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彼女が昔ニンゲンだった時  作者: 志摩
1-1 異世界からの訪問者
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5、新しい世界を生きるということ


 私たちはとりあえず病院に向かった。

 その間にまた大きな地震があったようで、建物がまた崩れていった。道路のヒビは亀裂や断層になっていく。


 地震の揺れと建物の揺れとが落ち着いた頃、私たちは病院へ着いた。

 先生たちとバスを置いて、少し話をしてきてもらうように頼んだ。

 このままここにいるか、学校の方まで来るか。どうするのがベストなのか。

 お医者様が来てくれれば、学校の人たちは喜ぶだろう。しかし患者さんは運べるのか、みんなが皆んな歩けるわけではないだろうから。そこが論点。



 私とディーネはその間に、少し見回りへ行くことにした。消防署と警察署がどうなっているのかも気になったので。

「結構暗くなってきたね」

 もう日が沈みかけていて、わずかに町を照らしているだけだった。いつもならある街灯も住宅の灯りも今はなく、静かな町並みだった。唯一輝いているのが、この町でひとつしかない大きな総合病院だった。

『今は静かに潜んでいるものたちも、夜には動き出すかもしれない。動くなら早い方がいい』

「そうだよね。どこの世界でも夜行性、昼行性はあるよね」

 私は暗いながらもまだある程度目が見えたので、ディーネに低く飛んでもらいながら街を見て回った。

 こうしてみるとやはり被害は大きい、地震のせいか、生き物のせいか。どちらなのかは定かでない。

 うちの子どもは、元気にしているのかな。無事でいてくれるといいな。私の家も実家も、こことは反対側の西町にある。旦那は職場まで1時間ほど遠い場所、大きな市の繁華街で働いている。1番危ないかもしれない。




 警察署をまず見つけて降りてみたが、パトカーは1台もなかった。建物は半壊くらいで、声をかけたが誰も出てきてくれなかった。

 消防署は場所を覚えていなかったため、どうしても見つけられなかった。それらしき建物がないということはもう壊れているのかもしれない。明るい時間でないと発見は難しいだろう。

 暗い中やっとの思いで見つけたパトカーと消防車は、かなり酷い状態で転がっていた。大きな音が鳴るし、光が出るし、もしかすると真っ先にやられたのかもしれない。中には人が乗ったままだった。

