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最強魔女の息子は魔道具師になりたい  作者: みずっち
第一章 辺境の魔道具屋
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第三話

 レインノートとアレクシアが椅子に座った。

 間にテーブル等は無い。一メートルほど隔てて向かい合う形である。

 正式な会合では無く、仲間内での話し合いなのでこの程度で充分だ。


「これから炎竜女王の所に向かいますが、わたくしの目的は覚えてますか?」

「えーっと、セイラちゃんですよね?」


 レインノートが思い出しながら聞き返すと、アレクシアは肯いた。


「炎竜女王の足下、エフレト山の麓に暮らしている竜使いの村の子、ですわよね?」

「はい、そうですね」


 アレクシアが補足する様に尋ね、レインノートは首肯した。


「火竜の子が人間に飼われているなんてまだ少し信じられませんが…。

 レイン君はそんな嘘を吐く人では有りませんし」

「うーん、飼うって言うか…。

 外から来た友達を村で養ってる感じ、だと思いますけど…」

「友達、ですか」

「少なくとも、セイラちゃんとガー君はそんな感覚ですね」


 レインノートの言葉に、アレクシアは顎に手を当てた。

 「ガー君」と言うのは火竜の子供に付けられた名前、あだ名の様な物だ。名付けたのはセイラである。


 火竜の子供は、去年の春に卵から孵化した。そして今は初夏。

 つまり一歳になったので、セイラとガー君が炎竜女王に挨拶に行くのにレインノートが同行するのだ。

 レインノートの方は季節毎の挨拶のついでだが、アレクシアは今回それに便乗した形になる。

 要するに、アレクシアに取ってはセイラとガー君のスカウトが最優先の目的であり、炎竜女王への挨拶は二の次だ。


「セイラさん達に会う時に、何か注意点は有りますか?」

「うーん…今はどうなんだろう?

