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最後の戦いへ

 ハルクが、倒れ伏していた。

 出会った二人の敵は標識により位置を特定済みだ。

 全て場所は別々である。


 人員をどう割り振るか。

 もし他に伏兵がいたらどうするか。


 しばし考え、結論を出した。


「ほう、魔法芸人、と。しかし予約なしでは通すことができませんな」


 向かった先はドンカ卿という人物の邸宅だ。門番は入るのを認めない。山という異界に呑まれたこの都市では今、単純な魔法の出力よりもどれだけ神秘を集めているかが物を言う。神秘付与が可能な僕が時間をかければ押し通ることもできるだろう。


 しかしこの家に山の神秘が集まっているということ自体が、火山発生の黒幕と通じている状況証拠となる。


 そして今、時間をかけるつもりはない。ここは正当なやり方で通るしかない。


「門番。その者たちを見て、私が笑ったなら、通してやれ」


 ドンカ卿の声が響く。狙い通りだ。

 この貴族が芸人の類を好むのは調べていた。


「ボルフ、どうする。作戦は」


「笑わせる。それだけだよ」


 僕はごく単純な答えを返した。


 一方、セリナとメイメイは山を下りてハルクを助けに行く。セリナは大地を把握する能力がある。今やメイメイはハルクを治療できる。


「えっと、そこは落とし穴、あっちは爆発だよ。埋めていこう」


 当然のごとく仕掛けられた罠の解除をセリナが試みる。

 セリナはリズほど罠を見破ることに長けている訳ではない。

 ここで仕掛けられるのは地面しかないので、問題ないと思っていた。


 しかしもう一箇所、あったのだった。


「ハルクさん!?」


 ハルクが起き上がる。動きが精彩を欠いている。操られるがまま、爆発の罠に倒れ込むことを強いられる。


 そして罠が発動し、三人を巻き込む。


 さて、僕たちはドンカ卿の邸宅内を案内されていく。


「……それにしてもビックリだよ! ボルフがそんな隠し芸を持っていたなんて。いやー面白かった。思い出すだけで可笑しいよ」


「別に、なんということはない。それよりも捜査記録を見直していて妙なことがあった」


「昔馴染みの名前が載っていないってやつね。まだ何かあるの」


「よく探したら載っていた」


「よかったじゃないか」


「よくない。捜査側だ」


「着きました。ここでお待ちください」


 ちょうどその時、ドンカ卿の使用人が言う。ペルペはそちらに食いついた。


「まるで牢獄じゃないか!」


「左様でございます。面白そうな牢獄でしょう?」


 使用人が手を叩くと、床が崩落する。

 牢獄に気を取られると対処できないという訳だ。

 魔法で二人ともふわりと着地させる。

 石造りの殺風景な小部屋だ。


「なんでこんなことに」


「私だ」


 ペルペの泣き言に律儀に答える者があった。


「結果的にあの使用人は案内してくれたな。さっきぶりだ、ゾーラ書記長。それともこう呼んだ方がいいのか。……ヤーノ」


 昔馴染みのヤーノはゾーラ書記長と同一人物なのだった。


「私は君からも本性を秘匿し続けた。この火山の力も得ている。私の神秘力を数値化すれば、二億歳の古竜相当と言ったところか。ちなみに君のは、せいぜい五千年程度だ」


 二億歳の古竜というものが実際にいる訳ではない。石の中に残滓が保存されているぐらいだ。古いものは神秘を宿す、という発想に基づいて数値化を図ったのだろう。二億年の厚みを前には、神秘付与など付け焼き刃に等しい。だが僕は鼻で笑う。


「それ、本気で言っているのか?」


 無造作に魔法を組み立て行使する。ヤーノが吹き飛び、石の壁にめり込む。


「バカな! 神秘力が一瞬だけ跳ね上がったのか……!? 【神秘を手に収める者】は伊達ではないか……! くっ、一時撤退する……!」


 また知らない二つ名ができていた。

 ヤーノは壁に穴を開け、逃げてゆく。


 その一方で、リズは僕が登山中に会った敵を追っていた。

 手負いと思ったが、これが意外にも動く。


「ここは」


 敵がリズに向き合う。そこは地下水道の中という、山とはまた別の異界だった。水ではなく溶岩が流れている。熱い。魔法なしでは耐えられない状況だ。


 向き合った敵のさらに向こうからもう一人やってくる。


「逃げるぞ! ヨルダン! ぐあっ!?」


 というかさっきのヤーノだ。僕たちとリズは合流に成功する。挟み撃ちの形だ。

 もっとも、僕の認識範囲に入っている時点で配置など関係ない。

 ヤーノは切り札を切った。


「ボルフからは逃げられんか……目覚めよ、我らの内なる最後の神秘よ」


 二人の体が蠢く。人体ではあり得ない歪み方をする。


「書記長!? そんな、私は、いやだ、やめて、総統お助けを、やめ」


 体が破裂し、溶岩が飛び出す。溶岩の塊は低きに流れるのではなく、人の形をとった。


「マグミン。火山に出る、スライムの一種か」


 スライムの代表的な弱点である塩や火が通用しない。特別な対策なしでは難しい相手だ。


「グググ……」


「ゲゲゲ……」


 準備を整える時間がほしい。時間稼ぎにペルペとリズでは心もとない。逃げて追われれば街に被害が出る。


 その時だった。


「待たせたな」


 完全に回復したハルクが、腕を組んで立っていた。

次回で完結します。

どうか最後まで見届けてください。

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