3、昔話をしよう 弐
ペソとランの話ではいくつかの興味深い話がある。
バムイたちとの生活をするようになっても、ペソの数は減り続けていた。
なぜは分からないが、それが自然の流れなのだとしか言いようがなかった。
そんな頃、新しく子どもを授かった娘がいた。その子は若いランの騎士が守護していた集落の最後の子で、本当の意味でのつがいだった。
わしらの種族は人間に比べるととても長い時間を生きる、子孫を残すという行動を取るのものは時代に何人いるかという程度。そして何より世界には自然的に生まれることもある故に、とても珍しいことだった。そのつがいは人を庇護した故の、人の心や生き方に深く理解を示した為に、子どもを求めたとのことだった。
よく遊びに行っていた集落だったので、よくその子どもを見に行った。その子は母が人だった為に、人の姿をしておったのか、我々の強すぎる力を受け入れる器としては脆く、長くは生きられなかった。その子の母も後を追うようにしてすぐに死んだ。
人は弱すぎた、皆がそう感じていただろう。そのランはその後は人との間に子を設けることはなかったそうだ。
もう1つの話は、ナナによく似た話だと思う。よく聞いておくといい。
こちらは言い伝えのようなものだ。
かつて、世界に生き物が溢れ、繁栄の時代。沢山の生き物達が争い、手を取り、入り乱れていた頃の話だ。
その頃、ランはとても少なく、力は強いものの数で攻めてくる種族相手になす術もなく死んでいったそうだ。ある時そんなランたちのもとに世界の王になるべきという啓示が天から降りたそうだ。その啓示を受け、立ちあがろうにも集まった戦士の数はとても少なかったそうだ。
その頃もやはり数は少なく、力も弱かったペソの方もなんとか生き残ろうとしていた。そしてどうにか力の強いものの庇護を受けようか、道具のように手懐けられるのか、もしくは対話という手段が取れた生き物となんとかして手を取り合って生き延びようか、そう言う話になったそうだ。
こうなって来ると、もう話の流れが読めるだろう。ある時出会い、手を取り合ったペソとランがいたそうだ。
その2人はお互いの命をかけて、その名をもとに誓いを行い、ひとつの戦士として闘いに出る。その2人がランたちを率いて世界を巡り、ランたちの強さを知った他の生き物たちは次第に恐れを抱くようになり、ランたちに危害を加えることはなくなっていったしかしながらペソの方はその腹いせか、更に襲われる頻度が上がり、数を減らしていくことになる。
そうしてランはペソを守り、共に暮らしていくバムイが生まれたんだそうだ。
まあ、まとめるとすると、バムイというのもは古よりランとペソ、ドラゴンと人間との共存のあり方である。その始まりは、混乱の世界を生き残る為にあった、ドラゴンと人間の命をかけた誓いに寄って強い力を生むものであった。
というところであろうか』
おじいちゃんは大きく深呼吸していた。
あまりに長すぎる話だったので、皆んな言葉が出ずに、静まり返っていた。それともこの話があまりに難しくてすぐには頭に入って来ないせいだろうか。
ヘイなんて飽きてしまって我慢できず、一度はくるくる走り回り、それにも飽きて丸くなってウトウトしている。
『話が長かなったから。 皆、疲れてしまったのではないか? まあいつものことながら途中で話を止めることができないから』
ディーネから労う
ありがたい言葉が降りてきた。しかしそれにも返す言葉が出ない。
皆の顔を見ても、あまり良い表情ではなさそうだった。
「まあ少し長い気もしたけど、何というか話が多すぎて処理できない方が正解かもしれないわ」
氷之沢先生が口を開いた。
「あなた方の世界が生まれる頃の話に関してはこの世界の神話とあまり変わらないでしょう。神様がいらっしゃるかはどちらの世界においても確認する術が私にはないので何とも言えませんが。世界の創始というものはそうなものだと思います」
飯富先生の答えだ。
ディーネは私の方を見た。
「私の感想は、まとまりもなく、長くなりそうですけど、とりあえず話すとするなら、私は死にたくないって思ったのが一番。
おじいちゃんの話でははじまりの誓いを立てたドラゴンと人間は命をかけて戦ってとても強い力を持っていたって言うけど。私は今強い力を持っているのかよくわからない。命がけっていう意味では、戦争してる訳じゃないからそこまでじゃないのかもしれないけど、私的には充分命かかってる。
バムイのことに関しては、守られてるって事だと私を含めてここにいる全ての人間が当てはまることだと思う。そして、愛し合っている夫婦って言う意味では、私とディーネは違う。私たちは友達、かな? 私には旦那様がいるし。あ、今はどこにいるかちょっとわからないんだけど。もちろん子どももいますしね。というかそもそもディーネは女の子っていう感じがするからそういう関係になるって発想がそもそも浮かばなかったよ」
私は一気に話し切ったので、大きく息を吸った。氷之沢先生が少し笑っていた。あなたらしい、と小声で言われた。
『友達、で良いと思う。私もナナと夫婦というのは違うと。私たちは性別がない、男や女というのはどちらでもあってどちらでもないと言える。したがって夫婦になろうと思えばなれるが、私もそういう発想はなかった』
「そうなの! 女の子って訳じゃないのね!」
「ドラゴンとは未知なる点が多いですな。今日の話はまた記録して、いろいろ検討しないとならないでしょう」
