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烏羽色の光  作者: 青丹柳
花蕾
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10

「御夫君はどんな方なんですか?」


 夢見る瞳で見つめられて答えに窮する。

 どんな、と言われてもわたしも数日前に初めて会ったので良く知らない。知っているのは現代ではファンタジー系有名人ということくらいだ。


「顔色が悪くて冷たい人、かな」

「・・・どういったところに惹かれたんですか?」


 出だしでつまずいたものの、わたしたちは予定していた全ての掃除を終え内侍所(ないしどころ)へ戻ってきていた。今は班のみんなで茶を飲んでいる。お茶請けはもっぱらわたしの身の上話だ。

 不幸中の幸いと言ってよいのか、先ほどのトラブルで彼女達の信頼を得ることができたようだ。すっかり打ち解けた空気になっている。

 そして話題はというと、やはりというべきか鉄板の恋愛話。班内唯一の既婚者ということで、羨望の眼差しを向けられた。


(既婚って言っても偽物なんだけどなあ)


「参考にしたいのです!教えてください~!」


 女孺という職種は顔を出して仕事を行うため、御簾の奥に引っ込む神秘主義の女房達からは下に見られる。一方で、行き遅れになると言われている宮仕えの身に置いて、他所よりは既婚率の高い職種らしい。性別問わず接触が多いというのは、つまり出会いも多いということだ。彼女たちも存分にそれを期待しているようだった。

 平安貴族は顔も見ずに結婚相手を選ぶと聞いた記憶があるが、そういうのは中級貴族以上らしい。


「熱烈な和歌をいただいたりしたんですか?」


 目のくりくりした子、伊予というらしいのだが、興味深々に聞いてくる。

 晴明が愛しいだの恋しいだの和歌を詠んでいる想像がつかないな、と思った。女性にというより人類全体に興味が薄そうだ。


「うーん、ずっと昔だから忘れちゃった」


 へへ、と胡麻化すと黒髪サラサラヘアの塩系美人、甲斐がぶすくれた。割と本気で参考にしようとしてくれているらしい。

 信濃と能登に両側から肉をつかまれる。


「やっぱりこんなに()()だと殿方も惹かれますよね」


 ヒヒヒ、と若者らしからぬ笑いを浮かべた。


(女子高のノリになってきたな)


 確かに、身長の面でもわかる通り、わたしは全体的に発育の良い部類に入りそうだ。現代では決してそうではなかったが、平安時代の人よりはずっと良い栄養状態で育てられたはずで、それが影響しているのだろう。


 未来の夫について各々の希望要件をあげ連ねるフェーズに入ったので、ふうと一息つく。



(こんな調子で情報収集できるんだろうか)



 ゴオンと終業を告げる鐘が鳴るまでおしゃべりは続いた。












 高灯台の光がチラチラと揺れる。


(隙間風もないのになぜだろう)


 掛布団代わりの晴明の衣をかぶっていると、ふわりと線香のような香りがして、懐かしい祖母の家の仏間で寝ている感覚に陥る。


 湯浴みを終えてぽかぽかした頭でそんなことを考えながら、揺れる光を見るとはなしに見ているとうとうとしてきた。しかしどうしても入眠できない。理由は明確。隣に夫、もといほぼ他人が寝ているせいだ。落ち着かない。


「どうだった?」


 枕元に広げた文のようなものを見ながら、うつ伏せに寝そべり片肘をついた晴明が聞いてくる。

 その畳はわたしが寝ている畳と15センチほど離れているものの、ほぼダブルベッドな気がしてよくわからない気まずさを感じていた。


「まあまあです」


 でも今日は有益な情報は聞けなかったですね。恋愛話ばかりでした。

 気まずさを隠すようにわざとおちゃらけた口調で返すと生返事をして文を真剣に眺めている。とりあえず社交辞令で聞きました、と言わんばかりだ。


(いいけどね)


 でもこちらも眠られない以上、ずっと沈黙が続くと身の置き所がない。


「隈」

「何?」

「隈がひどいから、もう寝たほうがいいんじゃないですか」


(無視!)


そんな反応をされると、なんとか眠気を誘いたいという反発心がもたげてくる。


――― ねんねんころりよ、おころりよ


 これはいつの時代の歌だったか。

 この時代のものでなくても、子守歌なのは間違いないのだから効果はあるだろう。


 横になってリラックスした状態なのもあり、調子っぱずれになっているのがわかる。

 それが少しだけ恥ずかしくて極々小さな声で歌ってみた。


――― ぼうやはよい子だ ねんねしな


(あ~眠くなってき・・・た・・・)


 効果が出たのは自分のほうだった。


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