2、 ドラゴンナイト
音が聞こえる、なんだろう。
ぼくはまだねむいのに、パパとママがなにかしてるみたいだ。
「なあに?」
「ごめんね。うるさかったね」
「出かける準備してたのよ、ミナトは抱っこしていく? ベビーカーに乗る?」
「ううん、ねたいよ」
まだ明るくなかった。まだ夜なんだと思う。出かけるって言ってたけど、こんな時間に行くとは思ってなかった。
「そうだよね、とりあえずベビーカーで寝てなー」
ぼくはそのあとまたねむったんだと思う。
「起きた? よく寝てたね」
気がついたら、道路の真ん中の線が見えた。ママがぼくを見ていて、カバンからおにぎりをくれた。
「朝ごはん、食べる?」
「うん」
ぼくはまだねむいから、おにぎりは手に持っていた。食べるのはまだあとででいいや。
「ごめんなあ。車動かせたらいいんだけど、もうガソリンもないから、この時間に出かけないとダメなんだ。車だったら20分とか30分なんだけどなぁ」
「この前も帰りで止まって、そのまま道路に置いてきちゃったから」
「ガソリンも入れられないけど、盗むやつもいないだろう」
「そうよね、みんなどうしてるのかしら。うちは少し離れてるから、様子見に行くのも大変だし、この前も大騒ぎで大変だったから」
「ママが言ってた話なぁ。本当なんだろうけど、なんだか信じ難くてな。ドラゴンだって言ったってよ。あのナナがそんなことになってるなんてな」
「ナナちゃん?」
ナナちゃんは、あのナナちゃんかな。
「そうだ、ミナトもよく遊んでたから覚えてるのか。いつもウチの米とか野菜を買いに来るナナちゃんだよ」
やっぱりぼくの知ってるナナちゃんだった。たしか、パパと同じとしで、同じ学校で、ママのばあばの家の近くに住んでる。ぼくといっぱい遊んでくれる人。
「ママ、ドラゴン見たって言ったじゃない? それね、ナナちゃんが乗ってたのよ」
「ナナちゃん、ドラゴンナイトなの?」
「そうそう! 龍騎士ガロンだな! ドラゴンナイト!」
ぼくがよく見てるテレビで、ドラゴンナイトっていうドラゴンといっしょに悪いやつをやっつけるヒーローのことだ。パパも好きでいつも一緒に見てるやつ。
「ナナちゃんかっこいいね」
「そうだね」
「青いドラゴンだったわ。なんだか延夫さんと八千代さんと送ってきたとかって」
「なんだか遠い世界の人になっちゃったよな」
「そうよね、ドラゴンがいる世の中なんて、テレビみたいだよね」
「そうだよな、それこそ竜騎士ガロンだよ」
「ドラゴンナイト!」
「ホントに好きよね。あんたら」
「そりゃもう、ドラゴンに乗って、変身して敵をやっつけるんだぜ! 男はみんな好きだろう! ああいうの!」
パパはドラゴンナイトのおうた、うたってる。
ナナちゃんはいつの間にドラゴンナイトみたいなヒーローになってたんだろう。
ドラゴンいいな、ほくもほしいな。
「ドラゴンのってみたいな」
パパもドラゴンほしいみたい。
「ナナちゃんなら乗せてくれるんじゃないの?」
「そうだろうな。俺も一度でいいから乗ってみたいな。そんだって、ドラゴンだぞ。びっくりして死んじゃったらどうしよう」
「そんなんで死んでたら、とっくの昔にいなくなってるわよ」
パパがドラゴンのったらしんじゃうって言ってる。ドラゴンナイトはみんな強い人だから平気なのかな。
「ドラゴンのったらしんじゃうの?」
「いやいや、大丈夫だよー。それくらいびっくりしちゃうってことだよ。俺飛行機でさえ乗ったことねぇからな。ミナトだって、空飛ぶのなんかどんな感じかわかんないだろ? パパもわかんないんだ」
「そっか」
パパはとても楽しそうだった。
ドラゴン、ぼくものりたいけど、ひとりだとこわいからパパといっしょがいいな。
「もう少しで着くからね。待っててね」
まだ道路と畑と、山と草しか見えなかった。早くみんなのおうちの方につかないかな。
