第5話朝起きると
お待たせ致しました。
目を覚ますと、既にカーテンの隙間から光が差し込んでいた。
夜にあれだけ痛かった全身の痛みや熱さが嘘だったかのように治まっている。
「ああっ」
唯一少し痛む喉も少しいつもより高くて変かもしれないが、出ないわけじゃないので、あまり無理をしなければ問題ないだろう。
ベッドから起き上がり、あくびをしながら洗面所へ向かう。そのまま顔を洗い、自分の変わり果てた髪を見ながら歯磨きをする。
昨日より髪が伸びたろうか?
肩くらいしかなかった髪が今では完全に背中上あたりまで伸びている。
しかし、あの夜の痛みとかは何だったのだろうか?
髪が到底有り得ない程に伸びはしたが、それだけではあんなことにはならない筈だ。
恐らくだが、髪と同じように俺の身体の何かが変わってしまったのだろう。
歯磨きを済まし、買い溜めしていたパンの袋を開けかぶりつく。
その時ついでに注いだ牛乳を間に挟みながら食事を済ませていく。
そして食事を済ませコップを洗い終えたら、制服に着替える。なんかいつもよりも大きく感じるが、気のせいだと思いたい。
そう思いながら靴下を履いていると、玄関のチャイムが鳴った。
「はいはいー」
靴下を履き終え、玄関に向かう。急いでサンダルを履き、玄関のドアを「ガチャッ」と開ける。
ドアの前に立っていたのはもちろん昨日来ると約束してくれた遊王子だった。
「おはよう、湊くん……?」
「ああ、おはよう遊王子」
挨拶を交わした俺たちだが、遊王子が俺のことを見て一瞬驚いたそぶりを見せて俺に現実を突きつけてきた。
「湊くん、貴方背が縮んでないかしら?それに、髪も伸びて声も少しいつもより変よ?」
「ああ、ええと……だよなぁ。まあ、色々言いたいことはあると思うけど、取り敢えず入ってくれ」
「ええ、お邪魔するわね」
俺は取り敢えずリビングまで案内する。
それにしても本当に背が縮んでしまっていたとは……。俺が170センチくらいで確か遊王子が160センチくらいなはず。そして今の俺は、見たところ遊王子に少し勝ってるか同じくらい。10センチくらいこの一晩で縮んだことになる。
「流石にこの身長だと騙せないかぁ……」
「そうね、最低でも私と矢沢くんは騙せないと思うわよ。クラスメイトだと気づかない人も多いだろうけれど」
「そうだよなぁ」
俺はため息をつく。
「湊くん、取り敢えず学校あるから髪を先に結んじゃうわよ、その間に色々あったこと聞くから」
そう言って遊王子は椅子をぽんぽんと叩いて椅子に座ってと合図する。俺はそれに従って席につき、遊王子にその後ことを委ねた。
「じゃあ結んでいくわよ」
「ああ、頼む」
遊王子は俺の変わり果てた髪を優しく触り、結い始めた。
「それで戻るけれど、縮んだ理由とかは分かるの?」
「うーん、恐らく昨日の夜焼けて軋むような痛みが全身にあったからそれが原因かなぁ?でもこの髪も含めて何故こうなったのかは分からないかな」
「それじゃあ、根本的な解決は出来ないわね、髪が抜けるとかなら病気とかであるだろうけど、髪色が勝手に変わってかつ、身長が縮んだなんて現実的に有り得ないわよ。でもそれが実際に起きてる。
私には訳が分からないわ。いっそ湊くんが魔法でもかけられたんじゃないかって疑っちゃう」
「確かに。もしかしたら魔法にでもかけられたのかもしれないな」
「湊くんの髪が今みたいになったのは昨日からよね?」
「ああ、昨日の朝になったらこうなってた」
「ということは、少なくとも金曜日に会ったときは何も無かったから、問題は土日よね。何か変わったことは無かったの?」
「特に変わったことはないけど、グッズを買いに秋葉原には行ったな。それ以外は基本家は出てないはず」
「なら、その秋葉原で絶対に何か起きてるはずなんだけど、些細なことでもないかしら?」
「些細なこと?えーと……あっ、お金が無くて困ってた女の子にタピオカ奢ったな」
「それで?」
「俺の分も買って一緒に飲んで……あと雫ちゃんのこと自分がなりたいくらい好きなのとか聞かれた。それで好きって言ったらお礼にその願い事を叶えてあげるって言われたっけ?だけど願い事なんて言ってないし、叶ってないから何だったんだろう?って感じだったのを覚えてる気がする」
「はぁ……」
俺の話を聞いた遊王子は大きなため息をついて、何か確信を持ったかのように言った。
「それが原因よ」
「原因?何がだ?」
「だって湊くんは雫ちゃんになりたいくらい好き?って質問にはいって答えたんでしょ?」
「ああ」
「だったら願い叶ってるじゃない。ちょっとずつ雫ちゃんになってるんだから」
「あっ」
「はぁ……やっと気づいたのね。貴方が願ったことは、雫ちゃんになることよ。こうやって髪色が変わって髪がどんどん伸びていくのも、背が縮んだのもそのせいよ」