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「着いた」
肩を緩く揺すられるのでハッと姿勢を正す。
いつの間にかぐっすりと寝てしまったようだ。送ってもらっておいてこれはない。
ごめんなさい、ありがとうございましたと言って慌てて降りようとしたところで、表情筋が露骨に固まった。
「ここ・・・は?」
――― さわさわさわ
木々の葉が触れ合う音と、風の音。
綺麗に手入れされた竹藪に囲まれた静かな佇まいの邸宅は、どことなく一条にあった晴明邸に似ている。が―――
(駅、どこ・・・?ここ?)
どう見ても目の前の建物は駅ではなく住宅だ。しかも一軒しか見当たらないので住宅街かどうかも判断つかない。
せめて携帯があれば地図アプリでここがどこだか分かるが、それもない。助けを求めるように晴明を振り返るとあの見慣れ過ぎた歪んだ笑みを浮かべ、こちらを見ているので頬が引きつった。
「ここから横浜駅まで徒歩どれくらいですか?」
「四時間強」
「そうですか、じゃあ歩・・・ええ!?」
ちょっと遠めに下ろしてしまいました、というレベルじゃない。一時間くらいなら徒歩でも、と思っていたのだが四時間はしんどい。
全然違う場所に連れて来られたと言って差し支えない遠さなのでさすがに食って掛かった。
「な、なんで!?」
「寝ていたから」
「い、いや叩き起こしてくれてよかったんですってば」
そこまで話してハッと気づいた。横浜駅までが遠くても、最寄り駅まで出ればどうにでもなるだろう。
すっかり現代の生活様式を忘れてしまったものだと照れながら口を開いたが、やっぱり期待した結果にはならなかった。
「じゃあ最寄――」
「徒歩四十分」
(なんてところだ・・・)
ここはどこで、なんのためにわたしを連れて来たのか。
不安と不満が綯交ぜになった複雑な表情をしたわたしの背を押して目の前の邸宅に誘い入れようとするので小さく抵抗する。
最寄り駅が辛うじて徒歩一時間以内なのだから歩けなくはない。そう思って邸宅とは逆方向に一歩踏み出したのだが。
「わっ・・・!?」
「夜道は危ない。泊って行けばいい」
手首を強く掴まれて今度こそずるずると引っ張られた。
こうしているとあの時代で夫婦だった時の事を思い出す。感傷に浸りかけるが、でもこの状況はあまり良くない。
(いくら前の人生で面識があるからって、そんなほいほい初対面の人の家に上がるのは・・・)
そう思うのだが一方で、前の人生の経験上こんな時は抵抗したって無駄だとわかっているのが辛いところだった。
*
きょろきょろと邸内を見回した。
寝殿造りではないから構造が頭に入って来ず、どの部屋へ戻ればいいのかわからない。
大体の扉が閉まっているのだが、他所の家のドアを片っ端から開けていくのも気が引ける。とりあえず風呂上りのぽかぽかした頭を少し冷やそうかと、唯一方向がわかった玄関に向かった。
板張りの床がひんやりとして気持ちがいい。
(それにしても)
自分が身に着けているふわふわオーガニックコットンのルームワンピースを改めて眺める。これは風呂場に用意されていて、着替えも持っていなかったのでありがたくお借りしたものだ。
女性ならば皆知っているルームウェアの有名ブランドのものだが、晴明がこんなブランドを把握しているなんてちょっと信じがたい。
もちろんこの時代では情報が溢れているのだから何かの切っ掛けで知ったのかもしれないが、なんだかイメージが違う気がしてむずむずとした。
