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烏羽色の光  作者: 青丹柳
咲き匂う
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 渡殿を歩きながら庭を見ると色とりどりの花が見える。例に漏れず寝殿造りなので晴明邸と似ているが、こういうものは住人の人柄が反映されるらしい。藪家は庭に花が溢れていて可愛らしい雰囲気がある。晴明邸のほうはもっとずっとシンプルだ。


(ああ、それにしても歩きにくい)


 ここでは女房という扱いなので、いつもより長い袴を穿き袿も宮中より重ねて着ている。ずりずり引きずって歩かねばならないので転げそうで怖い。これで毎日過ごしている後宮の后や女房はすごいと思う。

 更に衣に加えて髪型もいつもと違うので落ち着かない。内裏での仕事中は髪の毛を元結いで縛ってあるのだが、今回は女房装束に合わせて髪を下ろしている。ただ、わたしの髪の毛はセミロングとロングの間くらいだし、前髪を無理に隠しているので雅な女房装束とちょっと合っていない。


 できるだけの恰好はしてきたけど、変に思われませんように。

 祈るような気持ちで家人の後ろをついていくと、西の建物の戸口についた。


「女房をお連れいたしました」


 戸口の前で家人が言うと、中から鋭い声が返ってくる。


「いらないったら!帰っていただいて!」


(やっぱり)


 声に聞き覚えがある。

 どうしようと戸惑っている家人に、大丈夫だから、と目配せして戸を開けた。

 御簾の奥の影が震えたのがわかる。そっと戸を閉じると御簾をぱっと上げて顔を出した。


「伊予~!」


 伊予はこちらに向かって扇を投げつける寸前のポーズで固まっていたが、目の前に立つのがわたしだと気づくとふにゃっと相好を崩した。


「どうしてここにいるの?なんで?」

「ちょっと色々ありまして」


 とある人に伊予の家のお手伝いをするよう頼まれた、と告げるとそんな物好きな人がいるのかと訝しむので、伊予のお父さんにお世話になった人だと正直に話した。

 まずは事情を詳しく聞かねば。


 現当主であるお兄さんの話から聞こう、そう思った時、戸が勢いよく開かれ狩衣を着た利発そうな男の子が飛び込んできた。


「姉さん!」


 飛び込んできてからわたしに気が付いたらしい。ごめんなさい!と真っ赤になって壁のほうを向く。

 年の頃からして、伊予の弟だろう。気にしないで、と言って手招きして呼んだ。当事者二人から同時に話を聞くことができそうだ。


「二人とも何が起きてるか教えて」


 何か手伝えることがあるかもしれない。

 そう言うとにっこり笑った。





「うーん・・・複雑だね」

「そうでしょ・・・」


 伊予と一緒に息をつく。

 彼らの兄であり、現当主はどこかの屋敷の姫君に相当入れ込んでいるらしい。いくら周りが聞いても身元は明かさず、そちらの家に入り浸りでほとんど帰ってこないのだそうだ。姫と離れたくないがために演奏会も拒んでいる。

 ここまで家業を疎かにするのであればクビ、ということになるのだろうが、そこがまた出自が絡んで面倒なことになっている。

 彼らの兄は正妻の子、伊予と弟は側室の子。

 正妻は自分の子がこんなことになってしまったのは、妖が絡んでいるからだと主張しているらしい。女の妖術が解ければ正気に戻るから、まだ弟に家督は譲れないと言う。


「ほら、あれ見て」


 伊予が戸を少しだけあけると指を指した。

 その先には烏帽子を被り白い直衣を着た若い男性と、似たような衣を着た、がたいの良い好々爺然とした男性が家人と話している。

 若いほうには見覚えがあった。


(保憲様・・・?)


 ほんの一瞬しか顔を合わせたことはないが、晴明の兄弟子ではなかったか。


「あれ陰陽寮の人たちだよ」


 兄さんの調査に来てるんだ。

 はあと息をついて戸を閉めると、伊予は丸くなって膝を抱えた。その姿は、年相応の悩める女子高生だ。

 慰めるようにぽんぽんと背中を叩きながら、兄は家督を譲るべきだと思うかと二人に聞いてみる。


 意外にも二人の答えは否だった。

 親はともかく兄弟仲は悪くないようで、彼らは兄には当主を全うしてもらいたいと思っているようだ。弟よりも兄のほうが家業の箏の腕がよいという理由もあるようだが。


「僕、御箏は全然だめなんだ。笛のほうが好きで・・・

 御箏なら兄さんと姉さんのほうが僕より断然上手いよ」


 えへへ、と照れ笑いする弟に伊予もそんなことないよと照れている。


(うーん、どうするのが一番いいか)


 当主が家に帰ってこないという時点で翻意するよう説得するのは厳しいし、一方で弟に継がせるというのは本人も周囲もその気がないようだ。


 そうすると、もう間を取るしかない。


 演奏会まであと一週間。

 色々と準備するため、まずは文を書くことにした。

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