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過去編:毒娘と魔法使い

「なかなか愛らしい造形じゃないか〜ヒヒヒッあんな辺鄙な村にもいるもんだねェ素材が」「この尻尾は気に入らない人もいるのではありませんか?」「切っても生えてくるんですよ」「イモリと混ぜましたからね」「再生能力が高いのは悪くありませんよ」「この尻尾もその筋には魅力的に映るかもしれません」「ヒヒヒッこれこそ最高傑作だよォ」


 私が最初に見たのは、白い部屋と黒い服の人たちだった。


「誕生おめでとう、毒娘ちゃん。君が完成形だ」


 その人たちの話す音の意味もわからないまま、ぼやけた視界で喜ぶ雰囲気を捉えていた。


 ある日のことだ。


「あああああ!! 痛い! 痛い! 痛い痛い痛い!!」


 私が必死に訴えるが、「黒い服の人たち」は耳を貸さない。そのうち私の口に布を押し込み、喋れないようにしてしまう。

 私は腕を壁に空いた小さな穴に突き出している。正確に言えば、突き出させられている。私はこんな痛い思いをしたくないのに。


 そのうち腕を引っ込めることを許される。傷だらけの血まみれになっていて、動かない。また、壁が床と天井に引き込まれていく。壁の向こうでは、動物が小刻みに震えているのが見えた(痙攣と言うそうだ)。この間の、ネコと呼ばれた動物に似ているが、もっとずっと大きく、シマシマの模様がついていた。やがて動かなくなる。


 私の腕は放っておくと治る。でも、動物はもう二度と動くようにならない。


「素ン晴らしいねェ〜!! ヒヒヒッこの子は最高の兵器になれるよォ〜」


 「黒い服の人」はとても嬉しそうだけど、私は全く嬉しくなかった。

 こんなことが何回もあった。


 またある日のことだ。

 食事をとる。私は食事が嫌いだった。苦いからだ。

 舌を火で焼くように苦い。体の中に入っても、お腹を焼くようだ。

 全身が焼けるようなのはいつものことだけど、食事の時は特にそうだった。

 しかし食べないと管を喉まで入れられて食事を流し込まれる。

 これもとても苦しいのだった。


 また別の日、私にとって運命的な日のことだ。


「おかしいな、この辺りに大きな生体魔力がある……何かいるのか? 魔獣養殖の予算は否決され続けているはずだけど」


 誰かが「白い部屋」に入ってくる。いつもの「黒い服の人」ではなかった。


「これは!? 人に毒性を持たせたのか……それに再生力、でも、そんな毒に人が耐えられるわけが」


 なにやらぶつぶつと言って近づいてくる。その表情は険しい(私はこの頃表情というものがわかるようになっていた)。


「強化魔法を前提に動くのか!? 切れたら死ぬ、解呪を受ければ死ぬ、正気の沙汰じゃない……これは! 自爆装置まで……! メラーのやつ、なんてことを!」


「私が死ぬのって、いけないことなんでしょうか」


 いつものことだが、全身が焼けるように感じる。喉も焼けるようだ。慣れることはない。

 私はもう目の前に来ていたその人に話しかけた。返事はこないだろう。私が誰かに話しかけて返事をもらったことはない。

 その人は、驚いたように私の方を見た。


「君、君は……生きようと思わないのか」


 何を驚いたのか、その時はわからなかった。


「私が生きていると、いつも痛い思いをする上に動物を死なせます。苦い思いをして食事をしなければなりません。しばらくしたら、人間も死なせるように使うつもりらしいです。私が死ぬのって、いけないことなんでしょうか」


 その次の瞬間には、その人は私に体をくっつけ、腕を私の背中に回していた。


「離れた方がいいです。毒が回ります。みんな私に触るときは手袋とかつけますよ」


 言いながら、私は「離れないでほしい」と思っていた。なぜか、安心して、心が暖かくなっていたから。


「大丈夫。僕は強い。大丈夫だから……かはっ。君、君を、人を殺すための兵器になんかさせない。僕なら、君をもっと楽にできる」


 その人は咳き込みながら希望を口にする。

 こんなことを言われたのは初めてだ。


 そして気づいたら、言う通り、全身の焼けるような感覚が消える。

 信じられなかった。私の体は、こんなに軽かったんだ。


「上に抗議しよう。こんな非人道的な研究は許せない。改めさせてやる」


 体を離すと、彼の口や目や鼻からは血が流れていた。

 後から思えば彼の言うことは楽観がすぎていたけど。


 これが、私「メイメイ」と彼「ボルフ先生」の出会いだった。

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