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彼女が昔ニンゲンだった時  作者: 志摩
1-2  ドラゴンと魔法
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6、眠れない夜



「全くもう、あなたはなんでいつもこんなに急なんだ。もっと計画的に行動していただきたい」

「そんな事言ってないで、あなたたちこそやる事やってください。私はまたすぐどこかへ行きますから」

「今度は何を持って来るんですか? また保育園ですか?」

「お望みであれば、保育園でもなんでも持ってきますよ」

「なっ、まだ持って来るんですか」

「持ってきて欲しいんじゃないんですか?」

「誰もそんなこと言ってないでしょう! ただでさえ食べ物だって足りないっていうのに!」

「何でもかんでも私に言わないで少しは自分たちでなんとかしたらどうなんですか? 私がいなくなったらどうするつもりなのよ」

「そんな!」

「まあまあ、あんたたち落ち着きなさいって」

 ナナさんは舌をベーっと出して、まるで子どもの喧嘩だった。





 ナナさんと富岡先生はちょっと相性が悪い。さっきからずっとこの調子で、千波先生がその都度水をさしてくれる。このバスには4人しか乗っていないから、会話も丸聞こえだし喧嘩になっても仕方ないのかもしれない。それにしたってもう少し緊張感を持って、危険なところに行くという面持ちで落ち着いていて欲しい。

 この点以外、ドラゴンの空中バスの旅は案外快適である。そこまで揺れないし、行きたいところへ一直線だから早いし、文句はないと言いたいところだけれど。地上に降りる時だけはスリリング、まだまだ降りるではない、落ちているようだ。







 今日は商店街や、デパートなど、たくさんお店がありそうなところを目指して色々なものを集めて行くことになった。とにかく使えそうなものはなんでも拾ってくる精神で、本当になんでも詰め込んでいった。時間がないからとにかく持っていって、あとは選別しようという感じ。



 私はナナさんとディーネさんチームのバスで調査隊、エマさんとエルマさんチームはバスへの詰め込み係。先生たちと4人で拾ってきて、名前も聞いていない一般の男性たち4人はバスの近くで待機。

 今日連れてこられた子どもたちだけでも100人は超えてそうなのに、物資確保人員が少なすぎるのではないかと思ったが、手伝いたいと言ってくれる人が他にはいないから仕方がないそうだ。

 食べ物を優先的に探していくのだが、冷蔵庫は壊れているし、電気はないしで結構大変な作業だった。正直保存食や賞味期限の長い物じゃないと食べられない。

 学校の調理室で調理できるけど、火はつかないらしく、外で焚き火をして温めるしかないと言っていた。

 今日は時間も少ないから、服とかタオルとかなんでもいいので夜までに取れるだけ取る。

 本当はお金を払っていくべきなんだろうが、もうみんなそんなことは気にしていられない。罪悪感があったのは最初だけで、私もすぐに慣れてしまった。


 私が驚いたのは地震の影響なのか、建物が結構壊れていたこと。探し物をしている間も一度大きな地震があって、みんなで建物から離れて様子を伺っている時間があった。そんな時に見たことない生き物が意外と近くにいたこと。でっかいスズメみたいな鳥とか、長細いタヌキみたいな生き物とか、薄暗くなってきたからよく見えなかったけど、気持ち悪かった。

 なぜ気がついたのかというと、光の粒たちが動いて見えたから。何かいる、動いていると思ったら、その生き物たちにくっついていたのだ。

 相変わらず、ハエとかネズミとか見たことあるやつもいたけれど、光の粒はついてなかつた。

 やっぱり違う世界の生き物たちの力なのだろう、この世界には馴染みがないものなんだ。

 私は自分の手のひらにも体にもくっついているこれが、急に怖くなった。自分がこの世界のものでなくなったような、あの見慣れない生き物たちと同じ何かになってしまったような、そんな気がしたから。

 そんな不安も忙しか働いている間は忘れられた。






 なんとかバス2台に乗る分を詰め込んで、学校に戻った。なんだかすごく疲れた。

 学校に戻ると、なんだか勇者が帰ってきたかのような出迎えだった。

 ナナさんはめんどくさいことになる前に帰るからと言って、少しの食料をもらってすぐに帰って行った。



 私が先生たちと荷物を出し始めると、見ている人がどんどん増えていった。皆の目がギラギラしていて、これは持って帰ってきたものを狙ってるんだなといのがひしひしと伝わってきた。それがわかっているからか、学校で待っていた先生たちがその人たちを抑えるようにして、物資はひとまず一箇所に集められ、食べ物は全部回収、そのほかのものも1人ひとつかふたつほどずつ配られていく。残り物は全て先生たちがしまっていった。






 私は今日は、みんなと同じ教室じゃなくて、先生たちと同じ給湯室で寝泊まりすることになった。

 私にもみんなとは違う力があることがわかったから、念のためにと、氷之沢先生が配慮してくれた。氷之沢先生が一緒にのご飯も食べてくれて、一緒に寝てくれることになった。






 今日はいろんなことがあった。

 私の体のことも、あやめちゃんやマリイちゃんと会ったことも。

 あんなに壊れた街を見るのも、たくさんの荷物を運ぶのも。昨日もいろんなものを運んだと言っていたから、あんな人たちのギラギラしたやりとりがあったのかもしれない。もしかしたらもっとひどい争いまで起きたのかもと思うとゾッとした。

 ナナさんがすぐにいなくなった理由はこれだったのだろう。

 助けた人たちに頼りにされるのも、なんだか辛い。でも放っておくこともできない、なんだかやりきれない気持ちになった。

 ナナさんは私なんかよりもっと難しいことを考えているんだろうなと思うと、なんだか急に可哀想に思えてきた。あの人だってついこの間まで普通の人だったのに。私だってそう。



 もしかしたら近くにいないだけで、どこかの国には同じような状況の人もいるのかもしれない。

 ちゃんと助けがきて、美味しいご飯も食べられて、怖い生き物たちも見ていない人もいるかもしれない。見ていない、あのドラゴンたちのような大きな生き物も?

 ふと、私の想像した世界の平和が怖く思えてくる。

 こんなに友好的で真摯に私たちを助けてくれたディーネさんやエマさん、エルマさん。もし助けにきた人たちが元の生活を守るためにと、戦って殺してしまったら? ディーネさんは人間たちを助けると言っていたけれど、私たちには逆のことができるのだろうか。



 この場所では新しい世界が生まれ始めているのだろう。たまたまナナさんとディーネさんが手を取り合ったから、お互いの命が失われずにいる。

 私たちの命も、もしかしたらなかったものなのかもしれない。

 この世界のどこかで、まだ何が起きたかわからずに彷徨っている人だっているだろう。

 助けてくれる人に出会えず泣いていたら、訳もわからず見知らぬ生き物に出会い、恐れ、戦って、殺し合いになって死んでしまったら。



 私は突然涙が出てきて、眠れなくなってしまった。氷之沢先生がびっくりして、私の背中をさすってくれた。

 その晩は眠りにつくまで、先生が私の話を聞いてくれた。


 




 



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