 問題はガー君の方だと思いますけど…」


 生まれた直後は、セイラ以外にはレインノートと村の人達にしか懐かなかったガー君だが。

 アレクシアの様な完全に外部の人間に対しては分からない。


 ガー君から見ると、外部の人間は殆どが冒険者かハンターだった。

 中には友好的な連中も居たらしいが、大抵は竜の子供と聞いて素材採集を念頭に置く連中ばかりだった様だ。

 その所為で、村人以外ではレインノートにしか懐いてなかった。


「ガー君単体だと警戒されるかなぁ…。

 セイラちゃんと仲良くなれば、ガー君も付いて来ると思いますけど…多分…」

「では、セイラさん自身については如何でしょう?」


 何か好きな物とか趣味嗜好などの類いをアレクシアは問うた。

 一応、従者達の空間収納には事前に購入したお土産が入っているが、念の為に再確認する。


「うーん、こないだ話した通りで良いと思いますけど…」


 レインノートは腕を組んで首を傾げた。

 セイラとガー君に会いに行く時は、必ずメルヴィスにお土産を持たされるが、アクセサリーだったりぬいぐるみだったり甘いお菓子だったり…。


 要するに普通の女の子が好きな物だが、それで喜ばれるので多分大丈夫だろう。

 今回もお土産にセイラとガー君用のおやつを持たされた。


「…それは何だか別の意味に解釈されてそうな気がしますけど…」

「ん?どうかしました?」

「いえ、何でも有りませんわ」


 レインノートは再度頭を傾けるが、アレクシアの呟きが小さかった所為か、そのまま流された。


「それで、明日はどうするんですか?」


 いつもの様に一人ならそのまま飛んで行く。何処かの町に泊まったとしても、翌日には出る事にしている。

 レインノートの空間収納にも食料や狩りの道具は入っているので、急いでも問題はない。


「その点については問題有りませんよ」


 明日出発する、とアレクシアが答えた。

 貴族の慣習に則るなら、本来はここまで来るにも半年ほどは準備期間が必要だ。

 根回しだのなんだの、道中の土地を管轄している領主貴族やここから先は他国にも挨拶が要る。

 但し例外は有る。


 今回の様に炎竜女王に挨拶しに行く場合などだ。

 そもそも、炎竜女王や天狼族、それに海神様など人知を超えた存在に対しては、人間の作法やルールを当てはめる事は意味が無い。


 実際、炎竜女王に会った時は、跪く必要は無い。

 頭も下げなくて良いし、会話も砕けた口調で構わないとレインノートもメルヴィスも言われている。

 従って、炎竜女王に会いに行くのであれば面倒な些事は不要である。


 アレクシアにとっては、炎竜女王に会いに行くのは最優先では無いが、それでも嘘では無い。

 今回も、通行許可書には炎竜女王への謁見の旨が記されており、門番の兵士達も心得た物ですんなり通されたのだ。


「…ですので、明朝、支度が出来たらそのまま出発します」


 アレクシアの言葉に、一同が頷いた。



 レインノートは、部屋に戻ると上機嫌で絨毯を観察していた。


「ここがこっちに来てこれが…あっ、裏にも繋がってる!」


 目を爛々と輝かせ、アチコチ指でなぞりながら調べている。


「おぉー!…ほえー…ここで魔法式に繋げて…」


 なぞっていた指がピタリと止まった。


「あれ、これは…?」


 ふと違和感を覚える。何処にも繋がっていない行き止まりの様な箇所が有ったのだ。

 裏側も確かめたが、そちらにも繋がっていない。

 そう言う所を幾つか見つけた。


「レイン君、そろそろ寝ますよ」

「えっ!?あっ、も、もう少し、もう少しだけっ」


 そうこうしている内に、フラウに絨毯を取り上げられた。

 縋りつくが、首を振られ、空間収納に収められた。


「ダメです、寝坊しちゃいますよ」

「…はい」


 レインノートは肩を落としてフラウにクスクスと笑われる。

 そして渋々と言う顔をしながらベッドに入った。


「…おやすみなさい」

「はい、おやすみなさい」


 挨拶の後、フラウは部屋を出てアレクシアの傍に歩み寄った。


「レイン君は一足先に休みました」

「分かりました…まあ暫くはまだ起きているでしょうけど」


 フラウの報告を聞いたアレクシアが苦笑しながら溜息を吐く。


「そうですね、とても興奮して集中していた様ですから」


 お嬢様とお姉様の話は本当でしたと、フラウはクスクス笑った。


「お嬢様、お仕度が出来ましたよ」


 ベッドメイクを終えたジーナに、アレクシアは頷く。


「お休みなさいませ、お嬢様」

「えぇ、お休みなさい」


 眠りやすい様に香を焚いたフラウとジーナに、アレクシアはまた頷いて就寝した。





 翌朝、一行は町を飛び立った。


「ふあ…」


 それほど早い訳では無いが、レインノートは目を擦って眠そうである。


「眠れませんでしたか」

「…ふぁい…少し…」

「まあ仕方ありませんわね…」


 レインノートの欠伸を見て、アレクシアは目を細め、内心溜め息を吐いた。

 どうせ絨毯が気になって寝付けなかったのだろう。

 そう言うと、レインノートは頷いた。


 ジーナは苦笑し、フラウはクスクスと笑っている。

