1、 赤いきれいな石
「これなんだろう?」
赤くて、きらきらした、ビー玉みたいな、玉子みたいな、川に落ちてるきれいな石みたいなもの。ちょうどぼくの手につかむとぎゅっとつかめるくらいの、ずっと持っていたくなるような石。
なんだかとってもいいものを見つけた気がする。今日はお天気もよくなくて、お空が暗い。それでもなにかピカピカして見えたからゲットした。
ちょっとあったかい石。きらきらのやつ、もえてるみたいな、赤い色がいっぱいまざった石。
「みーなーとー、遠く行かないのよー」
「わかってるよ!」
そんなに遠くないじゃん。
ママは後ろむきでおせんたくしてるけど、ときどきぼくをよんで、ぷんぷんおこる。
ぼくは今日もママのおせんたくを待ってないといけない。
お空が急におかしくなって、へんなかいじゅうがいっぱい出てきたから、ぼくは家から学校に行けなくなった。
ぼくは、あの日かぜでねつが出ていて、学校をお休みしていた。
友だちに会いに行きたくて、学校に行きたいんだけど、ママは、遠くに行けないのよ、とそればっかり。
「みなとー、おうち帰るよー」
「はーい」
ママはおうちの水が出なくなってしまってるから、お庭のいどっていう丸いやつのところでせんたくをしていた。ぼくはこのいどに水が入っていたのをはじめて見た。いつもはフタをしめていて、ママは子どもの頃にしか開いていたことないって言ってた。おじいちゃんとおばあちゃんが子どもの頃に使っていたって言ってた。
みんなのうちにはないみたいで、ぼくはなんたかはずかしかったんだけど、もしかしたら、今みんなはこまってるけど、ぼくの家だけはだいしょうぶなのかもしれない、と思っている。
ママが近くに来たので、いっしょに家まで帰った。パパはまだ畑にいる時間だから、ぼくはママといっしょにおるすばん。テレビはつかないし、電気もつかないし、ゲームもできないし、パソコンもできないし、やることがない。つみきや本を読むのも、すこしだったらがまんしてたけど、もうあきたからやりたくない。
外に出てるのも、明るい時間だけだから、夜は何もやることがない。パパがいらない葉っぱに火をつけて、明るくしてくれるけど、なんだかくさいし、煙がとんでくるし、早く前みたいに電気がついてほしい。
パパとママになおしてっておねがいしたけど、できないって言われちゃったから。電気屋さんにおねがいしないと、電気はつきません。だってさ。
パパはのうかって仕事で、いつもお野菜を作ってる。ママもいっしょにはたらいてる。だからお野菜は作れるけど、電気は作れないって言ってた。
ぼくは、今、勉強しなくていいっていうのがうれしいけど、学校に行けなくて、つまんない。
だから家にいるのがいやで、しょうがないから、ママといっしょにせんたくに行ってあげる。
「みなと、今日は何して遊んだの?」
「これ。ひろった」
ぼくは赤いやつを見せてあげた。
ママは変な顔をした。
「何これ、たまごみたいな形の石? かしら。どこにあったのよ」
「くろいの、あそこ」
ぼくはママにおしえてあげた。
「あっち? ああ、パパが火を焚いた煤を置いてたところね。なんでそんなところにいしがあったのかしら」
ママはまたへんな顔をしてる。
ぼくは自分の手を見てみた。なんだか黒くなってて気持ち悪い。
「なんだ、おてて真っ黒になってるのね。みなとの手で綺麗にしたのかな。もともとと庭に転がってた石なのかしらね」
ママがぼくの手をつかんで、さっきのいどのところまでひっぱっていく。
「綺麗に洗ってね」
ぼくはせんたくしてた大きなバケツに手を入れてあらった。
「そろそろパパ帰ってくるかしら。全く不便になったわ。なんの状況も分からないなんて」
ママが先に家に帰って何かしゃべってる。
ぼくはうるさいのがいやなのでゆっくり手をあらった。
パパが帰ってきても、なんにもやることはないし、ママとずっとケンカしてる。どこに行こうとか、行かないほうがいいとか、ごはん食べたいとか、いろいろ。
パパの畑はまだまだお野菜がないって言ってた。今はじゅんびの時間なんだって。食べられるお野菜はあんまりなくて、葉っぱ、葉っぱ、葉っぱ、ってくらいのみどり色。
