メラーを追え
メラーを追って隠れ家に入ると、転移魔法陣が数多く刻まれた広間に出た。
「先生、この行き先って分からないんですか」
「わかる。だがどれも行き先は小部屋で、別の転移魔法陣が複数刻まれている」
二層までは追うことができるが、そこから先は分からない。念の入ったことだ。
「それじゃ、全部試すしかないということか」
全通り試すなど、気が遠くなるような組み合わせの数だ。
「いや、これは主の側でどれがどれに通じるかを入れ替えることができる。決まっているのは、最深部まで繋がる経路があるってことだけだ。そうでなければ出られないのだろう」
「どうしようもないじゃないか!」
リズが絶望の声を漏らす。
「逆だ。どうにかしようがある。これで希望が見えた」
僕はそう言って、広間の転移魔法陣を片端から解呪し始めた。
「何をやっているんだ!? これでは正解まで巻き込むかも……あっ」
一つの転移魔法陣を残して全て解呪する。
「最深部まで繋がる経路があるっていうことだけは、決まっているからな」
転移魔法陣に乗り、小部屋に移動した。さらに魔法陣を解呪してゆく。リズが素朴な疑問を発した。
「これって全部壊したら閉じ込めて兵糧攻めにできたりしないのか?」
「メラーなら脱出用の転移魔法陣も用意しているはずだ」
次の小部屋、その次の小部屋と移動すると、見えた。
最深部に進むための転移魔法陣がある。
「覚悟はいいか? 入ってすぐの先制攻撃は僕が防ぐ」
「はい!」「ああ!」
転移魔法陣をくぐる。
メラーとレージャ婆はここにいない。隠し部屋がある。ケンが横から矢を放つ。ベルクは後方にいる。
想定通りだ。なので転移魔法陣をくぐる時点で後ろを向いておいた。
「なっ……がっ」
剣を振りかぶるベルクは無防備そのものだった。やすやすと心臓を貫く。
ケンの矢は、先のものよりも強い魔法障壁で止まり、床に落ちる。
魔法障壁の強化とは、そう難しいものではない。
攻撃の激しさは高が知れているので、強化しても無駄になりがちなだけだ。しかし、先はそれで不覚をとり、メイメイを射られてしまった。
「返礼だ。これはメイメイの分だと思え」
ケンの額にはすでに不可視化した矢が刺さっていた。先ほど射られたものだ。毒の血がついている。ケンは得意技を使う間も無く、死に際の叫びを上げることもできず、何が起きてなぜ自分が死にゆくかもわからないまま、水から出た魚のように口を動かして生き絶えた。
「こちらの転移魔法陣がメラーのもとへ行くものでしょうか」
「それはレージャ婆の方に繋がっている。メラーは隠し部屋にこもって転移魔法陣を消したらしい。書き直すか」
空気中の残留魔法を辿り、術式を再現する。これはそうそうできる人間がいない。魔法使いがいれば自慢できるところだが、あいにく二人ともすでに事切れている。
「メイメイ、来るか?」
問いかけると、彼女は首を横に振った。
「きっと足手まといです。私はあの人が怖い。それに先生はあの人相手に、闘志に困ることはないでしょう?」
「そうか。まだこの部屋に何かあるかもしれない。一緒にいた方が安全だとも思ったが」
「では私がお守りする」
リズが申し出る。意外だった。彼女はメラーに対し復讐心があるはずだ。
「あるさ。何度、夢に見たことか。奴の首を搔き切るためにあの街に赴いたようなものだ。だが、かつて私はお嬢様を守れなかった。私情にほだされたせいだ。その二の舞は踏まない」
三人で向かうということもできるが、メイメイはメラーに対し怯えている。無理に連れて行くこともない。
そうして、僕は一人で転移魔法を行使した。




