よりずっと早かった気がする。
それもこれもきっと2人のおかげなんだろうなぁ。
「ありがとうございます、2人とも」
「ん?」
「どうしたの、奈緒さん」
「わたしの恩返し週間みたいなのです」
「あったねー、そんなこともー」
文化祭の終わり以降、カミサマは姿を現すことはなかった。
もちろん居られても困るんですけど、いなかったらいないで、微妙に寂しかったりもする。
けどこれも巣立ちだと思えば、まぁいいか。
「ホントによかったの? ここに残ることになって」
「なんですか尊花さん、急に改まって」
「結局本当のお母さんには会えないままだからさ」
向こうの世界もきっと何かしらで美鈴さんがいろいろしてるとは思う。
ゲーム内の彼女もとても活動的だったし、何よりアイドルとしての誇りを持ちながら活動していた。
わたしの身体を間借りした時に、ショックを受けてそうなのがなんとなく想像できてしまう。
まぁ、だけど……。
「わたしは尊花さんとまゆさんの2人に出会えたこの世界が好きですし、なにか恩返ししたいなーって気持ちでいっぱいですよ。そこに後悔はありません」
「ならよかった」
そう言って尊花さんはわたしの肩に寄りかかる。
負けじとまゆさんも寄りかかって、わたしが大黒柱みたいに動いたら2人とも崩れてしまうような体勢になってしまった。
「奈緒ちゃん、大好きだよ」
「まゆさんも一番好きー」
あ、あば……。唐突に告白されてしまった。
でも今なら穏やか3割、ドキドキ7割の調子で言えることだろう。
「わたしも、2人が大好きです」
冬が過ぎて、もうすぐ春になる。
春になれば思い出すのは尊花さんとまゆさんの思い出。
2人と出会えたことに感謝する春がやってくる。
それから夏が巡って、秋が来て、冬が訪れる。
1年は1周して、また新しい1年になって。
わたしはそのことに感謝するだろう。
――ありがとう。わたしを救ってくれて。って。
◇
アイドルに転生したわたしは無事に陰キャになったが、クラスの委員長に救われた話
完
お読みいただきまして、ありがとうございました!
何度も挫けそうになりましたが、なんとかドル転最終話を迎えられて何よりでした
感想をいただけたり、いいねを押していただいたり、本当に励みになっていました!
詳しくは活動報告で何か書くかもしれません。忘れてなければ……。
以上! 改めてありがとうございました!