くらにあるいもとおこめばっかり食べてる。ぼくはハンバーグとか、オムライスとか、唐揚げとか、エビフライとか、おいしいのが食べたい。
ぼくのおうちはお金持ちじゃないから、ごはんとお野菜ばっかりで、おいしいのはあんまり食べられないんだけど、それでもいつもよりもっとおいしくないものばっかりだと思う。ママはごはんがあるだけいいのよって言うけど、からあげとか、ケーキとか、おたんじょうびしゃなくても、毎日だって食べたい。
ぼくは手があらい終わったから、家にもどった。ママが赤いやつをえんがわにおいてって、そのままだったから、ぼくは自分のおなかのところにあるポケットに入れた。
やっぱりなんだかあったかい気がする。外のお水はつめたいから、そのままいっしょにポケットに入れて、あったかくしてよっと。
えんがわにひばちっていうのが置いてあって、パパがそこに木とか葉っぱを入れて火をつけている。家をあったかくする、エアコンと、ヒーターは電気で動くから、使えないってさ。だからここであったかいののかわりに火をつけるって言ってた。
はじめはすみって言う、黒いぼうを入れてたけど、すぐなくなったって、草を入れて、けむりがすごくて、すごかった。
かじみたいで、びっくりしたけど、しょうぼうしゃは来てくれないって、ママが言ってた。
この前、家の近くの集まる場所があるところで、ドラゴンを見たってママが言ってた。
ぼくも見に行きたいんだけど、大人の行くところだからって、行かせてくれない。
「なんだみなと、こんなところで寝てんのか」
パパが帰ってきた。
「ねてない。ごろごろしてる」
「そうかそうか、今日は天気が悪いから冷えるな。寒くないか」
パパは茶色い手をひばちの方に出していた。
「手、きたない」
「お、悪いな。洗ってくるよ」
パパはせなかに持ってたカゴを置いてって、手をあらったのかわかんないくらい早く帰ってきた、
「はー、まだまだ冷えるなぁ。おひさまはどこにいっちまったんだよ。ここんところずっと曇りだか、雷だか、風が強いだか、ひっでえ天気ばっかりだ」
パパがお空を見てた。
ぼくも空を見た。
今日は少し白っぽい雲だった。
ずっと黒い雲ばっかりだったから、今日はちがう天気だと思ったのに、同じに見えるのかな。
「これ。ひろった」
パパに見せてあげた、赤いきれいなやつ、あったかいから。
「なんだ? 石拾ったのか? きれいだな、俺も好きだったなぁ、石拾うの。母ちゃんに怒られたなぁ。……そうだな、ママに怒られそうだな、ミナト、隠しとくか?」
パパが喜んだけど、ちょっと困ってた。
「ママ、いやな顔した」
「あちゃー、もう怒られたか」
「でも、これ持ってる」
ぼくは返してと、パパの方に手を出した。
「おう、怒られたら教えるんだぞ。パパがいいって言ったんだって、ママに教えてやるから」
パパはぼくの頭をなでた。
「ちょっとこれ片付けてくるからな、ママご飯作ってるだろうから、家入るか?」
「ここにいる」
「そうか、火鉢の側はあったかいけど、触ると火傷するから気をつけるんだぞ」
「うん」
ぼくはパパがカゴを持っていくのを見てた。今日も葉っぱがいっぱい入ってた。食べるやつか、すてるやつか、どっちなんだろ。もう葉っぱとごはんばっかりで食べたくない。
毎日、毎日、つまらなくて、遊ぶこともなくて、どこかに行きたい。
ママが見たって言ってたドラゴン、ウソつきじゃないなら、ぼくだってみたいな。空だってとんでみたい。
ドラゴンといっしょだったら、ぼくはもっと強くなって、なんでもできて、お話も上手にできるかな。みんなと同じくらい、かけっこだって、ジャンプだってできるかな。
悪いかいじゅうをやっつけるヒーローみたいになれるかな。ぼくだってテレビに出ちゃうかもしれないかな。
3月10日 くもり
今日は赤くてきれいなたまごの形の石をひろいました、あったかくて、ぼくはポケットに入れていっしょにねることにしました。パパとママが明日はお出かけするから、早く寝てって言うから、今日はみんなで早く寝ることになりました。ぼくもいっしょに行ってもいいって。学校に行けなくて、やっとお外に出られるから、とてもうれしいです。ママがドラゴン見たって言ってたところだから、ぼくも見たいなと思います。早く明日が来てほしいです。




