決意
僕が勤めていた【アナスタシス】という組織は紛れもない悪の結社のようだった。
「僕は知らずに、悪に加担していたということか」
僕が開発した呪文が、人家を焼いたことだろう。
僕が強化した武器が、人を傷つけたことだろう。
僕が製錬した薬剤が、人を狂わせたことだろう。
「うっ」
吐きそうになる。僕はなんのために魔法の技を磨いたのか。今しがた芸人のペルペ氏を驚かせたような技は、世のため人のために使われるべきなのだ。それを志して、哲学ギルドを離れ、より直接世の中に貢献しようと思ったはずだ。
何をしていたんだ。
腹の中がグルグルする。食べた物を吐き出すことはできそうだが、為した悪をなかったことにすることはできない。
僕は。僕は。
「大丈夫です」
メイメイが、僕を抱き寄せる。いつか僕が彼女にそうしたように。
「ボルフ先生は優しい人です。メラーが私にしたことを、悪いことだと言って許さなかった。悪を目にすれば、それと戦うことができる。ただ視野が狭いだけです。だから」
体を離して彼女は言った。
「私が、見ています。何が悪いことか分かるつもりですから。注意深く。先生のことも、見ています。大丈夫です」
メイメイのことは、助手として頼りにしてきた。魔法のことはまだ手伝わせていないが、没頭した僕をすぐに我に帰らせるのも彼女の声だし、営業部の不可能な要求も彼女が拒否した。それでも、どこか守るべき子どもとして見ていたところはあった。
メイメイは、思っていたより強いんじゃないか。
少なくとも今は、とても支えになるのだった。
「ありがとう」
僕はできる限り真剣さが伝わるように言った。
「ありがとう、メイメイ。中目標としてさ、アナスタシスを壊滅させようと思う。それが僕の償いだ。敵は大きい。だが、滅ぼしてみせる。付き合ってくれるか」
メイメイは微笑んだ。
「もちろんです!」
それが、僕とメイメイの出発点となった。
古い詩節を思い出す。
「前途に困難は立ちふさがるがいい。
必ず我らは乗り越えてやろう」
「……盛り上がってるとこ悪いんだけどさ」
横から声がかけられる。ペルペ氏がやや呆れた顔でこちらを見ていた。
「壮大な話の前に、小目標としてまずは寝るところがないんだろ」
そうなのだった。
結局、ペルペ氏の厚意で、属する旅芸人一座の天幕にお世話になることになった。