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彼女が昔ニンゲンだった時  作者: 志摩
2-1  ドラゴンのいる生活
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4、昔話をしよう 参





『変化できるぞ、当然じゃ』




 ディーネの方を見ると、首を振っている。

 おじいちゃんだけの当然だったようだ。ディーネが人間の姿になっているのを見たことがない。もちろん他の子達も。

『なんじゃできんのか』

 ディーネが胡散臭そうに見ていたので、おじいちゃんはなんだか拗ねた顔をしている。

 ふんと鼻息を鳴らして自慢するような顔つきでとてもとても重そうな身体を起こしてゆらゆら宙に浮かんだ。

『やってやろうじゃないか。若い頃しかやってないから上手くいかないかもしれんが、見せてやる』






 おじいちゃんはゆらゆらと漂いながら身体がゆっくり回転していき、身体の周りに光り輝く膜のようなものが見え始めた。

 だんだんと膜が厚くなってきたのか、白っぽいような、黄色っぽいような色になり、おじいちゃんの姿が見えなくなる。




『戦の訓練と同じ感覚じゃ。力を身体の全てに流して、強くしたり硬くしたり、大きくしたりする訓練と同じ。自分の思う姿に身体の形を変えるのじゃ。



 まずは、身体を力で満たす。この世界ではやりやすそうじゃな。



 どれどれ……』






 おじいちゃんの声だけが聞こえてきて、ディーネはますます怪しげな顔で見つめていた。

 私や先生たちは興味津々で見上げている。



『上手くいきそうだぞ』



 ゆらゆらと白っぽい塊が降りてきて、私の目の前まで来る。手のひらを差し出してみると、その上に漂うように止まった。

 光が消え、膜のようなものが薄くなって中が透けて見えてきた。確かに人のような形に見える。しかしこれはなんとも……。













『昔使っていた形のせいか、身体が辛いの。年寄りが若作りはするもんじゃないな』

 確かにおじいちゃんの声だ、しかし姿形は私と同年代の男性に見える。服装はどこか異国チックな着物のような、古代ローマみたいな感じ。異世界の人なんだろうから、服装に違和感があっても仕方がないんだと思う。




「……ちっちゃくない? こんななのおじいちゃんの知っているそっちの世界の人間って」

 どう見ても私の手のひらの上に立っている、およそ30センチくらいのサイズだった。

 氷之沢先生が意外にも、お口を手で隠してお上品な感じで吹き出して笑っていた。

 


『大きさはこれで仕方がない。疲れちゃうから無理じゃ、諦めた。元々はちゃんと人間の大きさをしていた。もう年寄りには厳しい』



 ディーネの顔が近づいてきて、初めて見た人への変化を真剣に見つめている。

 一度見たらできるような技術じゃなさそうだが、魔法っていうものはどれだけ奥が深いのだろうか。

『どうやってそこまで形が変わるんだ?』

 ディーネからの質問だった。



『うむ、基本的な身体の構造は頭で理解しておく必要がある。あとはだいたいの大きさや形を想像する。人間の姿は初めは誰かのものを真似るのが簡単じゃ。これは自分で考えましたものだからわしそのものじゃ』



『それ、じい様じゃなくてもできていた? じい様がやっていただけじゃなくて?』



『ちょっと待ってくれ、もう限界じゃ』




 おじいちゃんはまたふわふわ浮かんていって、白い膜のようなものに包まれると、ものの姿に戻った。






『辛い、辛いぞ。身体がちぎれるかもしれん』

 そう言ってよろよろと飛んでディーネの背中にぐたっと倒れ込んだ。

「若そうな人になってたけど、身体きついの? 元気になるんじゃないの?」

 この問いかけに大きなため息が返ってきた。

『そうならずっと変わっていたいと思うんじゃが。中身はじじいのままじゃ、もっと力があって、常に身体に力を使っていたら、身体の中身も何もかもを最高の状態で保つこともできる奴もいるんじゃが。わしは記録することを1番としているから無理じゃ。せいぜい外側をうまく誤魔化しているだけじゃ』

「体の構造を変えているわけではないの?」

 氷之沢先生が専門的な切り口で問いかけてきた。

『そうじゃな、大きさを変えるのは昔のランは普通にやっていたよ。近頃は変える必要も感じないからそんな訓練はしないかもしれん。あとは色々しまっている感じかの、色んな身体の形はあるじゃろ、部分的にも大きさは変えられるようになる。きちんと練習すればの』

