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彼女が昔ニンゲンだった時  作者: 志摩
1-3  変わる世界
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4、小さなトカゲ




 ヘイはどんどん下降していき、緑の茂る植物たちの中に降りた。

 エマとエルマも身体を小さくして、ヘイの後を追って行った。

 私はその後を追うのをやめて、上空で3人の気配だけを追いかけていた。

『私も小さくなった方がいいだろうか?』

 ナナに問いかけると、不思議そうな声を出した。

「その方が森の中は動きやすそうだけど、どうして確認するの?」

『力加減が難しくて、おそらく何かあった時に対処できないと思う。まだ小さな身体に慣れていないんだ。エマとエルマが私にもわかるように飛んでいるから、気配を見失うとこはないだろう』

「なるほど、それならとりあえずこのままで、上から後を追ってみようか」

 ナナも危険な事態に陥るとまずいと判断したようだ。この場所の生き物たちの様子もわからないので、誰かは外から見ていた方がいいだろう。

「それにしても、ヘイが役に立つとはって感じよね」

 ナナもヘイが率先して働いている状況は想定外だったようだ。

『そうだね、あの子はまだ幼いけど、だからこそ敏感に感じる何かがあるのかもしれないよ』

 私にもあの子の力は計り知れない、どう扱うべきかまだ探っている段階だった。私たちの世界ならまだなんとかなったのかもしれないが、こうも勝手の違う世界では些細なことでも大きな問題を引き起こしてしまうかもしれない。しかもそれの何かを想定しておくこともできないほど、私たちはまだ何も知らない。

 私たちの仲間もどれだけ生き残ったものたちがいるのか、この新しい世界の力の流れを把握できない状況では確認することは不可能だ。私たちだけではない、大きな力の主はどこかに存在しているとしかわからない。

「ヘイはさ、なんていうかまだほんとに赤ちゃんで、何ができるか未知数って状態なんだよね」

『……そうだね、私たちそばにあるものたちの育て方次第。力の使い方も心の在り方も、全てこれからどうなるか』

「そうよね、うちの子も小さいからわかる。でもなんていうかさ、私たちは人間だし、力なんて大したことないから世界の影響なんて考えたこともないけど。ヘイを育てるってことはつまり、世界を生かすも殺すもあの子次第っていうか……。なんていうの、親の責任みたいなものが、こう、重すぎる感じが」

『ナナの言いたいことはわかるよ。私たちの仲間は誰しも多少なりの力を持ってる。喧嘩しただけで、その周りに住んでいた生き物たちがみんな死んでしまうかもしれない。そんなことばかり考えていては苦しくもなる。共に生きるとするならば、まず程よい距離を取ることを学ぶ』

「そうだよね、違う生き物たちで同じ場所で生活するってのはやっぱり難しいんだよね」

 ナナは大きく息をついた。そして何やら考え始めたようだ。

 私とナナも結局は同じ言葉を話すことができるだけの違う生き物だ。

 先の会話の中の共に生きるとするならば、程よい距離を取るべきなのであろう。

 元の世界でも、ここまで会話の成立する種族はいなかった。私たちは意識を感じ取ることができるものも多いから、こちらが汲み取って揉め事を回避する事は多々あった。

 世界で一番賢い生き物というのは気が引けるが、私たちの見ていた世界では確かにそうだった。今回の大いなる力による転移で、私たちより上の何がいる事ははっきりしたが、それらが何であるのかまでは掴めない。

 ここでの生活には、人間という生き物たちと関わり合うか合わないかの決断が強いられるだろう。

 私はもうナナたちと生きる道を進み始めたが、そうは思わないものたちが出ないとは思えない。

 ここにいる私たちの仲間がそうでないことを祈るばかりだ。



 下を飛んでいるヘイ、エマとエルマの動きが止まった。私も丁度その上辺りで止まって、他の気配を探った。しかしやはりよくわからない、小さな何かがいるような気がする、そんな曖昧なものだった。

