3、今起きていること
「何かありました⁉︎ 大丈夫ですか!」
「それが、私たちも何が起きたのかよく分からなくて」
私がなんとか聞き取れたのはそれくらいだった。あとは子どもたちの甲高い声にかき消されてしまった。
『ヘイおいで』
『こっちにおいで』
頭上から声が降ってくるようだった。
その声がみんなに聞こえたのか、一瞬静寂が訪れた。しかしすぐにまた子どもたちの騒ぎ声が広がっていて、まさにてんやわんやである。大人たちでなんとか収集しようと動き回っていた。
子どもたちが集まっていたところから、すっと黒い影が浮かび上がった。
『遊びたい!』
泣くような声が聞こえて、ちっちゃな黒いドラゴンの姿が見えた。
どう見ても大きな犬くらいのサイズだった。さっきまで他のドラゴンたちとそんなに変わらないサイズだったのに。
「またヘイがちっちゃくなってる!」
ナナさんの叫び声が聞こえてきた。
どうやらナナさんも何が起きたのか知らなかったようで、更に騒ぎが大きくなりそうだった。
私は手伝って欲しいと言われ、子どもたちを保育園の中に集める作業に取り掛かった。
子どもたちはほとんど保育園に帰って、大騒ぎする子も減って大人しくなってきた。
ヘイと呼ばれていた黒いドラゴンはナナさんに抱えられ、学校の先生、保育園の先生たちが外で輪になって話し合いを始めるらしい。
私もさりげなくその輪に近づいて行くと、ナナさんがおいでと側に呼んでくれた。
私はありがたく隣に入って、一緒に話し合いに参加した。
「のぞみ保育園、菅谷です」
「花の森保育園、石岡です」
「県立第三学校の千波です、とりあえず今は代表で私が。あとで詳しくご紹介します」
菅「はい、よろしくお願いします」
千「保育園ごとこちらに運ばれていたという状況なんですよね」
ナ「そうです。急で申し訳ありませんでした。子どもたちを世話する場所を新しく作るのは無理だと判断しました。大掛かりになりましたが、施設ごと運んできました」
石「うちの保育園としては、子どもたちも慣れている場所なのでありがたいです」
菅「のぞみ保育園はまだちょっと難しいです。建物を持ってきたのは花の森なので」
千「2個分の保育園の子どもたちが一緒なの?」
ナ「そうですね。うちの子はのぞみ保育園にいたんです。ただ近くの保育園の子も運ばないとっていう状況だったので、運びやすかった小さい方の建物1つだけ運んで、2箇所の子どもたちを集めています」
千「なるほどね、どうりで子どもがいっぱいなわけだ」
菅「施設的には今のままでギリギリ収容できる人数です」
石「小さなホールがあるので、とりあえずのぞみの子はそっちに入ってもらってます」
ナ「ぶっちゃけるとギリギリアウトなくらいです。狭いです」
千「そりゃそうだよね。保育園2つ分だもんね」
菅「そうですけど、保育園をひとつにすると考えて年齢別の部屋にちゃんと分けてあげるとギリギリ入りそうなんです。遊ぶ場所は無くなってしまうんですけど」
石「お迎え来てくれた家庭も各保育園で少しずつはありましたので、ただ食べ物は厳しいんです。給食のトラック来なかったので」
千「それはこっちもです。配給も何もないですね。早くなんとかしないと」
ナ「スーパーの商品、取ってくるしかないでしょう」
菅「非常事態ですもんね」
千「教育者としてあんまりいいことではないですけどね、仕方ないですかね」
石「ミルクやオムツは本当に足りないです。お洗濯もできないし着替えも。子どもたちはお家に帰りたくてしょうがないんですけど」
千「避難してきている人で、保育園の保護者がいるか確認しましょう」
石「お願いします」
千「さっきの大騒ぎは、結局何だったんですか?」
菅「それが、ドラゴンと遊んでいたようで」
ナ「この子です、元々は他の子達と同じサイズなんですけど、なんか小さくなってて」
