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彼女が昔ニンゲンだった時  作者: 志摩
2-1  ドラゴンのいる生活
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1、緑の籠






 実家に帰ると、人だかりができていた。どうやら私を探していた人たちが、私がここにいるはずだと押しかけてきたせいだった。

「なにこれ、やばいかも」

 空から伺えたのは、私を出せって言う声と、何かをしろみたいなことを言ってる様子。このあたりにいた人たちも、学校の人たちのように私に救いを求めているのかもしれない。全てやらせようとしているのかもしれない。

 私だってただの人間なのに、どうしてこうなってしまったんだろう。

 サカキおじいちゃんがついてきてくれて、このよくわからない避難生活もようやくなんとかなるって思えてきたところだったのに。

『ナナ? どうする? あの場所に降りるとひどい騒ぎになりそうだ』

「うん大丈夫。驚いただけ。そうだよね、降りたくないね」

 それにしてもどうしよう、せっかく学校から離れてきたっていうのにこんなことになってしまって。

「あ、この人たちもみんな学校に行ってもらおうか」

『このまま連れて行くのか?』

「うん、そしたら私たちはこっちに帰ってきても、もう騒ぐ人いなくなるし」

『さて、そうするとどうやって運ぼうか』

 そうだった、今日はバスがないからまとめて運ぶのも大変かもしれない。やっぱり私が降りていって話をしないといけないだろうか。

『私の出番だ』

 眠っていたはずのサカキおじいちゃんが、ふよふよ漂いながら近づいてくると、少しずつ下に降りていってしまった。

『おじいちゃん行っちゃうの?』

『ナナ、ヘイはまだ寝てる』

 エマとエルマは追いかけて行きたいけど、ヘイが起きちゃうと心配しているようだった。

「そうね、ここで待ってていいよ。何か考えがあるんだと思うから」

 言い終わらないくらいの頃にディーネがさっと後を追ってくれた。すぐに追いつき、サカキおじいちゃんは私の頭に乗った。

『あの辺の緑をいただこう』

 そう言った直後、辺りに生えていた雑草たちが大きくなり、ゆっくりと宙に浮かび上がった。

 人よりも大きくなってそうな葉っぱたちがふわふわしながら川のように流れて行く。

 うちの方からは悲鳴が上がっているのが聞こえた。葉っぱが浮いているせいか、私たちが近づいたせいかはわからない。

 葉っぱ達が集められていって、大きな布のように広がっていくと、それは段々と大きなカゴのような形になっていった。

「便利な力ね」

『器用なんだ、じい様は』

 ディーネが私には無理だと言っているような声音でつぶやいた。

『もういいじゃろう、あのくらいなら全部入る』

 持ち手が2個ついた人間専用カバンといった感じの葉っぱの籠ができあがった。

 おかげさまでこの辺りの雑草はきれいさっぱりなくなった。 

「これはエマとエルマと、一緒に持つようだね」

 とりあえず私はあっちの人たちに声をかけて乗ってもらわないと。

 ディーネに降ろしてもらって、お腹が痛くなってしまうほどのストレスを感じながら実家の方へ向かった。










 なんとか過去に全員籠に乗せて、持ち手をディーネとエマとエルマに持ってもらいゆっくり飛びながら運んだ。

 その間は驚くほど静かだった。

 先ほどはあんなに大騒ぎしていたのに。いざドラゴンたちを前にすると声も出ない、そんな感じだろうか。単純にこの乗り物が怖くて声が出せないのか、私が目の前にいるからなのか。不気味な静かさだった。





 学校へ着くと、また騒ぎが起きた。

 大きなかごを降ろすと、我先にとみんな降りようとした。少し深めの籠なので、乗り降りは一苦労。1メートルくらいはあるだろう、座っていたらすっぽり隠れてしまうほどだったから。

