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彼女が昔ニンゲンだった時  作者: 志摩
1-2  ドラゴンと魔法
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1、ドラゴンの力




 私は教室に1人きりだった。

 今日も家には帰ることはないだろう。

 まだ電気もない、電話は使えない、助けが来ない。

 友達も誰も帰っていない。親が見つかった人はまだ良い方、私は家族の誰にも会えていない。パパもママも、おばあちゃんにも会えていない。みんな一体どこで何をしているんだろう。

 私がここにいることを知らないのかもしれない。だって電話ができない、伝える方法なんてなくなってしまった。

 家に帰れなくなって2日だ。家族を探しに行きたくても行けない、私だって行ってもいいなら家に帰りたい。そんなわがままが言える状態ではないことだって分かっているから、ただ待つしかできない。だって電車もバスもない、もちろん車も自転車もない。歩いて帰るわけにも行かない。何もできないままずっとここにいるだけだった。

 私は教室からずっと外の様子を見ていた。

 昨日までの当たり前に見ていた景色は、いつもと少し変わっていた。いつの間にか私の目には光の粒、光のかけらと言うべき何かが映るようになった。正体の分からないそれが見えるようになっていたのは、地震の後しばらく経ってからだった。



 光の粒が風の流れるようにふわふわと漂っていた。行ったり来たり、どこかへ行くわけでもなくだいたい元の場所に戻ってくる。

 海に漂うクラゲのような、水族館の水槽に入っているものに似ていた。ただとてもとても小さく、鼻からでも吸い込んでしまいそう。

 興味本位で口の中に入れてみたけれど、特に味もなく飲み込んだのかも分からない。空気を吸うのと同じで、重さも形もまるでないようだった。

「ホントになんだろう、この光ってるやつ」

 私以外の人には見えないらしい。

 手のひらで掴んでみるが、感触がないから掴めたのか逃げてしまったのかも分からなかった。

 私の体の周りには、他の人よりも多く集まっているような気がする。腕や脚を見ると、くっついたり離れたりしていて、埃がついているように見えて気になってしまう。

 外を見て思ったのは、グランドやその辺に生えている木の周りにものその光が集まって漂っていること。空気中を飛び回って、やがては地面に落ちたり、何かにくっついたりするのかもしれない。そうなるとこれは実体のあるものになるのだろうか。シャボン玉より軽い、触っているのにその感触すらない何か。

 ふと、外の光の流れが激しくなった。

 私はベランダに出て、その流れを目で追う。それはだんだん空高く、上に上にと繋がって、どこか遠くへ進んでいく。

 その先に何か黒いものが見えた。

 黒いものが次第に大きくなり、近づいてくるのが分かる。

 私は慌てて部屋に戻り、職員室へ走った。



 もしかしたら、何かやばいものだったらどうしよう。

 最初にドラゴンを見た時、世界の終わりだと思った。宇宙人が地球に降りてきたのかと思った。

 食べられちゃうとか、殺されちゃうとか、そんなことばかり考えた。実際そんなことは起きなかったから良かったけれど、絶対起きないなんてことはあり得ない。

 だってあり得ないことはもう起きてしまったのだから。


 私は階段を駆け降りて、そのままの勢いで廊下を走った。

 今ここに守ってくれるドラゴンはいないから、もし何か恐ろしい敵に襲われたら簡単に死んでしまうだろう。

「先生! 外見て! 何かくる!」

 戸を押し開けてそのまま駆け込んで、叫びながら窓の外を指さした。

 皆で一斉に外を見て、なんだなんだと騒ぎ出す。

 私も窓際まで走って行って、外を見上げた。

 確認できるほど近づいてきていたそれは、建物を担いできたドラゴンたちだった。

「あれって、保育園だよね」

 うちの子どもが行ってる保育園に見えるんだけど、そうどこからから声がした。

「保育園をドラゴンが運んできたってこと?」

 私が問いかけても、誰からも返事はなかった。

 先生たちもキョロキョロとお互いを見回していて、誰もよく分かっていなそうだった。

「私が確認に行ってきます」

 そう言って誰かが1人外に出て行った。それを追いかけるように何人か出て行く。私もそれについて行った。




 外へ出てみると、ドラゴンたちが持っていた建物は少しずつドラゴンの手から離れて浮かび上がっていた。建物は何か水のようなものと、光の粒で覆われていって、今度は空からゆっくりと地面の近くにに降りてきた。