千「黒いドラゴンが大きいトカゲになったの?」
ナ「まあそんな感じですね、サイズ的には。本人的には子どもたちと一緒に遊びたいって思って同じくらいになりたかったみたいで」
デ『私たちは小さくなる必要性を感じたことがない。こんな状態に変化する方法は知らない。元々小さい身体の子たちもいるけど、わざわざ身体を変化させたことはない』
ナ「と言った具合で、こっちでも何がどうなったのかは分からないけど、とりあえずはこのままの方が世話ないのでそのままにさせておきます」
千「あの首が2本あるのは? 初めて見るけど」
ナ「あの子たちは元々エマとエルマって2人です。別々だったんです。この保育園を運ぶのにどうしても力が足りなくて、なんとかならないかなって話をしたら2人合わさって1つになって」
菅「びっくりしました。ナナさん、その後倒れちゃって」
ナ「すみません。私もよく分かってないんですけど、色々魔法みたいな何かがあるようでして。力使うと体力的にキツくて」
千「それはあなたが魔法使いってこと?」
ナ「そう言うことみたいですけど。何もできないですよ。詳しくはまたあとで」
エマ『魔法』
エルマ『この子も』
今までただ聞いていただけの会話だったのに、急に視線が集まった。
「あ、私?」
デ『この子も力があるみたいだよ』
ナ「さくらちゃん、魔法使いなの⁉︎」
千「こりゃまた。魔法使いの登場とは」
さ「いや、何にもできないです。光が見えるだけです」
ナ「突然見えるようになったていうあれね。あれが魔法のせいだったのか」
千「こりゃ、これからこういうことも増えそうだね」
ナ「保育園にはいますよ。魔法じゃないけど、そういう子」
千「あ、そうなの?」
菅「マリイちゃんですか?」
ナ「そうです、いわゆる妖精とお友達って感じかな?」
さ「そんな子いるの? すごいですね!」
ナ「そうなのよ、もう何が起きても不思議じゃないから」
千「そうだな、もうなんでもありだからな」
千波先生が上を見て、ドラゴンたちを見つめている。他の人たちもつられて見ていた。
ぐぅ、お腹の鳴った音がした。
それはナナさんの方から聞こえた気がした。今度はナナさんに視線が集まる。
「私じゃないよ!」
ナナさんは抱えているドラゴンを見ている。
『おなかすいたー』
ドラゴンが鼻息をフーッと吐いた。
「そうだよね、お腹すいたね」
私が隣から声をかけると、嬉しそうに羽をバタバタしていた。
ナ「まずは食べ物、探しに行きましょう。それでその他にも使えそうなもの集めていきましょう」
千「そうだな、暗くなると難しいから、なるはやで」
石「保育園の方からは人を割くのは厳しいと思います」
菅「そうですね、難しいと思います」
千「大丈夫ですよ、保育園の方はとりあえず保護者の方探しましょ。子どもたち優先してあげて」
石「ありがとうございます」
ナ「私とディーネと、エマとエルマ。手伝える人で物資確保だね。さくらちゃんにお願い、ちょっとマリイちゃんと話してみてくれない?」
「私ですか?」
「そう。妖精の話、聞こえる人と聞こえない人いるんだって。さくらちゃんなら聞こえるかもと思って」
「光の粒のこともあるから、氷之沢先生にもきてもらって話した方がいいだろ。ここで待ってな」
「じゃ、そういうことで」
ナナさんが手を上げて、各自解散ということになった。
千波先生が他の先生たちを連れて校舎へ戻って行く。
ナナさんは保育園の先生たちと保育園の方へ。私もおいでと呼ばれ、そっちについて行く。
なんだかナナさんと千波先生は淡々と物事を進めるタイプだなと思った。急いでいるせいかもしれないけれど。
こんなよく分からない状況でよくテキパキできるな、私も頑張って色々お手伝いしようと思わされた。




