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彼女が昔ニンゲンだった時  作者: 志摩
1-3  変わる世界
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1、黒い空






 空が泣いている…。

 灰色を通り越し、黒に近い色の雲だった。

 稲妻が鳴り響き、雲の中を駆けずり回り、気まぐれに地上まで降りてきている。

 とても見慣れた、ちょっと前までのいつも通りの空。



 やっとあの恐怖から解放されたのに。

 この世界なら私たちはまだ生きていてもいいのだと、そう思った矢先。

 我々はこの世界に不幸を運んでしまったのだろうか。前の世界と同じ、世界の滅びを。








 この不思議な世界に来る前までは、毎日のようにこんな空を見ていた。

 あんなに穏やかで、ゆっくりとした穏やかな空を見たのはいつぶりだろうか。

 緑のある大地、世界を守るような穏やかな水の流れ。

 とても美しい、生きる力に溢れた大地。


 つい昨日まで、空は荒れ果て静まる気配なんてなかった。そんな世界に我々は疲れていた。手を尽くしても変えられない現実に目を向けることも嫌だった。


 毎日雨が降り続いて、次の日には強い風が吹き続け、大地が割れて空に飛び、空にあったはずの美しい島々がぶつかって崩れていった。



 世界の終わりとはこんなにもあっけなく、我々を滅ぼしていくのかと。何もできなかった自分の未熟さを痛いほど知った。

 ただもうすぐ訪れるだろう自分の死と、世界の終わりを待つだけだった。



 王が言った。

『私にもこの世界の変化を止めることはできなかった。すまない』


 我々の中でも群を抜いて力の強いこの王でさえ、世界の力の流れに逆らうことはできなかったのだ。

 すなわち、他の誰が何をしようと抗うことはできない。


『これまで、沢山の友がここで力を尽くし、戦い、そして死んだ。我々は戦うことをやめてそれなりの時を過ごしたが、この世界が消える日が来るとは誰も思ってはいなかっただろう。

 この世界は滅ぶ、だから私は王の責任を持って、この世界最後の1人になるまで生き残る。世界の行く末を見守ろう』



 王は自分は最後まで生き残ると、先に生き絶えるものを全て看取っていくと言ったのだ。

 世界の滅ぶまでの時間、家族と過ごすのも、友と過ごすのも、また最後まで抗うのも、自分次第。

 王はその全てを見守っている。




『私は全てのものを守る。我々一族はもちろん、他の種族も弱いものも世界さえも。だからお前たちも、その少しだけでいいから手伝ってくれ。我々は友だ、この世界を守る、家族だから』



 私はこの王に育てられ、子であり、友であり、家族だった。

 変わりゆく世界で、王はこの1人しか知らなかった。

 圧倒的強さと優しさで、世界の秩序を保っていた。



 しかし世界はいつしか輝きを失い、死の匂いを漂わせ、滅びに向かい始めた。

 時間をかけて調べても分かったことは、不安定な力が自然や大地を蝕み壊していくということ。ただそれだけ。


 何もできない。

 この崩壊を止める術はない。

 王が言ったということは、もう本当に何者にも出来ることはないということ。

 


 王は全てを嘆き悲しんでいても、それを見せることはなかった。それが王であり、強さである。家族を守り、悲しむ事はあってもそれを見せない。




 力の弱い家族から身体を壊し、死んでいった。もう王は泣く力もなくなっているのかもしれない。

 自分の死を見せて悲しませる訳にはいかないと、ひっそりと城を出た。

 1人で出てきたつもりでも、何人か一緒についてきていたようで、結局1人にはなれそうになかった。こうなれば私も看取る側になろう、最後まで生き残ってやろうと決めた。


 いろんなところを旅して、世界にはまだ生きる力のあるものもいれば、変化に追い込まれ生き絶えるものもいた。弱いものは生き残れない、世界の法則ではあるが、この世界にはもう何が強さなのか分からないくらい暴力的な災害が訪れていた。

 いつしか世界から生き物たちが消え、私と友がもう2人だけになってしまった頃だった。


 旅の途中、少しだけ穏やかな土地があった。そこには昔懐かしい緑の大地、輝く泉があり、まだ生きているものたちが集まっていた。




 その泉には、懐かしい王の力の宿った石があった。

 あの王は最後までこの世界の生き物を守ろうとしていたのだろう。これだけの力を放出しているとなると、無事でいるかどうか。


 私と友はその石のそばでしばらく暮らした。


 そこにいた生き物たちと一緒に。



 そして、やはりここにも滅びは近づいてきた。




 次第に緑は減り、泉も小さくなり、この場所を守る力は明らかに弱くなっていた。

 その頃だろうか、空には大きな卵が産まれた。


 滅びゆくこの世界の中で産み出された悲劇の卵。

 世界の不安が、押し寄せる滅びの渦が、生き残ってしまった我々が産んでしまった新しい生命。




 世界を滅ぼしかけた大洪水で、その水の力を吸い尽くして生まれた私。


 今ここで私が出会ったことにはきっと意味がある。


 私を育てた王は、今ここにその力を残し、沢山の生き物を守っている。

 私と友と、王の仲間として生きた我々だからこそ、これから産まれてくるこの世界最期の新しい生命を見守り育てなければならない。





 それが強き者、我々世界を統べる一族の役目。

 王がここにいたのならば、きっと言うはずだろう。











『私は全てのものを守る。我々一族はもちろん、他の種族も弱いものも世界さえも。だからお前たちも、その少しだけでいいから手伝ってくれ。我々は友だ、この世界を守る、家族だから』

















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