妹、レーナによるプロローグ
スキルを賜わる儀式の日、
澄んだ空には雲もない。
早くに兄は起き出して、
張った弓弦を研ぎ澄ます。
的を射たなら、百発の
うち百発が撃ち抜いた。
生まれた頃から鍛錬を
学びを 努力を つみかさね。
ようやくこの日 報われる、
読んで 鍛えて 学んだ日々が。
あたしは見てきた。これまでの
兄を思うと目に滲む。
区切りがついたら声を掛け、
汲んで袋に入れた水、
訓練のあと飲む水を
「兄さま、どうぞ」と差し出した。
木陰でふたりで休んだら
刻限までに支度をし、
馬車に乗り込み 揺られつつ
ここに着くのを待っていた。
そして 降りるとあったのは、
見上げるほどの大教会。
壮麗な窓、飾り窓、
み空をつく様な丸い屋根。
ふたり揃って中に入り、
司教さまへとお辞儀する。
ふくよかな彼は 微笑んで
「しばしお待ちを」そう返す。
他の名家の子供らは
思い思いに腰掛けて、
ほのかに頬を上気させ、
大きな期待を膨らます。
兄が呼ばれて席を立つ。
優れたスキルを得れたなら、
食いっぱぐれることはない。
凄い兄なら、ああ、きっと――。
「イオシア=サハリに付与された
スキルは<弱化>、気の毒に。
拗ねず腐らず、励みなさい。
いつかあなたも報われる」
血の気が引いた、青ざめた。
どうして兄が、こんな目に?
ちっとも神は見ていない、
努力してきた兄なんて!
「イオシア=レーナに付与された
スキルは<癒し手>、素晴らしい!」
要らない。そんなの何になる?
捨てれたのなら楽なのに。
帰りの道が気まずくて、
硬く強ばる唇は
頑固に閉ざして動かない。
悲しくなって俯いた。
子供の帰りを待つ母は、
事の次第を聞いた途端、
血の気が引いて、青ざめて
近づく足を止めました。
悪鬼のような形相で
兄に詰め寄り、襟を掴み、
揺すぶり、怨みの目を向けて
許しはしない、と呟いた。
「悪いスキルが証してる。
お前はあの子の偽物だ!
私の息子を返してよ、
私のサハリを返してよ……」
はばかりもせず、そう叫び、
母はくずおれ、泣き出した。
家令がうながし、退室し、
各自待つよう頼まれた。
その晩、父が帰宅して、
事の次第を聞いた後、
「心が痛むが、これしかない」
そうして兄は追放された。