おなかが少しすいてきたから、ぼくはもらったおにぎりを食べる。たくあんが入ってた。この前はきゅうりのつけものが入ってた。ぼくはきゅうりのがすきだな。
おにぎりを食べるのが終わって、またねむくなってきたころにやっとおうちがいっぱいの場所まできた。ナナちゃんのおうちはもうちょっと遠い。
「集会所に行って誰もいなかったらナナちゃんとこ行ってみるかな」
「そうだな。今がもう11時半過ぎてるよ。疲れちゃったな。家出たの6時くらいじゃなかったっけ?」
パパはめざまし時計をカバンから出していた。
「休み休みきたんだからしょうがないじゃないの。この時間なら誰かしらいるでしょう」
ママがベビーカーをぐるっとまわしたから、ぼくは少しびっくりした。しゅうかいじょってところに行くからだと思う。
この道を曲がらないでちょっと行ったらナナちゃんちが見えるんだった気がする。
「どれどれ、誰がいっかな?」
パパが先に走って行っておっきなマドガラスの方をのぞいていた。
パパはそのままおうちの後ろの方に走っていっちゃう。
「だめー?」
ママが大きい声を出してきいた。
「いないぞー、ダメだな」
後ろからパパの声がしてびっくりした。
「ナナちゃんのところ行ってみるかー」
「そうしよう」
みんなでそのままナナちゃんちのほうに行った。
「どうかな? 誰かいるかな?」
「静かっぽいな。いないかも」
「ええー、せっかく歩いてきたのにー」
ナナちゃんのおうちの前まできたけど、だれもいないみたいだ。
「こんにちはー! 大森米屋でーす! 誰かいますかー!」
パパがおっきな声をがんばって出して聞いてみた。でもお返事は聞こえない。
「ーー」
「こんにちはー!」
「ーー」
「いないな、これは」
「まずいなー。ここまできたのに、何にもならないよー」
パパもママもつかれちゃったのか、ナナちゃんちの前の道路にすわっていた。
ぼくはベビーカーにのっていたすいとうをパパにあげた。
「ありがとう」
パパはごくごく飲んで、ママにもあげた。
「まいったな」
「どうしようね」
ナナちゃんに会いにきたけど、会えないかもしれないみたい。このままおうちにかえるのかな。
『〜〜』
なにか聞こえる。
『〜〜』
また聞こえた。
パパもママも聞こえないみたい。
まだ道路にすわって、はー、ってしてる。
「なにか聞こえるよ、あっち」
ぼくがおしえてあげると、そっちを見るけど、こんどは音がしない。
「なんだろう? 聞こえないよ?」
ぼくは音がしたほうを見ていた。
『〜〜』
「聞こえた!」
パパとママを見たけど、聞こえてないみたい、わからないって。
「行ってみるか? なんだろな」
「ここまできて誰にも会えないのもね」
聞こえないけど、行ってみるみたい。
『〜〜〜〜』
さっきより声が大きくなった気がする。
「また聞こえた」
パパとママはまた声の音をさがしてるみたいたけど、わかんないみたい。
「ミナトにしか聞こえないのか?」
「なんだろうね」
『こっちだ』
こんどはちゃんと聞こえた。
「こっちだって」
声の聞こえる方を見たら、なにかとんできた。
『だれかいたー!』
ぼくの目の前に黒いちっちゃなドラゴンが飛んできた。
「なんだ!」
パパがびっくりして、ぼくの方に走ってきた。
『こえがきこえたよー』
ドラゴンがくるくるまわってとんでる。
パパの声が聞こえたって言ってる。
「パパ! ドラゴン!」
「嘘だろ! なんだこれ!」
黒くて、おっきい目をしたかわいいドラゴンだった。
「この前見たやつじゃないよ? どういうこと?」
ママが言ってる。ママは青いドラゴンを見たって言ってた。
「ヘイー! 先に行かないの!」
上から声がした。
見てみたら、おっきいドラゴンが飛んでた。
「わー! なんだこりゃ」
「あれだよ! ナナちゃん!」
