その頃の組織
【アナスタシス】の研究開発部で高笑いしている者がいた。
「ヒーヒヒヒ! そうかそうか! ボルフくんが追放ねェ! めでたいかなめでたいかな!!」
「彼はメラー先生の革新的研究をことごとく妨害してきましたからね」
「因果応報、つまりは自分のやったことの報いを受けたわけですね」
黒衣を着た魔法研究者たちが同調する。
「そうなんだよ!! 毒娘計画の最高傑作も台無しにしてさア……それを皮切りにゴーレム融合人間も魔獣養殖も難癖つけて予算をカットときた!! 何が人道だバカバカしい!! そんな彼ともついにはオサラバだ! ヒーヒヒ!!」
「これで研究も進むというものですね。振っておいた術式も旧ボルフ班から上がってきました」
規則的に穴のあいた羊皮紙の束を研究員の一人が手渡す。
「フーム? ちょっと魔法陣に変換しようか。ボルフくんはあれでいて魔法文字列をそのまま処理できる変態さんだし、班員にまでそれを求めるところはあるからねえ」
魔導机に紙束を並べると、実験スペースに敷き詰めた白石に色分けされた多重魔法陣が投影される。メラーはそれを色々な角度から眺め、時折紙束を書き換える。
「ヒヒ……こんなものかな。正直ボルフくんより読みやすい呪文だね。でも註釈が不親切になっていないかい?」
「確かにそうですね」
「旧ボルフ班にはよく言っておきたまえ。ともあれ次の工程に進めるな」
そのとき、研究開発室をノックし立派な詰襟を着た男が入ってきた。
「ヨルダン監査役! おかげさまで順調にやっていますよ、ヒヒヒ。今ちょうど一段落ついて、あとはテストして納品というところです」
「よくやっているようだな。ボルフを追い出してから円滑に進んでいる。予算にも色がつくことだろう」
「ヒヒッヒ……ありがたいことです」
「さて、本題だ。今度小規模のパーティーを行う。貴族も来るが、開発者も一人お連れしろとのことだ。普通ならメラー師だろうが……」
ヨルダンはメラー師を連れて行きたくないようだった。研究員がそれを察する。
「メラー師の頭脳は常に魔法のことを考えているべきです。本人もそれを望むでしょう?」
一人が提案した。
「ヒヒ……いいこと言うねえ。もちろん、貴族のパーティーなんてごめんだよ。君が行くかい?」
「ベルクがメルベルク領の貴族の出でしょう。どうですか?」
話を振られたベルクが答える。
「では、行きましょう」
「開発者として出席するのだ、あまり肩肘張る必要はないからな」
ヨルダンはメラー師を連れて行くハメにならずに済んでホッとしつつ、ベルクに声をかける。
何もかも順調だ。ヨルダンは考えた。
ボルフを追放して、すべてがうまく回っている。
そう、考えたのだった。