もしかしたら―――お付き合いしている女性に用意しているものだろうか。急に訪問したのに用意できているのだから、そう思うと一番しっくりくる。
(やっぱり、わたしが知っている皆とちょっとずつ違うんだろうな)
前の人生で夫だったからって変に意識しないように、と心を引き締める。
玄関もひんやりして気持ちいいが、少し夜風に当たろうかと考えて自分の靴を探した。
「あれ?靴がない・・・」
確かに靴を揃えて上がったのに、今玄関には家人用のようなゴムサンダルを除けば靴が一足もない。
偶に会食で高級料亭を使うと食事の間は全ての靴がどこかへ仕舞われてしまう店があるが、まさか個人宅でもその形式をとっている人がいるとは。
(几帳面っていうかなんていうか)
仕方がないので、離れた場所にぽつんと置かれたゴムサンダルに目を付けた。
あれはきっと一時的な外履き用だろう。ちょっとだけお借りしたい。
玄関の縁から絶妙に遠い位置にあるので、縁ギリギリで四つん這いになると慎重にバランスを取りながら手を伸ばす。
「ぅ・・・うぅ・・・届きそうなのに・・・!」
「何をしている」
「わっ!?」
驚いてバランスを崩し、玄関の三和土に顔面から突っ込みそうになったのを晴明に支えられて掬い上げられた。
ひょいと俵のように持ち上げられる。
「あ・・・ありがとうございます。外に出たかったんです。わたしの靴はどこに仕舞ってあります?」
見上げた晴明の顔は玄関の大きな竹細工の照明が逆光となり、よく見えない。
「あれ!?え、ちょっと??」
問いに対する答えはなく、すたすたと廊下を進んでいくものだから困惑した。
外に出たいという希望は綺麗に無視されているような気がする。
(まあ他所の家でうろちょろするのも良くないか)
右、直進、左、右、右。
広い家だとは思うが、それにしたって内部が複雑だ、やはり一人では到底戻れなかったろう。玄関で拾ってもらってよかった。
――― するするする
引き戸タイプのドアを晴明が開けると、最初に通されたリビングに戻って来たのでほっとする。
リビングとはいっても和室なので客間と呼んだ方がしっくりくるかもしれない。かつての晴明邸と同じ香りがほのかに漂う。
(この香り好きなんだよなあ)
てっきりオリジナルの薫物だと思っていたが、現代でも同じものが用意できるということは案外手に入りやすい香りなのかもしれない。あとで何の香りなのか聞いておこう。
「?」
ふかふかの座布団の上に下ろされたのだが、目の前のテーブルに奇妙なものが載っていた。
小さな箱と、二つ折りにされた紙。
整然としていて生活感を全く感じない空間において、なんだか悪目立ちしている。
背後に屈んだ晴明が、わたしの後ろから手を伸ばして小箱を引き寄せ膝の上に置いた。
「開けろ」
「・・・」
実は小箱のほうは開けなくたって中身はわかっている。
後ろからの無言の圧に負け、渋々開くと予想通りの物が入っていた。
「携帯電話、ですね」
小箱のパッケージにでかでかと内容物の写真が載っているのだから間違いようがない。問題は何故わたしにこれを押し付けてくるのか。
振り向かなくても歪んだ笑みを浮かべているのは間違いない。
「お前が持っていた二台はどちらも朽ちてしまっただろう」
(どちらも爆発させた、が正しいような)
「連絡が取れねば不便だ」
「それはそうなんですが、自分で用意できます。明日お店へ行こうと思ってたんです」
「いい。それを持っていろ」
箱から取り出された携帯電話は電源が入っており、よく見れば初期設定は済んでいるようだ。
(アカウントとかどうしたんだろ・・・?)
