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彼女が昔ニンゲンだった時  作者: 志摩
1-1 異世界からの訪問者
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1、異世界の生き物たち




 私たちはまず、さっき水をぶつけて放置してきた巨大アルマジロを回収しに向かっていた。



 今いるところはスーパーから少し離れた田畑の区画、居住区からは少し離れたところだった。

「ディーネは他の生き物と会話できるの?」

『できる。言語的なものでなくても伝わる』

「テレパシー的なやつかな」

『そうだろう』

 ディーネにもよく分からないのか、曖昧な返事。どういう原理か考えたこともなかったのか、こちらの言葉に表現するのが難しい、及びめんどくさいのか。もしかしたら私にもできるのでは、それでよかったのではないだろうかという疑問が浮かぶ。

『人間の言語は理解しておいた方が良いと思ってね』

「あれ、口から出てた?」

『出なくても、そんなことだろうと思ったよ』

 基本的に賢い、感がいい、それに加えて能力、身体機能が高い。人間なんて踏み潰される葉っぱくらいなんじゃないだろうか。




『いた』

 さっきの巨大アルマジロはまだ伸びたままだった。

「あれって何て言うの?」

『〜〜』

「うん、分からない」

 こちらの能力的にドラゴンの言葉を理解するには数時間では到底無理だった。

『石、岩? この世界でのネズミ? のようなもの』

「じゃあ岩ネズミ、と呼ぶことにしようかな。よくネズミなんて知ってたね」

『ナナはいつもネズミを見ていたようだから』

「そうね、はは……」

 私は市営の食堂で仕事をしていた。ネズミ、タヌキ、ネコなど、ゴミを漁りにくる小動物とゴキブリなどの虫はよく目撃する職場だった。

 ディーネは器用に両脚を使って岩ネズミを持ち上げる。

『まだ意識が戻らないな、強く叩きすぎた』

「おかげさまで私は助かりましたので」




 すぐに戻って地面に降ろすと、モゾモゾと動き出した。

「うわあ、動いた」

『意識が戻ったようだ』

 ディーネも地面に降り立ち、私は背中に乗ったまま隠れるようにしていた。

『ーー! ーー』

『〜〜』

 鳴き声と鳴き声の会話なのか、一方的な指示なのか。なんと言っているかはさっぱり分からない。

『ーー! ーーーー!』

『どうやら群れでの食事中にこちらに来たようだ』

「え! じゃあこの子達いっぱいいるの!」

 驚いてディーネの背中から顔を出すと、岩ネズミが私を見て驚いて後ろに跳ねた。

「ごめん、大きい声出して」

『ーー!』

 何か叫んでいるようだ、何か問題を起こしてしまったかもしれない。

「やばいかも」

『大丈夫。驚いただけ』

 そんなことを言われても、私はさっきあなたに殺されるかと思ってました。

『ーー! ーー!』

『〜〜。ナナ、飛ぶよ』

 いきなり圧がかかり、一瞬でディーネは宙に浮かんだ。

『この子達は岩とか鉱石、鉄とか。土でもいいらしいけど、その辺りを食事とするらしい』

「それで車に突っ込んでて、何かが作用しておかしくなったのか」

 これはまずいことになった。車を食料とされると私たちは移動ができない。人が乗っていたら怪我だけでなく死んでる可能性も高い。

『大人しい生き物なんだ、元々は。腹が減っていなければ危険は少ないんだが、タイミングが悪いね』

「お腹空いてるとやばいの?」

『手当たり次第食べるからな』

 それはつまり、人がいてもそのまま食べることを指すのか。車に乗った人とか、土のあるところで作業してる人とか。

「どこにいるか分かるの?」

『気配を追える。全部か分からないが、近くの者たちは急いで集めた方が良さそうだ』

 ディーネは今までとは比べられないほど早く飛び、私はしがみつくのでいっぱいいっぱいだった。




 スーパーの近くを見回って、1匹は建物にかじりつき、1匹は自転車置き場に転がっていた。

 建物には人がいなかったので、被害はゼロ。自転車はだいぶ食い散らかしてあって、満腹で寝ていたようだ。人の被害はこちらもゼロだった。

 これだけ見回っても、生きている人間には出会えなかった。私が見えていないだけではなく、ディーネも気配がないという。一体どこへ行ってしまったのだろう。


 その後は大きな音がしていた荒地を見に行った。元々何の建物だったのか分からなくなっている廃墟には、5匹ほど群がって食事をしており、ディーネはその建物ごと水で包むようにして運びこんだ。

 合計8匹になったところで最初の岩ネズミに確認してみると、あと2匹の子供がいるらしい。子供たちは先に食事をとっていたのでお腹が空いていない可能性が高いようだ。もしかしたら眠っているかも。そうなるとどこにいるのかの見当がつかない。

 ディーネと私は他の生き物も運びながら探して回ったが、見つけられなかった。その代わりに見つかったのが、ツノが生えた大きな猫のような生き物と、胴の長いタヌキのような生き物だった。猫とタヌキは私と同じ位か少し大きい位の大きさだった。臆病な性格らしく人を襲う事は無いようだ。廃墟の影や、畑の野菜や雑草の群れに隠れるようにして集まっていた。

 この猫とタヌキは草食らしく、畑に残っている食べ物や雑草を食べるから、放っておいていいとディーネは言っていた。

 あとは見つけられていない、2匹の岩ネズミの子供。気配は近くにないらしいから、他を探しながら一緒に見回らなければ。

 ディーネが探している卵も、まだ見つからないようだ。

 