ドラゴンが近くにきて、黒いドラゴンをつかまえてた。
「ナナちゃん?」
ママが大きな声出してよんでる。
「はーい!」
ぴょんとジャンプして、ナナちゃんがおりてきた。
「なんだお前! すげえな!〜〜」
「ナナちゃん! ちょっと!〜〜」
パパもママもいっしょにしゃべってて、なに言ってるのかわからなかった。
「まあまあ落ち着いて」
ナナちゃんはこまってる感じだった。
「こんにちは!」
ぼくが言ったら、ナナちゃんは笑ってる。
「こんにちは! ミナト! 元気だった?」
ナナちゃんはホントにドラゴンナイトになってた。
パパママはナナちゃんと話すから、ぼくは少し静かにしていてって言われた。
ドラゴンがなんでか少しちっちゃくなって、ナナちゃんの上をとんでいる。
黒いドラゴンは青いドラゴンにだっこされてて、赤ちゃんとママみたいになってる。
なんかかわいい。
「ここらの人達は皆んな学校に集まってるのよ」
「そっか、それでこんなに静かなんだね。うちは少し遠いから全然分かんなかったよ。もっと早く来ればよかったね」
「しょうがねぇな。こればっかりは、車もダメだし、電話もつながらない、充電も切れるし、何にもダメだ」
「そうなのよ。なんだか電気はみんなやられてるのよ。学校もソーラーシステムで自家発電機らしいんだけど、一切動かないんだって。だからもう何にもできないって」
「それなのに集まってなんとかなるのか?」
「家にいても仕方ないのよ、きっと。うちは農家だから食べものには困らないけど、みんなそうじゃないでしょ」
「そうね、とりあえず食べる物はあるし、誰かと一緒にいるってことに安心する部分はあると思うわよ」
「それはそうかもね。連絡が取れないなんてあんまりあることじゃないもんね。不安になっちゃう」
「みんなそうなのよ。あとはまだ状況がよく分からないから身動きが取れなくって。助けが来る気配がないのよ」
「電気がダメだと、やっぱり電話ダメだろ?」
「あれは? 無線みたいなのは?」
「連絡手段はないみたいなのよ。なんにも繋がらないって。そもそも世界の? 地球の? 状態が変わってるから、何が良くて悪いのかもわからない」
「なんだそりゃ」
「見てわかるでしょ? この世にドラゴンがいるのよ」
「そりゃドラゴンがいたけどさ、そんなこと言われてもよ」
「ドラゴンといえば魔法とか? あり得るってことじゃないの?」
「なんだよ、ドラゴンがいらからって魔法使いがいるなんて、夢の話じゃねえか」
「いやね、ドラゴンがいるんだし、魔法も使えるかもしれないんだわ、これが」
「なんだって!」
「ほら! だから言ったじゃないの!」
「まあまあ、そんなに驚かなくたって」
「驚くでしょ!」
「俺たちは、ドラゴンでさえ驚いたよ! ナナがそんなに普通にしてる方が不思議だって!」
「そうなのよ! ナナちゃん、ちょっとまだ頭がついていかないんだから。もうどうかしちゃうわよ」
「ドラゴンたちがいて、少しずつだけど、食べ物や水や、作ったり集めたりしてるんだ。こんな状況になってやっと1週間経ったくらいだから、自分たちにできることなんてまだまだわからない事ばかりたけど。私は他の人とはちょっと違う人になったらしいのは分かってきた。他にも私みたいな人がいるんだけど、それはおいおい話すよ。私も今朝初めて会ったんだけど、やっぱりドラゴンたちがいるおかげで生き残っていられる感じだね」
「なんとも不思議な世の中になったもんだ」
「そうよね、私たちだけじゃ生きていけない世の中って。昔の人たちはどうやって生きてたのか、車も動かないんじゃ何もできないんだもの。すごいよね、豊かな時代になって、私たちは色々なことをやらなくなってるのよね」
「ナナはドラゴンナイトになったのか?」
「ドラゴンナイト?」
「ミナトがよく見てるテレビなのよ、ドラゴンナイト」
それはぼくにもわかる!
