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初めての異世界農地見学

 朝飯を食い終わって、そのまま食卓で少しまったりする。

 チセは本当に幸せそうだ。満足げにお腹をさすっている。かわいい。

 それを見ているとメシがマズいとか思っていた自分がちょっと申し訳なくなる。

 キリエもチセを見て微笑ましそうにしていたが、少し表情を改めてこちらを見た。

「今日はどうする? お前の素性は聞かないが、どうやらこの町に不慣れな様子だ。私でよければ少し案内するぞ」

「それは助かる。それじゃまずは農地を見たい」

「……そ、そんなにマズかったのか?!」

 幸せそうなチセの手前、小声になってこちらに詰め寄ってくるキリエ。

「いや、ありがたくいただかせてもらったよ。ただ、話を聞いていてこの国の農業には問題があるんじゃないかと思ってさ」

 キリエは椅子に座り直して唸る。

「ふうむ。まあお前がそんなに見たいのならいいが……あまり気分がいいものではないかもしれないぞ」

 なるほど、それはぜひ見てみたいね。

「チセは待たせておいた方がいいかもしれん」

 また声をひそめる。

 しかし、獣人の耳はその声をしっかり聞き取っていたようだった。

「私、行くよ」

 この会話の流れから見えるのは、農地では獣人の奴隷が使われているらしいこと。

「だが……」

 渋るキリエに、チセははっきりと言った。

「私はこの国での獣人の扱いをはっきり知ってる。だけど、コウは私を救ってくれたみたいに、それを変えてくれる人。……違う?」

 オレは笑って、はっきりと頷いた。

「そうだ」

 キリエはそんなオレたちをハッとした顔で見ていた。

「それじゃあとりあえず案内を頼むぜ、キリエ」

「……ああ、わかった」

 何かを悩むように、少し落とした声で彼女はそう頷いたのだった。


 そうしてオレたちはロロコの町を行くが、農地に行く前にちょっと買いたいものがあった。地図だ。

 雑貨屋を紹介してもらい、そこを訪れる。3スルで買えた。

 地図を開く。

「この近隣にある国は、我が国マルポを入れて3つだ。まず北に位置するのが、マルポの王都ハルビリだ。ここから3日くらいだ。そして、ここ。さっき話したフィリスが北西方向にある。フィリスは農業が盛んで、マルポとはそこまで離れていないにも関わらず気候がまったく違う。豊穣の国ということだな。そして、西には……獣人の国がある。チセも含め、奴隷たちはここの出身と言っていいだろう。こちらの距離は歩いて10日くらいだ。獣人は武力、体格、体力に優れている。なぜかあまり周辺の侵略には興味がないようだが……」

 奴隷を取っていることを恨みに思われ、侵攻をかけられたらかなりヤバいのでは? と思うが、それは置いておこう。

「それでマルポの強みはなんなんだ?」

「あまり言いたくはないんだが……、賭博だ。王都は豪奢で、観光でも賑わっている。しかし、賭博は国民に大きな貧富の差を生んでいる」

 運が向いてきたな、とオレは思っている。確かに問題の源泉とも言えるが、少なくともオレ個人の行動で言えば、自由度が増した。金があるところからぶん取り、どうやって再分配するかがオレの能力の見せ所だ。

「お前にとってはいい話か? どうやら賭博の才能があるようだし……」

「そうだな。一度は稼ぎに行かせてもらう。だけど、まずは農地だ」

「了解した」

「……早く行こ」

 チセがクイクイとシャツのすそを引っ張ってくる。あまりいい現状ではないだろうとはいえ、同じ獣人がどういうところで働いているのか見てみたいのかもしれない。

 オレはチセを一度撫でて、ソワソワしている彼女を連れて、農地に向かうことにした。


 辿り着いて、やはりチセを連れてくるべきではなかったかと思った。

 農地では獣人奴隷が働かされていた。それもひどい働かせ方だ。獣人は皆ガリガリに痩せ細った上で、ムチを入れられながら固そうな大地を耕していた。

 キリエは最初チセの目を覆っていたが、チセの方からそれをほどいた。

「キリエ。私、わかってるよ。……これが現実なんだよ」

 それから震える手でオレの手を握った。

「でも、コウはこの現実を変えてくれるんだよね」

 オレの顔を見上げて、

「ーーそうだよね?」

 チセは問いかける。

「……ああ」

 オレは短く頷いた。想像よりひどかったが、きっと変えることは不可能じゃない。

 そのためにはーー金が必要だ。


「少し考えを整理したい。いいか? キリエ」

「ああ、聞け」

「国には食糧が足りない。それなのに獣人だけ働かせているのはなぜだ?」

「もうそれは獣人の仕事だという風潮ができているのはある。だが前提として獣人は身体が屈強で農作業には向いているという理屈はあった」

「……喜んでやっているようには見えないな」

「そうだな。押しつけているのは確かだ」

「あんなに痩せ細らせる必要はあるのか?」

「まず国民にすら食糧が十分でないのに、奴隷に与えるメシは少なくなってしまうというのはある。ただ、あれだけ痛めつけられ、痩せ細らせているのには恐怖があるんだと私は思っている」

「恐怖?」

「まず、私たちの国マルポと獣人の国は戦争状態にはないが、常に小競り合いが発生している。騎士団は国を守護するとして獣人との小競り合いに勝利し、それを奴隷にしている。獣人は気性が荒く、そのままでは奴隷に適さない。なので隷属の魔法がかけられる。主人に攻撃ができない、逆らうことができないという魔法だ。にも関わらず、更にメシも与えず、ムチを加える。多分、怖いんだ。魔法をかけても、身体が強靭で自分たちよりも強い獣人に耐えられない」

「だから、弱らせてこき使っている、と」

「そうだな……改めて口に出すとどうしようもないくらいイヤな話だ」

 チセは何かに耐えるように黙っている。こういう話こそチセには聞かせるべきではないのかもしれない。しかし、チセから離れて二人だけで話すというのもあまりしたくないことだった。結局、チセも言ったようにこれが現実だ。

「チセにも隷属の魔法がかけられているのか?」

「……ううん。私はこの国で生まれたから。隷属の魔法がかけられるのは騎士だけみたい。だから戦って負けた獣人だけがかけられるの」

「そうか」

 オレは考える。

「一番人道的に考えるなら獣人を全員奴隷から解放してやりたいとは思う。だけど、それには多分時間がかかると思う。隷属の魔法をどう解くのか。解放して凶暴になった獣人をどう扱うのか。色々な問題がある。オレが一番得意とするのは、仕事をしているヤツが食うに困らず、ある程度幸せに暮らせている状況を作ることだ。だから、オレは今農作業をやっている獣人の仕事をいいものにしてやりたい。うまいメシを食って、楽しく働けるようにしたいんだよ」

「……そんなことが可能なのか?」

「そのためにはメチャクチャが金がかかるけどな」

「ねえコウ、どうやって手に入れるの?」

「オレがギャンブルするのを見てたろ? オレは金稼ぎだったら、誰にも負けないぜ。そう決まってるんだーー初めからな」


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