 もう少し先へ行けば住宅街が2箇所、その間にある学校。学校の先には森林が続いて、その先からは隣町になる。隣町まではいけなくても学校までは見てこないといけないだろう。

 先は長い、お腹も空きすぎてピークを超えていた。

 太陽は傾き、そろそろ夕陽が眩しくなる頃だった。携帯電話は電池切れ、電波が戻ったとしても連絡も取れない。先が思いやられた。






「どう?」

『ここには人間しかいないようだ』

 生き物達の拠点を離れ、学校の方の区域へ向かっていた。そこまでにいた生き物達は拠点へと移しながら。たどり着いてみると、学校にはとりあえず問題はなさそうだった。どこも崩れてはいないし、何か入った様子もない。

 しかし私たちが様子を見るために上空を飛び回ったせいか、悲鳴や叫び声が聞こえてきた。

「これはやばいかも」

『私の姿を見て、怯えているのか』

「多分ね。ディーネ、少し降りてもいい?」

『分かった』

 ディーネは旋回をやめ、グランドへと降り立つ。私は背中から降りて、ディーネに待つよう伝えて校舎へと向かった。

 ディーネは置物のように、固まって待っていた。



「あのー、誰か出てきてくれませんか? 私はただの人間ですからー!」

 正面玄関の前に立って叫んでみた。ここの卒業生なので、職員室へ入るのは簡単だが、勝手入ればそれはそれで揉めそうだ。知ってる先生がいてくれるといいのだが。私が通っていたのもは10年も前だから望みは薄い。

 しばらく待ってみたが、誰も出てきてはくれなかった

「卒業生の太田ですー。太田凪々ですよー。誰か知ってるでしょー」

 言ってみてからとても恥ずかしくなった。何でこんなこと叫ばないといけないんだ。

 職員室に窓ガラスから、中で数人が話し合っている影が見えている。やっぱり誰も出てきてはくれないようだ。

 恥ずかしい思いをして叫んだのに、無駄だったようだ。もう少し待って駄目なら戻ろう。まだまだやることは山積みなんだから。

 職員室の影に動きがあった。誰か出てくるようだ。

「ななー! 高等3年2組の太田凪々なの!」

 女の人の声が聞こえ、職員室の勝手口から走りながら出てきた。

「増井! 副担の増井桃子ましいももこだよ!」

 どうやら知り合いがいたみたいだ。高等部の副担任だった、通称イモコ先生。うちの死んだ祖母が通っていた園芸教室の娘さんで、新任でこの学校へ入ってそのままいたのかもしれない。祖母と一緒にプライベートでも会ったことのある人だった。偶然という奇跡というか、いてくれてありがとう。

「イモコ先生じゃん! 久しぶり!」

「イモコって言うな!」

 向かい合って早々、頭を叩かれてしまった。

「ちょっとナナ、何であんたあんなのに乗っかって来たのよ」

「それを話せば長くなるので、また今度で」

「いや! 今でしょ! 何しにきたのよ!」

 正論だが、お茶を飲みながら昔話に花を咲かせている訳にもいかない。

「ディーネ! 少しこっちへ!」

『大丈夫なのか?』

「私の知り合いよー」

 ドラゴンが会話をしている事に驚き、恐怖からか私の腕にしがみついてきた。

「何で喋ってるの! もう訳分かんないんですけどー」

 イモコ先生は泣きそうなのを必死に堪えているようだった。

 ディーネはゆっくりと近づいて、頭を低くして這いつくばった形になった。

『私に攻撃の意思はない』

 その様子を見てまた驚いたイモコ先生は、私の腕を掴んだまま体が揺れるほど引っ張った。





「何なのこれ! どうなってるの!」

「話せば長いので、また今度にしてほしいな。とりあえず攻撃の意思はないと言いにきたんだよ。今は異世界の生き物たちを1箇所にまとめてて。それが終わったらまたくるから」

「異世界の生き物?」

「そうそう」

「何で異世界の生き物がいるのよ!」

「それも離すと長いからまたで」

「お昼すぎにもドラゴンみたいなのが2匹飛んでたのよ!」

『それは本当か!』


「うああ、喋ったー!」

「探してる子かな」

『おそらく』

「電気も水も止まってるし、電話はできないし、誰も迎えにきてくれないし」

「そうか、やっぱり復旧してないんだ」

『水だけならなんとかなるんだが」

「そうだよね」

「え! お水あるの! まだ足りてるけど、このままここにいるとなると足りなくなるんだ」

「じゃあまたあとで来るから」

『他のドラゴンはどこを飛んでいた?」

「え、あ、はい、裏山の方です」

『助かった、ありがとう』

「あ、どういたしまして」





 イモコ先生は不思議そうな顔をしていた。

「別に悪い子じゃないんだよ、ドラゴンは。私のたちと手を取り合おうとしているの」

『この世界にお邪魔して悪いのは分かっているけど、帰り方は不明だ』

 私はディーネの背中に乗って、手を振った。

「じゃあまた来るよ、先生達も頑張って」

「えー! ちょっと!」

 ディーネは頭を上げて、飛び立つ姿勢をとる。

『急ぐよ』

「分かった」

 一気に上昇して、先生はあっという間に小さくなっていく。

 イモコ先生が何か言っている声がする。しかしここは安全な場所らしいから、放っておいても平気だろう。今はもっとやらなければならないことがある。私だって本当は叫びたい、助けが来るなら早くきて欲しい。娘に会いたい。

『いいのか』

「うん、早く他のこと何とかしなくちゃ」

 私とディーネは急いで裏山の方へ向かった。






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