8、人間たちの住む場所
西町の探索に出てきた。
ヘイとエマ、エルマは後ろについてきて飛んでいる。なんだか遊びながら飛んでいるので落ちそうで怖い。
「えっと、早速で悪いんだけど。うちの家族を探してもらってもいいかな」
『かまわないよ』
「問題なければ実家にいるはずなんだけど」
ディーネの言う通りなら、娘や旦那の方が寿命が残ってるので安心だろう。まずはうちの両親。家にいればいいけれど、電話はつながらないから探しようもない。
『川の近くなんだよね』
「そうそう。その川越えるともう隣の市になっちゃう」
ディーネはとりあえず川を目指して飛んでいた。
「あの橋のそばでいいよ!」
家の近くの橋が見えてきたので、そこに降りてもらった。流石に家の近くにドラゴン勢揃いする場所はない。
昔は大きな川だったはずなのに、今はもう水が半分程度しか流れていないので、ほとんどは砂と石がある川だ。大きなものを運んでも置いてあっても周りに被害が出ることはない。
エマとエルマには川原でお留守番してもらって、ディーネとヘイと3人で見回りに出る。
川の隣の竹林を抜け、墓地を抜けると集落がある。そこの中に私の実家があった。
家の側の通りに出ようとしていると、家の近くはちょっと狭い道路で、若干ドラゴンが通るには厳しかった。狭いおかげか、道路がひび割れたり、亀裂ができていたりする箇所は少なかった。
『通れないな』
ディーネは立ち止まって、ヘイが無理に進まないように抑えていた。私だけ進むとヘイは無理にでもついてくる。そして何かを壊してしまうだろう。
「飛んでくしかないかな?」
『低く飛ぶと家が壊れるかも、あんまり高いと見つからないでしょ』
この辺に広いスペースはあっただろうか。昔は駐車場や公園だった荒地があるが、様子を見てからじゃないと連れていけない。
ディーネとなんだかんだ話していると、どこかから人の声が聞こえてきた。
「あれ、ナナちゃんでしょ!」
道路の先、遠くの方から指差しているのは、ウチの3軒隣の家のおばちゃんだった。その後ろにはもう2人ほど見える。
「ナナ! 無事だったの! 心配してたのよ!」
後ろにいたのはうちの母とその後ろは多分父だろう。2人は無事だったようだ。ちゃんと生きていた。
「ナナだよー! 皆無事でよかった!」
「その後ろのやつは何! 大丈夫なの!」
なんだかその他にも母はよく聞こえないことをずっと叫んでいた。驚きすぎて言葉が出ないのか、私が聞き取れないだけかもしれない。
『ディーネです、よろしく』
ディーネが挨拶すると、みんなびっくりしていた。おばちゃんは腰を抜かして座り込んでしまった。
「大丈夫だよ。私の友達なんだ」
それを聞いて、3人は私の頭がおかしくなったと思ったのか、もっと心酷そうな顔をした。
「……ということになってるんだよ」
私は簡単に何が起きているのかを説明した。
危険な生き物が暴れていること、そして私がドラゴンと一緒に人々を助けて回っているということ。はじめはなかなか受け入れてもらえなかった。
「あんたのその顔のやつは?」
「私の顔何か変?」
母は自分の目の下から頬の部分を、右も左も触って見せた。もしかして私の顔の目の下に何かついているのだろうか。触ってみるが、手には何もつかない。右側も左側も、何もついてなさそうだった。もしかして取れなかっただけなのかも、何回か擦ってみたが手には何もつかない。
「やっぱり変な模様がついてるけど」
母から見ても、まだついているようなので取れなかったようだ。
「知らないうちに何か書かれたのかな?」
ディーネの方を見てみたけれど、別に何もおかしくないと言った顔をしている。
『エマとエルマと契約したからじゃない? 昨日もあったよ』
「えっと? いつの間に?」
『森の中で2人と最初に話した時かな』
ディーネと契約した時と同じように、何か模様のような文字のようなものが出てきているようだった。自分の顔を見る機会がなかったので、今まで気がつかなかったのだ。
私はどうやらドラゴンと契約する運命のようだ。もしかしたらヘイも、どこか分からないところに模様ができているかもしれない。
「これはもう、消えないと思う……」
「そうなの」
母は可哀想なものを見る目でこちらを見ている。
『ナナ、ヘイがもう限界だ』
突然ディーネがちょっと困った方をあげた。ヘイが近くに行きたいらしく、ピョンピョン跳ねて暴れている。しばらくそっちを見るのを忘れていた。
「どこか広いところへ行かないと」
すると母が恐る恐る家のある方角の方を指さした。
「公園、空き地のままだから」
「分かった、行ってみる。家の方まで行って待っててくれる?」
「分かったよ」
3人に手を振って、私はディーネとヘイのところに戻った。
実家の近くの公園が雑草まみれの空き地のままらしいので、ディーネとヘイにはそこに飛んでいってもらった。やっぱりヘイは私と離れるのが難しく、今度はヘイに乗って一緒に飛んで行った。
この辺りの家は空き家になっていて、地震の影響で崩れていた。ここまで崩れていたらもうちょっと壊れても変わらないだろうと、2人にもついてきてもらって家の近くまで行ってみた。
家の裏手に父と母の車が2台泊まっていた。
その向こう側にある実家は半壊していた。
「これは住めそうにないな」
『そうだね』
2人がちょうど帰ってきたので話を聞いた。おばさんは自分の家に戻ったらしい。どうやらドラゴンが怖かったみたい。