『そうじゃ。バムイの話もそうだが、世界の話も大事なんじゃよ』
『そうだね。今この世界は、私たちがいた世界の終わりの瞬間の状態にとてもよく似ている気がする』
『そして同時に世界の始まりである言い伝えにも、とても酷似しておる。この世界は今まさに終わりであり、始まりを迎えておるのだろう』
おじいちゃんがまた長く語りそうな雰囲気で話しだしたので、ディーネがさりげなく自分の意見で遮ってくれた。
『そもそもあった世界だから、何が生まれってこれが生まれてってことはもう済んでいるよね、変化ってことか?』
「そうでしょうね。あるとするなら、嵐が来て大地を空に飛ばした、ってところじゃないかしら」
氷之沢先生が、少し冗談気味に言った。
私たちの感覚では空にある大地なんてありえないとしか言えない。
きっと氷之沢先生も同じ感覚で話しているだろう。
『力流れが私たちの世界より強くなる可能性があるから、きっと大地は空にもできると思う』
『空飛ぶ大地か、なんとも言いにくい言葉じゃ。もちろんできない方が不思議だろう』
「マジか……空飛ぶ島か」
正直そんな言葉しか出てこなかった。何とかの法則がとか、物理学的にあり得るの? とか、そんなのはわからないし、ドラゴンや妖精がいるんたから、空に島が浮いていても受け入れるしかないだろう。
『そんなことで驚くのでは身が持たんぞ。ここでは争いは小さな火種で済んでいるが、こんなに広い世界のどこかでは今まさに血だらけで戦っていてもおかしくはないだろう。争いとは混乱の中にある。それはこの世界も同じだと思うがの』
おじいちゃんがとても怖いことを言った。
「それに関しては同意ですね。この国は弱いですから、無理に強いものと戦うよりは和平をの流れでしょうけど。強い国は世界の変化や新しい生き物たちに戸惑い、戦って勝つことで従わせ、その生き物の命でさえ資源として我先にと奪い合ったりするかもしれない。人間とは愚かな生き物だ。懲りずに何度も戦争をしているんだ、人間相手にだって。ドラゴンなんてはじめて見たらまずは攻撃するって人たちがいても不思議ではない」
「私たちはここ以外に行く術がないから、知ることもできませんよね。他の場所で何が起きているのか」
先生たちはそこまで考えていたのか。それは言葉も出てこなくなるだろう。
これが学歴の差なのか、そもそもの性分なのか。私にはスカスカな意見しかできないのが少し恥ずかしくなった。
『力の流れが強いから上手く判断できないんだが、恐らく闘いは起きているよ』
『だろうな。常に、ではないが大きな力を感じる時がある』
これには2人とも同じ意見のようだった。
ディーネが心配していたことだ。できれば命を奪い合うようなことは避けたい。でもそれは私の思いでしかなく、他の人の気持ちまでどうにかできるわけではない。ここは田舎で人が少ないから、未知の生き物たちからの被害が少ないから、言えることなのかもしれない。目の前で沢山の人が死んでいたらと思うと、胸が苦しくなる。
「そればっかりは私たちには何もできないよ。私たちは手を取り合うことを選んだけど、そうじゃない人たちもいると思う。もし国としてともに生きることを否定されてしまったら、私たちは罰せられるかもしれない。まぁそしたら契約者になってる私はもう逃げるしかないね。どうやったらこれが消えるのかもわからないし』
私は顔や手にある会話の印を指さした。
『私たちのことを全ての人間が受け入れてくれるということはないんだろうな』
『その答えを求めるには早すぎるな』
「まあまあ、ゆくゆく考えましょう。今の我々はここで生きていくので精一杯ですから」
飯富先生がうまくまとめてくれた。
その言葉に満足したのか、サカキおじいちゃんが咳払いのような仕草をして話しはじめた。
『そうじゃ。それよりも、もっとしなければならない話があるだろう。この他の場所に関しても調べる必要はあるだろうし、他のランたちとも話がしたい。王がいるなら、話すべきだろう……まあ定かではないが。そしてわしはとりあえずこの世界の知識を確かめたい。ここには本があるらしいな、とりあえずそれが見たい』
輝いた眼をしていた、この話の目的はもしかしたらここだったのかもしれない。
「ねえねえ、王ってディーネたちの中で1番偉い人って事だよね」
『そうだなら私と共にあった王が生きているなら、だろうけど』
「ドラゴンにも王様がいるんですね」
「そうみたいなんですよね」
「なんだか本当に人間と変わらないわね」
氷之沢先生がしみじみと言った。先生はとても理解があって助かる。それが自分のことのように嬉しい。
「本ならいっぱいあったんですけど、地震が多く、散乱してから整理できていませんよ」
『そうか、それは残念……』
おじいちゃんはとても苦いもの食べたような顔をして俯いた。
「散らかっててもいいなら、見れるんじゃない? むしろ読みながら棚にしまってくれれば? 違うな、しまい終わったら見てもいいよってことか?」
『年寄りにそんなことをする元気があるわけないじゃろう、ディーネ達にやらせれば良いだろよ。まだまだいい年頃なんじゃ。ついでに人の形へ変化する練習でもしておればよい』
本は読みたいくせに、力仕事は嫌なんですねおじいちゃん。そう思った言葉はギリギリ声にならないところで飲み込んだ。
「ちょっと待って今、人に変化するって言わなかった?」