『大きさを変えることはできるから、あとは形をうまく想像すればいいのか』

 ディーネはなんだか考え込みながら呟いた。

『まずは理解を深めることじゃ。無理やりにやってもうまくいかん。それにしても、背筋が伸びすぎて痛くなってきた。年寄りは年寄りの姿にならんとだめじゃな』

 おじいちゃんの声はいきなり語りだした時の元気な感じではなく、疲れたお年寄りって感じになっていた。

「なるほど、おじいちゃんの筋力のまま、若い人の姿勢を取るのが辛いと」

 無理やりに若者になるのは確かに辛そうだと思った。しかしドラゴンたちがみんな、訓練次第では人の姿になれるなんて。良いのか悪いのか、反応に困る問題が出てきたものだ。

 私たちはすごいねとか、興味深いとか、素直に受け止められていると思うんだけれど、悪いふうに思う人もいるかもしれない。

 人間のふりして近づいて私たちを騙そうとしているんじゃないの、みたいな。私も嫌な早々ばかりが浮かんできて、なんとも嫌な気持ちになる。疲れているのだろうか、こんな時は嫌なことばかりが浮かんできてしまう。


「あのー、先生方。この人になれる話はしばらくは内緒にしてもらえませんか?」

「どうしてそう考えたんですか?」

「いえ、今のところはまだできないみたいですし、ただでさえドラゴンたちをよく思わない人たちがいるのに、あんまり色んなことが起きない方がいいかと思って」

「確かに人の姿になるって怖いって思うかもしれないけど、人の姿なら怖くないって話ができるって思う方もいそうですけどね」

「そうね、確かに見た目が同じなら怖くないって思う気持ちはあると思う。でも私も言わない方がいいと思います。私たち人間の中にもう既に変化している何かがいるんじゃないかって騒ぎになりそうな気がする」

「それは、そうですね。確かにドラゴンだけじゃない他の何かも人になって集団に混じっているかもと、そういう発想はあり得ます」

 先生たちが少し不安そうな顔つきになった。今回はドラゴンの体を変化させる話だったけど、違う生き物たちが姿を変えることもあり得るのだろうか。

「ディーネ、実際そういう生き物たちはいるの?」

『今ここには人間しかいないよ、私たち以外は』

「そう、なら良かった」

『まあ、人間を食い物にしたいようなやつが出てこなれば。じゃろうな』

「え、何おじいちゃん。急に怖いこと言わないで」

『世界は変化の途中。もちろんわしらも人間も、それ以外も変化するはずじゃ。中には人間を食う奴もいるじゃろ、そうなれば姿を真似て誘い出しては食うってことはあり得る話じゃ』

『人間が滅んだ歴史があるからね。この世界はこれだけ数もいるし、外敵が少なかったんだろうけど。これからはそうも言ってられないだろう。私たちとナナたちと、交わってしまった世界や生き物を完全に分けることができればどうにかなるのかもしれないけど』

「それは元の世界に帰る的な話?」

『いや、無理じゃろうな。あの場所はもう消えてしまったはずじゃ』

『そうだと思う。このナナたちのいる世界の中に、私たちの世界の物全てを集めて関わらないようにするのか、交わった状態で上手く生きていくのか。上手くできるかは分からないけれどね』

「ま、また難しい話になってきました……」

 私の頭はたくさんの出来事を処理することができないので、もういっぱいいっぱいだった。

 氷之沢先生が察してくれたのか、私の方にポンと手を置いた。

「今日はとりあえずお開きにしましょう。とりあえず世界の成り立ちの部分について、この世界はどうなりそうなのか、私たちも考えて話し合ってみます」

「そうですね、とりあえず人に変身できる話は見なかったことにします。あなたもおうちに帰った方がいいでしょう」

 先生たちはそんな軽くて平気なのというくらい、さっと立ち去っていく。私の頭の中はぐるぐると難しい言葉が回っているのに、なんだか素敵な大人だな羨ましく思う。

 私は自分のつまづいたり転んだりで、怪我しながら右往左往している姿が浮かんだ。

『やっぱり長い話になったね』

「そうですね、なんだか考えなきゃいけないことがいっぱいで大変です」

『考えることは頭に良い。もっと励むと成長するかもしんぞ』

「そこはかもしれんじゃなくて、成長するって言い切ってほしかったなぁ」

 私はおじいちゃんとディーネに乗って、ヘイは寝てしまっていたので抱えてもらいながら帰ることになった。先生たちが校舎に入ったのが見えた。何人か人が集まってきて、何やら話をしていそうな感じ。

 また何か言われるのかな、嫌だな、憂鬱だな。そんな気分だった私に追い討ちをかけるように話しがつきないおじいちゃんのありがたい昔話を聞きながら、家に帰った。

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