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レージャ婆の末路

 ボルフはメイメイとリズを置いてメラーの部屋へと向かった。


 話題がない。お嬢様に似てお嬢様でない相手に、自然に接することができるだろうか。

 リズがそわそわしていると、メイメイが口を開いた。


「……今、何か聞こえませんでしたか」


「はい? すみません、聞こえませんでした……メイメイ様」


 それを聞いてメイメイは、喋り方がよそよそしい、なぜ様づけなのだろう、と不思議に思った。喋り方は自分も変わらないので聞かない。


 助けて。

 痛い。

 痛い。

 殺して。


「あっ! 聞こえました!」


「やっぱり言っていますよね? 助けて、痛いって」


 そして、殺して、と。


「あの、転移魔法陣の先です。転移魔法陣ごしに声が聞こえるものなのかは知りません」


 そもそも転移魔法陣など普通お目にかかることはない。何が正常なのかなどわからない。


「行ってみましょうか。先生なら、こういうとき放っておかないと思います」


「いえ、しかしですね」


「レージャという人は恐ろしい使い手だそうですが、私には先生から張ってもらっている魔法障壁があります。ある程度以上の魔法に反応して発動するそうです」


 ボルフはなかなか戻ってこない。ついにリズは折れた。昔も、お嬢様の「お願い」には弱かったものだ。

 転移魔法陣をくぐる。


「痛い! 痛い! 痛い痛い痛い! 殺して! 殺して!!」


 くぐったことを後悔しそうになる。

 あまりにも凄惨だった。


 最悪の放火魔の、組織【アナスタシス】最高戦力の、セリナ宅を破壊しボルフたちを殺そうとした実行犯の、哀れな末路が、これなのか。


 四肢はもがれ、体は衰弱しきっている。火の巨人を操るため、魔力を搾り取られ続けたのだろう。今も装置が動いている。どこかに魔力を送っているようだった。

 直感的に、装置を止めた。

 しかし老婆の苦しみは止まらない。


「痛い……死なせて……」


「これは、ひどいですね……。メラーという、あの狂人は……!」


 メイメイに、よく知った感覚が思い出される。

 命を弄ばれ、際限のない痛みが走り、生命を持ったことを後悔する。

 本当に、よく知っている感覚だった。


 この老婆は、笑いながら火を放ってたくさんの人々を殺したという。最低の悪党だ。

 では、このような悲惨を味わって当然なのだろうか。


 わからない。

 ただ、メイメイは老婆を抱きしめた。そうせずにはいられなかった。


「メイメイ様!? 危険ですよ!」


「私は……私にできるのは、これぐらいしかありません。……ごめんなさい」


 毒矢を受けてから狂っていた体内の均衡はすでに取り戻した。

 今では抱きしめたぐらいで相手を傷つけることはない。弱った相手でも同じだ。

 軽い。四肢を失った老婆の、なんと軽いことか。

 自分の指を噛んで傷をつける。血が滲み出る。狂った学者の悪意でできた、毒の血だ。

 迷う。先生はどう思うだろう。悲しむだろうか。怒るだろうか。先生を待てばもっと他にできることがあるだろうか。

 痛い。死なせて。苦しい。殺して。

 指は次第に癒えていく。だが、老婆の声は相変わらず心を苛む。


「メイメイ様、あなたがそのような重荷を背負うことはありません」


 そばに来たリズが短刀を振るう。老婆の首の血管を割いた。


「アッ! アァ……」


 メイメイの腕の中で、老婆が事切れる。


 リズは力なく言う。


「メイメイ様、あなたは優しいお方です」


「できる限りのことをなさいました」


「こうした優しくないことは、私などに任せれば良いのです」


 どうすれば、よかったのでしょう。

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