私の口づけを頬に、二人の愛を皆の目に
「私はいらなかったんです」
メイメイが泣く。僕の言葉のせいで泣く。
それでも僕は言葉を紡ぐ。
彼女は思い違いをしている。
「あの薬は効き目を失くしていた。じゃあやっぱり、メイメイは僕に必要だ。いいか。効き目を失くしたはずの薬が、なぜか僕の心に効いた。それは、信じたからだ」
「え」
偽薬というものがある。薬だと信じ込まされると、偽物であっても効果を及ぼすものなのだ。
「あの時、僕には薬が意識を奪うものだと思う余地もあった。それでもメイメイの想いが、優しさが、溢れる愛が、僕に薬効を信じさせたんだ。愛の勝利だよ」
「本当、ですか……?」
「本当だ。君は僕のそばにいてくれ。僕を君のそばにいさせてくれ。そして今は無理でも、役に立つ立たないとかじゃなくて、もっと大事に思ってるって認めさせる。メイメイ、愛してる」
メイメイはさらに涙を流す。
苦しみのせいでは、なさそうだった。
「私、私は、でも」
「僕の言葉を偽りにはしたくないんだろ」
「……はい。私も、先生のことが大好きです。ずっと一緒にいたい。ずっと一緒にいましょう」
冴えた月明かりが、二人だけを照らすようだった。
メイメイが背伸びして僕の首を抱き、頬に口づけする。
頬が痺れるような感覚が走る。
「ご、ごめんなさい! まだうまくいかないみたいで」
僕は頬を指でなぞって回復魔法を使おうとし、ためらった。
なんだか勿体ないな。
「あの、気持ちは嬉しいんですけど、治した方がいいですよ」
呆れたような照れたようなメイメイに言われて、名残惜しくも治すことにした。
「大丈夫ですよ。つ……次は忘れられないようなのを唇にしてあげるね、ボルフ」
恥じらいを含んだ表情で、目を合わせまたそらしながら、毒とは対極の蜜のように甘い声でメイメイが言う。
「えっ!? 何!? メイメイ!? その、あの」
僕は側からみて滑稽なぐらい取り乱してしまう。人がいなくてよかった。
「……ふふっ。思ったより効きましたね。ハルクさんが、先生はこういうの好きだって」
何を吹き込んでいるんだ。
他に人がいる時はやめてもらいたい。
「ええ。これは二人きりの時だけにします。絡み合う蔦? のように求め合う? 時だけ」
「それもハルクに吹き込まれたのか!?」
答えは屋内から聞こえた。
「そうだぜ。感謝しろよ」
見れば、いつのまにか四人とも露台に面した部屋にいてこちらの様子を伺っていた。
「何時からそこに」
「『君は僕のそばにいてくれ。僕を君のそばにいさせてくれ』のあたりからかな」
セリナが告げる。そこからかあ。
しかし僕から気配を隠しきるとは驚いた。
妖精族の秘術でも使ったのだろうか。
「いや、普通に二人の世界に入ってたから全然余裕だったよ」
セリナは半笑いでそう言うのだった。