両親は今実家の近くに車を止め、その中で生活しているらしい。この辺はお年寄りが多く、その人たちは地震の崩壊や、その後不思議と衰弱したことでみんな死んでしまっているようだ。生き残っているのは比較的若い、と言ってウチの両親と同じくらいだから50代前後だろう。
公園の反対側にはお年寄りが集まる集会所があって、みんなの拠り所だった。生きている人たちで動ける人は集会所に集まってきている。全員がいる場所はないので、車や家がまだなんとか無事な人はそっちに戻っている。ある程度は連絡を取り合えているらしい。
これからどうするかも少し相談したようだが、あまり解決策はなかったそうだ。
「もう結構時間経ってるっていうのに、まだ電話は使えないままだし、助けは来ないし。ホント、一体どうなってるんだよ」
「テレビもラジオもないからね、何も分からないよ」
父と母がそれぞれ嘆いていた。
「そうだよね、困るよね」
空から色々な場所を見ているから、現実がかなり深刻であることは分かっていた。それを教えることがいいこととは思えないので、口をつぐんだままでいた。
「これからどうする? 皆学校に集まってるけど」
私が聞くと、父は母に任せるというふうに顎で示して、そういう母は首を振った。
「だって、ナナは行かないんでしょ?」
「うん、運んであげるだけ。この子の他にもまたドラゴンいるし。皆一緒にいる場所ないから」
私はお手上げポーズをした。
「この家もダメだし、私の家も見に行ってみるよ。あっちもここよりは遠いけど川の近くだから」
「じゃあ一緒に行くよ」
どうやら2人は私と一緒に来てくれるようだ。
「了解。でもすぐには行けないよ。まだ見にいかなきゃいけないとこ、残ってんのよ」
私が困ったように言うと、母が手伝うと言い出した。父も呆れていて、危ないからやめた方がいいと言っても聞く耳持たず。
話が進まないので、2人には危なくなさそうなことを少しだけ手伝ってもらうことにした。
この近所は狭いところが多いので、私たちが探しに行けないところには、ウチの両親で行ってくれる事になった。
生きている人たちはみんな学校に集まっているから、行きたい人たちは運んであげると伝えてほしいと。
今日はこの後、私の家にも行って様子を見る。そして修理もするなら急がないと時間が足りない。
「夕方までには戻ってくるよ」
そうして私は両親と別れた。
私はヘイに乗って、川沿いの集落にも生きている人がいないか探しに行った。
ディーネに聞くと、行きている人は少しいるみたいだった。またバスを持ってまとめて運ぶ必要があった。見回りが終わったら学校にバスを取りに戻ってみよう。
異世界の生き物たちはほとんどいないみたいだった。少しずつ移動しているのかもしれない。もしかしたらみんな集まっている場所をなんとなく察知して、向かっているのかもしれない。
ところどころ崩壊した家がある中、私の家はなんとか無事だった。家中ヒビが入っているが崩れてはいない。ただ鍵が見つからないのでディーネにドアごと外して開けてもらうことになった。
家の中もなんとかなりそうだった。お金がないので家具も少なく、壊れるものもほとんどなかったのが良かったようだ。これで住む場所はなんとかなる。
この辺も危険はなさそうなので、私たちは隣の市まで様子を見に行くことにした。娘の様子が気になるので保育園を先に見に行きたいところだ。旦那の仕事場がまだだいぶ先にあるので、上空から様子が見られるといいのだけれど。とりあえず高く昇ってあたりを見回してみるしかない。
ディーネに先に空高く登ってもらい、ヘイにも後をついて行かせた。
この辺はなんともないが、火が出ている場所煙が出ている場所が遠くにあった。地震のせいだけじゃないだろう、もしかしたらやっぱり戦いが起きているのかもしれない。
私たちの世界はもう、私たちの世界とは呼べない何かになっていた。私の感じた地震は、地割れを起こしたものだけではなかった。海の方には見慣れない大きな山ができているし、空には隕石のような何かが浮いている場所がある。
きっとディーネたちの世界と少し混ざっているのだろう。そうでないとこの子たちは生きていけないのだろうか。そのせいで私たちに影響はないのか気にはなる。
その時大きな爆発が起きた。遠すぎて場所は分からないが、さっき炎が上がっていた所だと思う。
「ディーネはどう思う?」
『戦っていると思うよ、あれは』
とても大きな力の流れがあるらしい。あの場所は危険だと、ディーネが私に教えてくれた。
危ないところに行く余裕はない。私がもっと強くて、世界中の人を守るような、高い志があれば行ったのかもしれないけれど。それよりはまずできることをやろう。
「少し降りてみよう」
家が見えるくらいのところまで降りて、近くの街を見て回った。この辺りはもう危険な場所はなくなったようだ。やっぱり異世界の生き物たちは移動しているようだった。ディーネが言うには、私たちが集めた所に向かって進んでいるようだった。私たち以外の誰かが誘導しているかもしれないと。
『あそこに何かいるね。力が強い何か、行ってみたほうがいい』
ディーネが示したのは私の子どもも通っている市営の保育園に見えた。空から見たことなんてないので、もしかすると違うかもしれない。
「困ったな、うちの子だったらどうしよう」
私がこんな状況になっている以上、娘も世界の変化に巻き込まれていてもおかしくはない。
私たちは急いでその場所に向かうことにした。