 大きなドラゴンが2匹、小さいのが1匹、空に浮いていた。

 1匹のドラゴンが、いや首が2本あるから2匹かもしれない。それが先に地面に降りてきて、その背に人影が見えた。

 多分ナナさんだろう、ドラゴンに乗っている人なんて他にいないから。

「どこかに保育園降ろしたいんだけど! どこなら良い⁉︎」

 叫びながら聞いていた。

「なんでいきなりこんなことになってんですか!」

 負けないくらい大きな声で、先生の誰かが叫んだようだった。

「置いてこれないでしょ! こんなに赤ちゃんいるのに!」

 ナナさんはドラゴンから飛び降りて、先生の方に走ってきた。

「確かに言わなかったのは悪いけど、こっちに来てから作業してたら明日になっちゃうんだよ! それじゃ遅いよ、助けられる命無駄にしちゃだめだよ!」

 ナナさんの言っていることは間違ってはいないんだろうと思う。でも普通ではあり得ない状況過ぎて頭が追いつかないのも確か。

 今の状況なんて普通が普通でなくなっているから、別に問題なんてこともないのかもしれない。

 先生たちは返す言葉もなくお互いの顔を見ていて、4人も大人がいるのになんの答えも出せていなかった。

 私はため息を吐いて、一歩前に出てみた。

「グラウンドの端っこのプールの方にしたら? あっちは正門から遠いし、子どもたちも脱走したりはないと思うよ」

 私はナナさんに手を振って、先生たちの代わりに答えてあげた。

「えっと、さくらちゃん?」

 先生たちがなんでという顔でこちらを見た。それは私がここについてきた事に対してなのか、私が答えたことや内容に関してなのか。

「大丈夫でしょ! 子どもの面倒見るのは大人の役目でしょ!」

 先生に、ベーっと舌を出してやった。建物を持っているなんて、いくらドラゴンでも重いに決まってる。早く決めて降ろしたほうがいい。

 ナナさんの方を見ると、少し驚いていたが笑ってドラゴンの方へ戻って行った。

「じゃああっちに降ろすよ! エマ! エルマ!」

 ドラゴンへ話しかけて指示を出したようだ。少し地震のような揺れが起きて、プールの側の地面がへこんでいった。

 そのへこみが大きくなっていき、上から建物が降りて来る。

 やがてドンと大きな音がして建物が地面に収まると、水の膜が破裂して消えた。シャボン玉が割れたようだった。光の粒も弾け飛んで空に飛んでいった。

「すごいな」

 千波先生がいつの間にか側にいて、じっと私の顔を見た。そして肩に手をポンと置いて、保育園の方に行ってしまう。

 保育園からはたくさんの子どもたちが出てきてしまって、保育園の先生達が慌てて追いかけていた。

 千波先生はというと保育園の先生に挨拶をして、何か話をしているようだった。

 ナナさんの方には空にいた他のドラゴンも降りてきた。ナナさんは残っていた3人の先生と、さらに追いかけてきた学校の先生とで囲まれていた。

 これは一悶着起きそうだった。

 私もその囲みに加わろうと近づいて行くと、ドラゴンとナナさんの周りには私以上に光の粒がくっついていた。

 この粒のつき方には個人差があるようだ。

 そんなことを思っていると、見ていたのがバレてしまったのか、青いドラゴンの頭が近づいてきた。




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