「これは全滅なのかも」

『これ以上は見つからないんじゃないかな?』

 全部合わせて4台か5台か見つけたところで日は沈んでしまった。まだどこかに残ったわずかな日の光で空はかろうじて薄暗かった。

「そうだね、諦めて戻ろう」

 私とディーネは病院へと戻ることにした。







 病院のバスを置いたところに戻ると、運転手のおじさんだけ席に座っていた。だんだんと老け込んでいく気がする。

「どんな様子?」

「それがさ、結構すごいことになってんだよ」

 おじさんは早口に話し始めた。




 全員で病院に入ってみると、看護師の1人が出迎えてくれたそう。

 話を聞くと何人か怪我人と避難してきた人がいたようだ。この病院の建物は地震の被害はあったものの、何か見たことない生き物が入ってきたり、襲われたりはなかったらしい。

 その後は各々の現状確認をして、話し合いを進めたらしい。

 看護師たちの意見としては、



「建物の被害はそれほどではないです。ですが、人的被害は大変なことになっていて」

「重症患者からどんどん亡くなっていっています。生き残ってるのは妊婦さんとか怪我の人とか、軽度の患者さんですね。比較的元気な方に変化はないんですけど」

「手術をしてやっと持ち直したと思ったのに死んでしまった」

「あの人はもう限界が近かった」

「とにかく大人も子どももすごい人数が死んでいってます」

「やっと処理が追いついてきたところで。昼過ぎからもうずっと慌ただしく、働きっぱなしで……」

「今はもう、急に死んじゃうって人もほとんどいなくなってますね」

「外に怪獣がいるって子どもたちがふざけて言ってると思ってたら、まさか本当なんて」

「水が止まってしまったんです」

「そう、電気ももう止まります。蓄電も5、6時間くらいしかもたないものなので」

「私は家に帰りたい、子どもは無事なのか確認もできません」

「私たちは身動きがとれないから」

「患者を置いていけないし、帰る手段もない」




「……ってそれはもう、みんなすごい不満が溜まってるみたいで」

 とりあえず伝わってきたのは、みんな苦労しているだろうこと。こういう時の病院は仕事も増えるものらしい。

「それでどうしておじさんはここにいるの?」

「バスの見張りって事で」

 おじさんはにっこり笑っていた。多分疲れて逃げてきたんじゃないだろうか。

「これから夜になると、危ないかもしれないから。とりあえず学校まで運ぶんですけど、どうしますか? って女の先生が聞いたら、ちょっと待って、みんなで決めてくる。ってさ。今それ待ちなんだ」

 電気が使えないとなると、やっぱりみんなで移動することになるだろうか。置いていくわけにもいかないが、長い時間をかけるわけにもいかない。

『バス、持ってきておく?』

「そうしようか」

 どうやらディーネも同じ考えだったらしく、私たちはまたすぐ飛び立った。








 バスを2台持ってくると、少しずつ人が出てきているところだった。

「生き残っている人たちはそう多くはないから、みんなで移動するそうよ」

 氷之沢先生が教えてくれた。

 初めて見るドラゴンに、みんな驚いていて、やはり怯えてしまう人も多い。

「はじめまして、院長の志村です。持てる限り機材も運びたいのですが可能ですか?」

 穏やかそうなおじさまが話しかけてきた。「バスに乗るものでしたら、問題なく運べます。ただ学校では電気は使えません」

「それは聞きました、うちの病院も自家発電のシステムはダメになったみたいです。それならより安全な場所に行く方がいい。ダメでもなんとかするしかありません」

 どうやらとても志の高いお医者様のようだ。

「とりあえず乗せてみてください。何回でも運びます」

「よろしくお願いします」

 院長は軽く頭を下げると、職員たちに指示出し始めた。仕事ができる人らしい、素晴らしい。こんな人がもっと沢山いてくれればいいのにと、助けてくれる人が増えた今でも思ってしまう。

「そっちはどうでした?」

 飯富先生が尋ねてきた。

 学校の先生たちもみんな戻ってきていたので、私も見てきたことを説明した。





「……とりあえず、私たちにはもう助けが来ないってことは分かってしまった」

 警察も消防も、真っ先に狙われてしまっただろうという推測を話した。

「この町だけじゃないだろうからね。きっと隣町だってもっと大きなところに行ったって。状況に多少の差はあれど被害は大きそうですね」

 氷之沢先生が言った。他の先生たちも頷いていた。

「こうなってくるともう、本当に自分たちでやるしかないんだね」

 運転手のおじさんが呟いた。そして続けて話し始めた。

「やっぱり誰かが来てくれるんじゃないかとか。少し希望があったんだけど。もうなくなってしまったんだ」

 少し寂しそうに遠くを見つめながら、不安な気持ちを溢していた。

「私たちはやれることを少しでもやらないといけないでしょう。学校にはたくさんの子どもたちがいます。みんな怯えているし、混乱しています。それは私たちもそうだけれど、少しでも長く生きているものとして、子どもたちを守り育てていく責任がある」

「常盤先生、かっこいいこと言いますね。流石です!」

 富岡先生が少し空気を壊した気がしたが、誰も気に留めてはいない。そういう役回りの人なのだろう。

 そんなことより私たちは前に進まないといけない。覚悟するには充分な言葉をもらった。

「やれるだけやってみましょ」

 私はディーネにそっと手を触れた。 

 これから私たちが生きていくために、きっとディーネのような存在は必要になる。この世界はもう新しい世界へ変わってしまった。

『私にできることはやろう』

 その言葉にみんなが勇気を与えられた。


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