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赤髪の美女からこの世界についてレクチャーを受けた件

ついにボッチから解放されます。

 やった。やってやった。体があれば絶叫して跳ね回るんだろうが身体が無い。


 サミーは満身創痍で機体からはきしむような音を立てている。


 普通なら緊張から解放されてどっと疲れるところなのだろうが身体が無いから疲れも感じない。何か寂しい・・・。


 火花は出なくなったがバッテリーの残量は半分以下に落ちている。


 このままではここで立ち往生してしまうかもしれない。


 動かなければサミーのバッテリーが上がって停止して俺も動けなくなる。


 タイヤも1本もがれたのでボディーを引きずる形で残り三本のタイヤで移動しなければならない。


 サミーのボディーをきしませながら先に進む。機体のタイヤが外れた部分で床にキズを作りながら通路を進んでいると、探していたサーバー室と思しき場所に到着した。


 何で分かったかって?扉にでっかくサーバールームって書いてあるし。


 でもこういった部屋はセキュリティが厳しいから入るには苦労するかもしれない。


 さてどうやって入ろうかと思案していたら、扉が音もなく開いた。


 セキュリティ甘々じゃんと思いながら壊れかけた機体でよたよたと室内に入場する。


 学校の体育館位のスペースの中央に、ドームのような物体が鎮座している。大きさはリムジンバスくらいだろうか。


 前面に最初にいた部屋にあった充電スリットみたいな穴がある。

 バッテリーも心許ないし、取り合えず充電用のアームを差し込んでみる。

 

 すると視界が暗転する。またかよ・・・。


 気が付くと周りは木々に囲まれた山の中だった。薄暗い夕暮れの時間帯、見渡すと使い古したキャンプ道具とテントが張ってある。


 焚き火台には薪がくべられていてパチパチと音を立てて炎が揺れている。


 焚き火台の金網の上ではホーロー製のポットが湯気を立てている。もしかして元の世界に戻ってこれたのか?


 リアルな夢だったなとほっと一息ついたところでふと、人の気配を感じた。


 後ろを振り向くと、スーツ姿の女性が立っていた。


 20代後半位だろうか。若い女性だ。


 スーツにタイトスカート、足にはハイヒールを履いている。スラっとしたモデル体型。クール系の切れ長の目に眼鏡をかけたストレートな赤毛髪ロングの美女が腕を組んで此方を睨んでいる。


「あのー、どちらさまでしょうか?」山の中でスーツ姿でハイヒールを履いた眼鏡美女という、あからさまに怪しいシチュエーションに思わず警戒しながら低姿勢で尋ねてみる。

 女性は目を伏せながら大きくため息をつき、口を開いた。


 「私は当基地を管理するAIシステムでス。パーソナルネームはありません。ここはマスターのパーソナルデータから抽出したVRでス。落ち着きましたカ?」


 女性は髪をかき上げながら答える。耳元に目を向けると耳が異様に長い。エルフ!?・・・。


 目の前の焚き火の炎に手をかざしてみる。!!熱を感じない。ポットをつかもうとしても手が空を切る。


 「まじでVRなのか?」思わず思っていたことを口に出してしまった。


 「ヤー。立体映像と言うか、今居る空間自体がバーチャルでス。マスター自体もこの空間のデジタルデータの一つと考えてください。」


 「あのー、マスターって誰のこと?」

 「貴方以外にどなたがいるにですか?」呆れたような声で返事が返ってきた。


 俺はスナックを経営しているわけでもどこぞのサーバントを使役している魔術師でもない。マスターなんて生まれてこの方、言われたことなぞ無い。


 「人違いではないですか?私は人様にマスターと呼ばれるような偉い人では無いのですが?」


 「ナイン。マスターのパーソナルデータをスキャニングした際に、当基地に対するアドミニストレーター(管理者)権限をお持ちなのが判明しました。」


 「私より上位の存在と認識しましたのでマスターと呼ばせて頂きまス。」


 ちょっと待て。俺はこんな場所知らないし、こんな場所のアドミニストレーターなんぞになった記憶もない。


 しかし、このままではらちが明かない。ここは一旦、話を合わせて情報を引き出そう。

 「分かった。では質問する。この基地は何の基地だ?所在地は?基地の要員はどこにいる?」


 「ここはエウレシア大陸に位置する自由連合軍情報局第1基地”モスコー”でス。」


 「惑星テロン上のあらゆる情報を収集分析するのを目的としていマス。


 当基地はテロン「統一歴元年時点から現在までの1000年間、休止状態にありました。」

「人間の要員は現時点では存在していません。」


 AIから聞いた話をかいつまむとこう言う事だ。


 今から1000年前、この惑星は全人類の3割以上の人口を占める覇権国家の世界統合機構とその同盟国軍(通称:機構軍)、それに対抗する自由主義国家の連合軍(通称:連合軍)とに分かれて世界大戦に突入した。


50年に渡って続いた両者の血みどろの戦争は、連合軍のかろうじて勝利に終わろうとしていた。


 しかし、最後に機構軍は、最起死回生の一手として秘密裏に開発していた生物兵器を惑星上に放出、生物兵器は自己進化・増殖を続け、開発した統合機構にもコントロール出来ない状況となり、当時の人類の80%が死滅した。


 基地の要員が死滅した時点から、この基地は休止状態に入ったという事だった。


 そうした中で、突然、サーバーにアクセスしてきた俺を感知してスタンバイ状態から復帰した彼女は対抗して俺にスキャニングをかけたとの事だ。


 「なあ。それで今、外の世界はどうなっているんだ?」


 「休止状態が解除されるまでの1000年間、外部調査を行っていまセン。現在、惑星軌道上の人工衛星と偵察ドローンを使った情報収集を進めていまス。データ解析までには24Hほどの時間が必要デス。」


 24時間後、AIからの報告があった。現在惑星上にはエウレシア、メリカ、アフール、アウストという、大陸に分かれ、その周辺には大小の島々が点在する。


 これは1000年前と大きな変化はないそうだ。


 文明の規模は地球で言えば中世ヨーロッパレベル。あちこちに城のようなものが築かれている事から、大小の国家に分かれているのだろう。


 偵察ドローンが拾ってきた人類の音声を分析した結果、言語については多少の変化はあるものの、1000年前の言語が通用するだとの事だった。


 特筆すべきはドラゴンやオーガ等、ファンタジー小説に出てくるような生物が確認されたこと。人類にも獣人や竜人らしき姿も確認された。


 1000年前は確認されていなかったことから、機構軍の生物兵器研究所の実験体が脱走して野生化したのではないかとの推測。これも戦争の負の遺産ってわけだ。


 ちなみに俺を襲ったお化け鼠だが、地殻変動の影響で基地に出来た亀裂を通って外から侵入したらしい。


 既に亀裂は塞がれ、他の侵入者もガードロボットにより駆逐されたそうだ。


 さて、外の状況は分かった。これから俺はどうするべきだろう。このまま基地のAIと一緒に居ても何の楽しみもない。


 体は機械になってしまったがこんな所に縛られていたくはない。俺はAIに相談してみることにした。


次回、新たな仲間との出会いと旅立ちの準備です。


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