釈然としない気持ちで首を捻っていると、目の前に一枚の紙が突き付けられた。さっき小箱の隣にあったものだ。二つ折りだったものが開かれている。
何の変哲もない紙。あの時代よりもずっと綺麗で上等な紙ではあるが、そこに書かれた内容に目が釘付けになった。
「な、なんですかこれ!!!」
「婚姻届」
「見ればわかります!そうじゃなくて、わたしの名前が書いてあるのは変だし、本籍地とか両親の名前も記入済みなのは怖いし、この証人ってまさか―――」
混乱のあまり思ったこと全てを口走っていると、背後から回された冷たい指にきゅっと唇を摘ままれたのでやっと止まった。
「相変わらずよく回る口だ」
晴明だって皮肉っぽい喋り方は相変わらずだ。
頬を膨らませていると、目の前の紙は取り上げられた。
「明日提出する」
「・・・え!?いや、だめですよ!わたし結婚しないです」
夫の欄には綺麗な字で晴明の名が綴られていたが、名字には覚えがない。なんて、どうでもいいことが気になってしまったが慌てて意識を戻した。
仮に昔と変わらない気持ちなのだとして、何と言っても現状はほぼ初対面なのだからいくらなんでも婚姻届は飛躍しすぎだ。
「昔も初対面で夫婦となったろう」
「あれはやむにやまれぬ事情があったからです!偽物だったし!」
あの時代は良くも悪くも緩かったから明確な申請などなかった。でも現代は違う。婚姻届を出してしまえば法律上そういう扱いになってしまう。気軽にできるものではない。
紙を取り戻そうと、体を捻って手を伸ばした時。
両頬を冷たくて大きな手の平が包んで、がちりと力を込めて頭部を拘束された。ちょっと痛い。
至近距離で目を覗き込まれる。昔も夫婦喧嘩をした時によくこうされていたっけ。
「約束を違えるつもりか」
「約束?」
「魂が続く限り夫婦でいると」
遠い昔、本当の夫婦になった朝にそんな約束をした記憶がある。
でもそれは。
「ちゃんと約束を守って死ぬまで夫婦だったじゃないですか」
またそれを持ち出されると無限ループになってしまう。
どういう意図で約束の話を持ち出すのかわからなくて、困惑の目で見返すしかなかった。
「魂が続く限り、と言った」
指摘内容が理解できません。
ぶすくれてそう言うとくつくつと笑われる。懐かしさで胸の奥がきゅうっと締めつけられるが、絶対に悟られたくない。
「死ぬまでではない。何度生と死を繰り返しても魂だけは連綿と繋がる」
「・・・それ、屁理屈っていうか・・・物は言い様っていうか・・・。しかもその解釈だとわたしの夫は未来永劫晴明様になってしまいます」
さすがにそれは無いはずという前提で言い返したのだが、おかしいところなど何もないと言いたげに首を傾げたので閉口した。
(冗談、だよね?)
まじまじと晴明の顔を見る。
顔の造形はやっぱりあの時代から寸分違わない。着ているのが洋服だし髪も短いのでそこだけはすごく違和感があるが、見たところ身長も体格も同じに見える。喋り方も同じ。現代においては少し古風な印象も受けるがわたしにとっては馴染み深い。急なスキンシップも、力加減が無茶苦茶なところも昔からだ。
どういうわけだか晴明も、彼以外も、皆あの時代の記憶があるようだ。わたしに対する態度が昔とちっとも変わらない。
それでも。
「今はお互いこの時代で生きてきた中での付き合いがあるでしょう。何もかも無理に昔と合わせる必要な―――」
(あ・・・)
急転した視界と全身に掛かる重みで、地雷を踏んだのだと気付いた。
畳に圧し付けられたので藺草の匂いを感じる。昔は板間に置畳だったが、この客間はみっちり畳が敷かれているから匂いを強く感じるんだろうなあ、なんて無意識に現実逃避してしまう。
「何が言いたい?まさか病室を訪ねてきた男を選ぶか」
背筋が凍るような笑みを浮かべて見下ろす晴明は間違いなく怒りを滲ませていた。
こういう時はどう対応するのが正解だったっけ。焦りで夫婦だった頃の経験が全く活かせない。
「それとも他に契った男がいるか」
すり、と喉を撫で上げられた後に中央の軟骨を親指で強くすり潰されたので堪らず上半身を捻って逃げた。
首を絞められたわけでもないのに口が半開きになる。昔からこれはあまり好きじゃないと言っているのだが、それをわかっていてやってくるのだから嗜虐趣味は健在のようだ。