『ナナ、ここのようだけど、私には気配が掴めない。降りてみるかい?』

「ちょっと待ってみよう、ヘイたちが戻ってくるかもしれないから」

 確かに、そもそもがヘイの勘違いで、何もなかったという可能性もある。

 しかし、

『何かがいるという事はわかる、ただその気配が薄く広がってしまっている感じなんだ。はっきりしない』

「霧の中にいる感じなのかな。そしたらめっちゃでかいドラゴンでしたってオチだったりするかもね」

 ナナはなんだか笑っていた。

 私にはその笑うつぼがわからず、聞き流すだけになってしまう。

『ディーネ』

『降りてきて』

 エマとエルマの声だ、私たちを呼んでいる。

 あまりに緊張感のない声だった、危険はなさそうだ。ナナが反応しないので、そっと声をかけた。

『行こう、呼んでいるよ』

 私は身体を少しずつ小さくしていき、ナナが背に乗っていられるギリギリのサイズで地に降りた。

「え? なんか呼ばれたの? 全然聞こえなかったけど」

 ナナには聞こえなかったようだ、やはり身体の作りが異なるため、差が出るのだろう。

『エマとエルマが呼んでいたよ』

 私は3人のいる方はゆっくり歩いて行った。

 背の高い植物が多く、背に乗っているナナがちょうど顔に当たるらしく嫌がっていた。















 少し進んだところでエマとエルマが座っているのが見えた。そこは植物たちが丸く重なりあって屋根を作っていて、小さな家のように見える。ヘイは尻尾を振って、鈴のようにぶら下がって咲いている花を揺らして遊んでいる様子がチラチラ見えた。

『いたね』

「みんないるね、まりもの家みたい。素敵」

 私はエマとエルマの近くへナナを降ろして、自分の身体をナナくらいの大きさまで小さくする。この作業もだんだんと慣れてきた。

 ナナが前に歩いていくので、それについて行った。

 ヘイが遊んでいるその向こう側に、白っぽく光る小さな丸い生き物がいた。

 見たことのある姿だ、もう少し大きかった気がするが、それはお互い様だろう。

[うんちくじい様か、久しぶりだね]

[そうじゃ、いつぶりかな雨の騎士よ。その名前で呼ぶのはあの生意気なガキンチョ王子くらいじゃ]

[あなたがいなくなってから、かなりの時が経っているでしょう。彼もしっかり働いてましたよ]

[そうかそうか、あのクソガキがの]



「なになに! 何語! てか何話してんの! 教えてよ!」




 ナナが私に掴みかかって、泣きそうな顔をしていた。うっかりこちらの世界の言葉を忘れていた。懐かしい人物に会ったせいで、少し今の状況が吹っ飛んでしまった。




「あの白いトカゲに緑の毛が生えたみたいなやつ何!」

『昔の知り合いなんだ、この世界でいうところのおじいちゃん、かな』

『エマ知らない』

『エルマも知らない』

『ヘイも!』

『私もまだ幼かった頃だから、エマとエルマは会ったことないはずだね』

「そうなの、おじいちゃんって、ディーネの?」

『違うぞ、人間のお嬢さん。私はみんなのおじいちゃん的なやつじゃ』

「うわあ、しゃべった、日本語上手、ありがとうございます」

『ナナは動揺しすぎて少しおかしくなっているよ。ちょっと落ち着きなさい』

『面白いね、ナナは』

『おじいちゃんにも笑われてるの』

『ほっほっ。この世界はなんとも面白いやつばかりだ』

『他にも誰かに会ったんですか? 人間と』

『いやぁ、会ったのはお花の子だよ。こんなおじいちゃんにあんなにちっちゃな子が気遣って世話を焼こうとしていたよ。面白いだろう』

「あやめちゃんかな? それにしてもおじいちゃん、言葉ホント上手」

『それはそうだろう、この人は知識を溜め込む為だけに生きてる。それ以外はやりたくないしやらないし、楽しくないっていうやつだから』

『そうじゃ、新しい言葉なんてもう出会えないと思っていたから楽しくて楽しくて。この辺りの生き物たちの記憶を片っぱしから覗いて探し出したよ』

『変なおじいちゃんだね』

『頭のいいおじいちゃんなんだね』

「そうなんだ、なんかこれ、絶対話長くなるやつだよね……」

『長いだろうな、この人は話が逸れるし、興味がない事は聞いてくれないから、少し話すのが大変だよ』




 私は少しずつ昔のことを思い出してきた。

 うんちくじい様は、とにかく面白いことが好きで、美味しいものが好きで、だらだら生きる為に生きるとか言うような人だった。

 ナナと私とでこの人を上手く焚き付けて協力させるためには、一体どうするべきだろう。

 少し頭が、いやかなり頭が痛くなった。






 



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