 全員が籠から降りられていないうちに校舎からたくさんの先生達が出てくるし、珍しいもの見たさに子ども達や暇な人たちが出てくるし。

 ドラゴンが緑色の籠に人間を入れて運ぶなんて、注目されても仕方がない。そこまで想定していなかった。



 運んてきた人たちは、とりあえず学校に移動してから話しましょうという事だけ伝え、乗るの乗らないのとかなり強引に連れてきてしまった。

 うちの両親もいくら近所の人とはいえかなり参っていたようで、一緒に籠に乗って行きたくなさそうだった。それでもドラゴンには怖くて乗れないと諦めて運ばれてきた。

 私は近くにいた暇そうなイモコ先生に声をかける。

「イモコ先生、この人たちうちの実家で騒ぎ起こしてて、事情聞いといてくれない」

「イモコって言うなっての。まあ、仕事は任されますよ。あなたは忙しそうだから。それじゃなくても雑用係なんで」

 向かい合って早々、頭を叩かれてしまった。

 最後はもう独り言のようなただの小さな嘆き声だった。

「はーい! 今来た人たちはこちらで確認がありますので、とりあえず集まってくださいねー」

 先生たちが何人が集まって、手分けして受け入れ作業を始めた。イモコ先生もそれについて行って、いろんな人に声をかけてくれていた。

 ドラゴン見物に集まってきていた人たちも少しずつ部屋に戻って行く。ようやく静かになってきた。

 先生の何人かは籠の方へ行き、なんだか調査でもしているように叩いたり中に入ったりしている。

 そんなのを見ている間にうちの両親までイモコ先生の方へ行きそうだったので、慌てて引き留めた。

 少し驚いていたが、娘と一緒に3人で残ってくれた。母の近くに寄って小声で話した。

「待って待って、なんで行っちゃうの。うちはいいの、別だから」

「え? なんで? みんな避難してるんでしょ?」

「ここにはドラゴンたちの居場所がなくて、私はいられないから。私はここにはいないよ、うちに帰るから一緒に帰ろうよ」

「私たちいたら邪魔じゃない?」

「邪魔じゃないよ! この子たちも仲良くしたいと思ってるよ!」

 咄嗟にそう言ってしまって、事後承諾のように見上げてみると。ディーネとエマとエルマは、笑っていった。良かった、同じ気持ちでいてくれたようだ。

「それならいいんだけど」

「それより、あの人たちなんで騒いでたの?」

 母はとても苦いものを食べたような顔をして、なんだか嫌そうに話し始めた。

「それがね、今日雷なってるから、どうなってるんだとか、ナナに説明させろとか。早く安全なところに連れて行って欲しかったのと、あとお腹空いてたのと? いっぱい言ってたよ。そんなに時間経ってはないかな? ナナのくるちょっと前に集まってきたの。もしかしたらみんなで行こうて決めてからうちに来たのかもしれないわね。

 まああとはよくわかんないけど、とりあえず意味不明な事怒鳴ってたかな。今日は空模様がよくないから、きっと怖くなったのよ。昨日まで天気が良かったからいいんだけど、きっと気持ちまで暗くなっちゃったのよ」

「そうなの」

 母はだいぶやつれた顔をしている。父なんかは1日中働き通したあとのような瀕死の顔だった。ミナミも不安そうにしていて、ずっと母に抱っこされていた。

 私の顔を見ると安心したのか、抱っこをせがんできたのですぐに手を伸ばした。

 こうして抱っこをするのも一苦労だ。家に帰る間もなく、無償で人のために働いているっていうのに、さらに働けと言っているんだ、この人たちは。私に聞いてばかりじゃなくて何かしたっていいのに。

 はじめは困っている人たちを助けてあげたい気持ちがあったはずなのに、だんだんとやってあげないといけないという気持ちが遠のいていく。自分は物語の中の勇者にはなれない。この人たちの全てを守ってあげるなんてことはきっとできないんだと気づいてしまった。

 ため息を吐いてヤダヤダと言っていると、千波先生がいつの間にか近くに来ていて、声をかけていいか、と顔で訴えていた。

 私が首を傾げて何かという表情を向けると、話せるところまで近づいてきて口を開いた。

「今日の目的は達成したのか?」

「もちもちハッピーですよ」

「なんだそのもちもちハッピーって」

 変な顔されてしまった。子どもと話す感覚で話してしまったせいだろう。みんな大好きもちもち太郎というヒーローアニメのキメ台詞なんだけどな。

「失礼しました。新しいドラゴン見つかりました。植物を生やすことができます。食料に関しては少し楽になると思います」

「そうか」

 少しにやっと笑って、それだけで千波先生は行ってしまった。なんていうか、ちょっとよくわからない人だなっと思ってしまった。千波先生は言葉が少ないから謎が多い。やたらと質問攻めしたりしないところはとてもいいと思う。最近そんな人ばかりで鬱陶しくなってきているから。

「ナナ、ホントにこの人たちのリーダーやってるのね」

 母が信じらないようなものを見る顔で私を見ていた。

 父はそんな母を呆れた顔で見ていた。

「そんなことより、疲れた。メシが食いたい」

「そうね、とりあえず何か食べましょう。さっきのパンの実がまだあるから分けましょうか」

 みんなの世界に乗せてあったパンの実を、先生たちに渡した。ドラゴンたちの世界の食べ物なので、食べてみてくださいと言って。10個しかなかったので、とりあえずサカキおじいちゃんに頼んで、どこかへ木を出してもらおう。

『ナナ、ヘイ起きた』

 エマが教えてくれた。

 ヘイはのろのろ降りてくるとミナミの背中に乗った。かなり小さくなっているがそれでも抱っこするには限界の重みだった。

「おはようヘイ。ミナミと一緒に遊ぶ?」

『「いいの?」』

 2人で声を揃えて、とても嬉しそうな顔をしていた。

「いいよわ。行っておいで」

 一緒に保育園の方へ走って行った。

 私も両親を連れてついて行き、ディーネたちも少し小さくなってついてきてくれた。

 ディーネたちも小さくなってはいるけれど

それでも2メートルくらいはありそうだった。朝見た時は驚いたが、身体の大きさを変えるなんてのはこんなに自由なものなのだろうか。

 ドラゴンについての不思議は増えていくばかりだった。



 サカキおじいちゃんが保育園と体育館の近くにパンの木をいっぱい作ってくれて、ちっちゃな森林のようになってしまった。先生たち総出で実をとると、またすぐに実をつけて置く場所に困るほど収穫した。おじいちゃんは疲れたみたいで、また眠ってしまった。

 今日はお腹いっぱい食べられると喜んでいら人もいる反面、なんてこんな訳のわからないものをという声も聞こえた。そう言う人は食べなくてもいいんだよと言ってあげたくなる。おじいちゃんが頑張って生やしてくれたのに、こっちのことはお構い無しなんだから。

 なんともいえない気持ちになりながらも食べるパンの実は美味しかった。



 




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