背けた顔を掴まれて強引に真上を向けさせられる。
「っぅ!?・・・っへぐ・・ぅ・・」
当然のように唇を吸いねぶられるが、軟骨も抑えられたままなので息が続かない。
(苦しい、苦しいけど)
困ったことに、沸き上がるのが嫌悪感ではなく安心感と恍惚感なのだから、わたしも相当に毒されてしまったのかもしれない。
甘んじてそれらを受け入れていると、やっと満足したのか酸素の供給路が復活した。
「・・・っはぁ・・・そんな人いません。昔から、なんというか・・・ストーカー気質でしたが、変わりませんね」
今なら横文字も伝わるから思う存分言いたいことが言える。せめてもの仕返しにチクリと言ってやった。
しかし意味は伝わったはずだが有効なダメージは与えられなかったらしい。少し首を傾けただけで軽く返された。
「そのような生易しいものではない」
「・・・」
(生易しくあってほしい)
ふうと息を吐くと無理矢理心を落ち着ける。そうして自分が身に纏うワンピースを摘み上げた。
「これ、晴明様が選んだんじゃないですよね。晴明様だってお付き合いしてる人がいるんじゃないですか?その方のワンピースかと思ってたんですけど」
さっきの嫌味は微塵も効かなかったのに、このわたしの言葉は相当な驚きを与えたようだ。
目を見開いて、珍しく一瞬固まっていた。
それから―――
「なんで笑うんですか!!」
「悋気か」
「違いますってば!!!わたしは急に来たのにこんなのが用意されているなんておかしいでしょう」
早口で言い募るのがよほどおかしかったのか、クックックと嬉しそうに笑う晴明を見ているとなんだか腹が立つ。
「お前はいつもこの札が付いた衣を着ていただろう。覚えていただけだ」
首の後ろあたりにあるタグをつんと引っ張られてそう言われたので、今度はわたしがきょとんとする。
そういえばあの時代、寝る時だけはいつもこのブランドのワンピースを着ていた。しかし本当にわたしの好みを覚えていたとして、急に来たのに用意されていた理由にはならないではないか。
疑問を口にすると、ひたりと笑って頬を寄せられる。
「ずっと探していた」
すり、と熱心に何かを強請るように頬擦りされる時は、感情が昂っている時だ。
「いつ何時見つかっても連れ去れるように」
これをされると、パブロフの犬みたいにわたしの心臓の鼓動は勝手に早くなるようになってしまった。
「すぐに閉じ込められるように」
(それは間違いなく警察沙汰になるからやめて)
頬擦りしていた晴明の頭がいつの間に首元まで下がっていて鎖骨に噛みつかれた。ごりごりと直接神経を刺激する半分拷問のような事をされているのに、顎が上がり鎖骨を差し出してまるで受け入れるような体勢を取ってしまう。
すごくすごく昔の事ではあるけど、きっと完全なる同一人物ではないのだろうけど、それでも波乱万丈だったあの一生を添い遂げた夫だと思うと拒めない。抵抗できない。受け入れてしまう。
潤んできた瞳に気付いた晴明が、顔を覗き込んで艶っぽく笑った。
「無駄な抵抗はするな」
力が抜けてふにゃふにゃの蛸のようになったわたしを抱え上げると歩き始める。
どこへ行くのかなんて聞かないが、でも絶対に釘を刺しておかねば。
「婚姻届をだしたら絶交ですからね」
「頑固者め」
「せっかちに言われたくありません!」
晴明が一歩進む度にわたしの体も少しだけ揺れる。
「・・・婚姻届けの前に、普通はいくつか段階を踏むでしょう」
「どのような」
「それは・・・人となりを知ってから、お付き合いして、一生一緒に居たいとお互い思えたら家族に紹介―――」
「何もかもを知っているのに不要だろう」
ああ言えばこう言う。
からからから、と小気味良い音がして開いた部屋は薄暗い。天井の照明は落とされて、いくつかの橙色の間接照明だけがぼんやりと周囲を照らしていた。
ぼふんっと下ろされた布団はふかふかだ。
「お前が気に入るようにしてやっても良い。だから明日提出する」
「・・・言ってる事の辻褄があっていないって気付いてます?」
見上げた晴明の三日月のように細められた両目が妖しい輝きを放つ。白熱灯の温かい光を映しているのだと思うが、黄みがかった光がゆらゆらと揺れるのが見えた。
ゆっくりと上体を倒される。
