母、シルハの弁明
――閑古鳥よ、あの子を殺したお前さえ
あの子にとても 似ているものね。
スキルを賜わる儀式の日、
雲一つない晴天に
我が子の未来を描いていました。
――あの子がとうとう報われる。
朝早くから起き出して
励んでいるのは知っていました。
レーナがそれを応援し、
毎朝一緒に起きていたのも。
シニスがそれに影響を
受けて、一層早起きし、
我が家は冬の朝焼けよりも、
夜明けがくるのが速かった。
そして俯き帰った彼は、
――<弱化>の力を授かった。
その一言が、白くした、
私の頭も、思考もぜんぶ。
きっと何かの間違いよ、
そう思っても、変わらない。
そこにあるのは<弱化>の二文字。
悪魔の声が、耳を塞いだ。
道の途中で化け物が、
あの子を食べて成りすまし、
こんなスキルで誤魔化して、
あの子を努力を踏みにじったと、
そう思えたら楽なのに。
――いっそそうしてしまおうか。
私は我が子を捨てました。
選んだものは、親の陶酔。
「悪いスキルが明かしてる、
お前はあの子の偽物だ!
私の息子を返してよ、
私のサハリを返してよ……」
言葉にしたら、本当の
ように思えた。丁度いい。
嘘の涙を溢しては、
母親のように悲しんだ。
家はシニスが継ぐでしょう。
それならあの子は何になる?
こんなスキルじゃ枷でしか、
呪いでしかない、そうでしょう?
婿に出そうにも、断られ、
仕官させても下の下、
泥をすすって暮らすでしょう。
そんな事実に目を背け、
親の役目も捨て去って、
ただ罪を厭い、嘘を吐き
己の正義を掲げては、
――私はあの子を捨てました。
それが名高い英雄に
なって帰ってくるなんて
「私のサハリ、愛しい子。
こんなところにいたなんて」
――もう何も、見えやしないの。
目をつむり、嘘を重ねて、我が子に縋る。
あの子の言葉は冷たくて、
私の望む罰になる。
罪の意識の傷を舐める、
暗くあやしい拒絶の目。
私は意識も朦朧と、
「我が子は、サハリは、いまどこに?
あの子はそんなひどいこと、
私に言ったりしないもの」
――こんな自我などくれてやる。
嘘の私に差し出した、
それは荷物だ。負うことを
厭ってしまった荷物です。
今夜、シニスがサハリへと
刺客を向けたと聞きました。
それならいっそ、もろともに
罪の影から逃げたくて、
ナイフを取って、客室へ。
忍び込んだら音を立て、
我が子の首へ突き刺そうと、
暗闇のなか、振りかざす。
――閑古鳥の、親は閑古鳥
愛し子を、顧みないで捨ててしまった。