「竜騎士ガロンだよ!」
ぼくが言うと、みんなでぼくを見てわらった。なんだかはずかしくなった。
「ドラゴンと一緒にに敵と戦うテレビだな」
「ドラゴンには乗ってるけど、敵っていう敵が現れてる訳じゃないから。合ってるようで合ってないかな」
「敵がいたら、大変じゃない?ナナちゃんだって戦うようになるの? いなくてよかったわ」
「とうだがな。未知の生き物ってのは、戦うもんだろ? こう、ズドーン! って襲ってきたりさ」
「いや、今のところそこまで酷い争いは起きてないかな。この辺では」
「この辺ではってのが、なんとも嫌な感じね」
「ディーネが、そう言ってるのよね。私も見た訳じゃないから」
『ここじゃない場所では、争いは起きているよ。人との争いなのか、私たちの世界の生き物同士で争いが起きてるかはわからないけど』
「え!」
「なんだ!」
「あ、今のディーネがしゃべってて」
「ドラゴン喋るのか!」
「なんだ! びっくりした! アニメみたい!」
「いや、さっきだってヘイが喋ってたじゃない」
「さっきの黒い方! 確かに!」
「まあまあ、落ち着いて。とりあえずみんなもいるし、学校行くなら連れて行くけど、どうする?」
「行けるならありがたいんだけど、何にも考えてなかったから、荷物も何も持っててきてないのよ」
「とりあえず様子見るだけ見て、夜までにはなんとか帰ろうと思ってたからな、こればっかりは仕方ねえよ」
「家くらい寄って行けばいいじゃない。ひとっ飛びなんだから」
「ドラゴンに乗って行くのか! こりゃ嬉しい!」
「私はちょっと怖いわ。高いところ」
「じゃあ歩いてくるのか?」
「いや、乗せてもらうわ」
「なんだよ」
「ああもう、こんなことで喧嘩しないでよ」
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パパとママと、ナナちゃん。
3人でずっと大人の話ってのをしていた。
話が長すぎてとちゅうからもう聞くのをやめて、お空にいるドラゴンを見てた。
そっちのがずっとずっとおもしろかった。
ぼくはなんだかよくわかんないけど、パパもママもちょっと声が大きくて、元気いっぱいで話していてのはわかった。
ママがおしえてくれたのは、ぼくはみんなでおうちに帰ってから、みんながいる学校に行くってこと。ナナちゃんにはドラゴンの名前を教えてもらった。
ディーネとヘイって言うらしい。
おうちがとっても小さい。
空をとんでいるのって、ちょっとだけこわかったけど、すごく楽しい。
お空が青くておてんきだったら、もっと楽しいだろうなと思う。
ナナちゃんが、ボクのかたをちょんちょんした。
「ミナト、怖い?」
「怖くないよ」
ナナちゃんの青いドラゴンにのせてもらって、ぼくたちは学校にむかってた。
他にもいっぱいドラゴンがいるらしい。
ぼくはたくさんのドラゴンに会えるのが楽しみ。
早く学校につかないかな。
友達にも会えるかな。みんな元気でいるといいな。