「あの時代では露見しなかったですけど、わたし料理はさっぱりなんです」
「関係ない」
「仕事が忙しいから家にはあんまり帰られないです」
「・・・迎えに行く」
「海外出張も結構あるんです」
「一緒に行く」
もう思いつかない。
最後に、一番気になっていた事を吐露した。
「あの時代ではわたしは珍しい類の人間でしたけど、現代においては極々普通の一般人です。晴明様の気を惹くところなんて一つもないです・・・本当に」
状況が違えばきっと見え方も違う。こんなに執着を見せられて昔々に心を通わせた事を思い出した後、つまらない人間になってしまったなんて言われた日には立ち直れない。
顔を背けたわたしの左右の手指に、冷んやりとした晴明の手指が絡みつく。冷たくぬるりとしたものが首筋を這いまわっていたかと思えば矢庭にがぶりと噛みつかれた。
「普通だろうがそうでなかろうが何の関係もない。私を満たせるのはお前の魂だけだ」
興奮で掠れる低い声を聞きながら、観念してそっと目を閉じた。
きっとまた騒がしい日々になるのだろうけど、今回の人生だって精一杯駆け抜けよう。
叶うならば、意地が悪くて、偏執狂で、強引な、でも離れ難いこの人と一緒に。
*
「でもどうしてみんな記憶があるんでしょうね?」
コントローラを握りしめたまま双六の結果で揉めに揉めている成明と実頼と、巻き込まれている晴明の後ろで寛明に話しかけた。
退院日のずれについては翌朝には無事全員に連絡する事ができたが、折角だからということで晴明邸に集まり皆でご飯を食べながらゲームをするという怠惰な一日を過ごしているところだ。
聞いてはみたものの答えを持っているとは思っていない。おそらく突き詰めて考えても真実はわからない類の出来事だと思っている。
「本来なら知り得ない千年先の事を知っていることで記憶が保持されて、あの文のおかげ縁が続いている、って晴明は言っていたね」
優雅な仕草でティーカップから紅茶を飲むその姿は、以前の寛明を知っている身からすると違和感があるが、一方でとても様になっており思わず見入ってしまう。
にこにこと微笑んでいる寛明の顔をまじまじと眺めた。
(ん?その条件だと記憶が残っている人が他にも居るような・・・?)
「それで、僕の葬儀で大号泣したって本当なの?」
思考の淵に沈みかけたわたしの眼前に身を乗り出して聞いてくるものだから、思い切り顰め面をしてみせる。
バラしたのは成明か実頼か。嬉しそうに聞いてくるが内容と表情が全然合っていない。
「本当です!急に死んじゃうなんて酷いですよ・・・ずっと泣いてたんですから」
今だからこそ言えるが、溢れ出る涙と嗚咽を全く抑えられなくて人前に出られる状態ではなく、葬儀の場に表から入られなかったのだ。
あの時はもう体の水分が全て無くなったと思えるほどに泣いた。
「そうなんだ・・・へえ、そうなんだ!」
嫋やかな笑みの中に隠せない喜色が浮かんでいるものだから、わたしの気分は急降下する。
もう絶対同じ轍は踏みたくない。
「いいですか、今度一緒に人間ドッ―――へぶっ」
「おい、次の周回始めるぞ!」
向かいからのその声は成明のものだが、後ろからわたしの顔を覆うのは別人だ。纏う香りからしてこれは―――
「晴明様、ゲームできません」
「飽きた」
晴明が飽きてもわたしはゲームを再開するつもりがあるのだから邪魔しないでほしい。
それに、見えなくても周囲の呆れたような空気は感じるから居たたまれない。もぞもぞと脱出を試みたものの、すぐに難しそうな事に気付いて再開を放棄した。
三人は続きを始めたようだが、思い出したように成明が声を掛けてくる。
「そういえば、うちの会社で少し困ったことが起きてな―――」
書きたいことはまだまだたくさんあるのですが、他に書きたい話もあるのと
長くなりすぎたので一旦ここで終えたいと思います。
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。
また、感想やレビューを書いて頂いたこと、お気に入りに追加してくださったり評価を付けて頂いたこと
全てが励みになりました。こちらについても厚く御礼申し上げます。
そのうちひっそりとお話を追加していきたいと思いますので
その時はまた遊びに来ていただけますと幸いです。