 護衛二人も周囲を警戒しながら微笑んでいた。


「所で…」

「何ですか?」

「もっと高く飛ばないんですか?」


 レインノートが周りを見渡しながら尋ねる。


「ここでですか?」

「あぁ、今は良いか…。

 アストラスに入ったら、この高さだと山にぶつかるから…」


 普段はもっと高く飛んで、町や国境の結界にも引っ掛からない様にする。

 レインノートは、腕を組んで考え込む仕草をしながらそう言った。


「残念だけど、そこまで高くは飛べないかなぁ」

「そうなんですか?」

「うん」


 ラウルの苦笑にレインノートは肩を落とした。


 以前、レインノートから少し話を聞いて庭で実験をしてみたらしい。

 その結果、ある程度の高さは越えられなかったと言う。


 建物は越えられるが、町や国境の警備用の結界にぶつからないぐらいに高く飛ぶのは無理だった。

 生身か箒ならもっと高く飛べるが、絨毯では限界が有る様だ。

 もしかしたら安全装置みたいな物が有るのかも知れない。


「うーん…それなら、仕方無い、か…」


 未練がましい顔でレインノートが呟いた。


「そんなに高く飛びたかったんですか」

「はぁ、関所とか結界に引っかかると手続きとか時間が掛かるんで…」


 疑問符を表情に載せたアレクシアに、レインノートは悩ましげに首肯する。

 彼女達は、普段はなるべく安全に行こうとしているが、少年はいつも、街道を通らずに真っすぐに飛んでいる。


 この高さでも、街道を逸れて行けば日程の短縮は可能であるが、安全地帯である所の大きな町からは外れてしまうため、魔獣に出くわしたりと言う事が良くある。

 レインノートなら嬉々として狩って行くが、一般人はそうも行かない。


「心配せずとも、街道を逸れて出来るだけ真っ直ぐ行きますよ」


 今回はアレクシア達の旅程も普段の考え方とは違い、レインノートにある程度合わせる形にした。

 アレクシア達なら大丈夫だろうが、両親と兄には心配された。


「本音は旅が楽しみだったんですよね?」

「否定はしません」


 きっぱりと言い切ったアレクシアに、訊いたフラウがクスっと笑った。



「そう言えばレイン君、転移魔法は使える様になったのかい?」


 ジュリオの問いに、レインノートはムスッと渋い表情を浮かべる。


「まだ母さん程には…」

「…軽いのは使える様になったんだね」


 口を曲げたレインノートに、ジュリオは苦笑した。


「まだ自分一人だけです…距離も、視界の範囲ぐらいで…」


 身に着けた物は一緒に転移出来るが、触ってない物や生き物はまだ無理である。


「下級か。それでも凄い事だよ」

「ジュリオさんは中級の転移使えますよね?」

「でも君の歳には下級自体まだ出来なかったよ」


 ジュリオが転移魔法を習得したのは学院に入ってからだ。

 今は自分の近くに有る物なら、触れてなくても人や生き物でも連れて行けるが、最初は苦労したものだ。

 熟練した魔法使いは、千里眼等と併用して、行った事の無い所でも行けるらしいし、他の物と自分を入れ替える事も出来るそうだが、二人ともそこまでは出来ない。


「誰だって最初はそんなものだよ」

「そんなものですか」


 レインノートの視線に、ジュリオは首を縦に振る事で応えた。


「まだ魔力と心の準備が要るので、咄嗟の対応には使えませんけど…」

「それは使い続ければ慣れてくるよ」


 ジュリオの言に、レインノートは不承不承ながらも頷いた。



 街道を離れ、真っ直ぐに飛び続ける。

 目指すは大陸の西側、アストラス山脈だ。

 それを考え、アレクシアはふぅと息を吐き出した。


「溜息が多いですねお嬢様。

 レイン君の事ですか?」

「えぇ…よくよく考えたらこの旅、大陸の東西を横断する形になるのですよね」


 ジーナの問いにアレクシアは首肯した。

 この東大陸と呼ばれる大陸は、南北に長いとは言え、東西も広い。

 そして王国のハリーベル領は大陸の東端に、アストラス山脈は西の端に有る。

 レインノートは、毎回これを往復している事になる。


「ずっと空を飛んでるから、逆に細かい地理は分からないそうですが」

「まぁ…レイン君らしいですわね…」


 二人は苦笑しながら視線を動かした。

 その視線の先には件の少年が居た。絨毯を離れ、空を飛びながら、時折地上の魔獣を魔法で撃ち抜いている。

 一体どう狙っているのか、頭や核の部分だけを正確に一撃で仕留めているらしい。

 目測で二百メートルは下らないと言うのに。


 そもそも、ずっと飛び続けているのに、更に魔法を撃ちまくっていて、よく魔力が尽きないものだ。

 やはり魔素を併用している事が大きいのだろうか。


「所でレイン君」

「何ですか?」


 一通り魔獣を狩って帰って来たレインノートに、アレクシアが水を向けた。


「本当に地理に疎いのですか?」

「えっ?はい…だって、細かい地名とか町の名前とかあまり知らないですし…」

「…そう言う意味ですか」

「…ん?」


 レインノートは頭を横に傾ける。

 対して、アレクシアは俯いて眉間を揉む仕草をした。

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