巨人の戦い
土の巨人が動き出した。
地を読み、地霊と対話する、セリナの技術だ。制御には僕も関わっている。
ここまでの戦いは概ね、この巨人を動かすまでの時間稼ぎだ。
あとは言ってみれば、巨人の殴り合いで決する。
火の巨人の術式は流動している。簡単には解体できない。ここまで剣を振って、術式の型を読んでいた。胸の中心部に、独立している術式の核がある。それを解呪すれば倒すことができる。
遠くからでは改変が難しい。プロテクトを解いているうちに、そのプロテクト自体が流動して別物となり、突破できまい。
近づけば焼かれてしまう。火は耐えられるとしても、呼吸ができないのがつらい。
そこで土の巨人を使うのだ。あの体には火の術式の解体呪文が巡らされている。その腕などを火の巨人に突き込めば、術式を破壊できる。ただし、最後の核だけは術式が読みきれていない。それが露出したところで、巨人を介して霊的侵入を行なう。そこは時間との戦いになろう。間に合わなければ、土の巨人は僕の魔力に耐えられず瓦解する。
殴り合いと言うが、一方的な展開になるだろう。
火の巨人の側は土の巨人に対して有効な攻撃手段を持たない。
土の巨人の側は火の巨人に対して有効な攻撃手段を持つ。
土の巨人が殴りつける戦いにするかというと、そうはしない。
地面を絶えず体に取り込みながら、体の一部をもぎ取って投げつけた。
巨人という魔法は、人の形をとることで、神話の巨人を参照して魔力を高める。
人の形をとり、人の動きをなぞることによる効果がもう一つあった。
投擲だ。
全身が急所のような脆弱な体を持つ人間にとって、魔法以外では、投擲が主要な攻撃手段となった。
人類が最初に知った魔法は【言語】だというのがよく言われるが、【投擲】だという声もあった。
土の巨人はそれを活用しているのだった。
火の巨人は解呪効果を持つ投石により体を削られていく。
ついには胸に直撃を受ける。
「……見えた!」
静かに息を吐く。
機会は一度きりだ。
いつになく緊張する。
そんなとき、僕の手を取る者がいた。
メイメイだ。騎士の方はすでに散り散りになっている。僕のもとへ走ってきたのか、息が上がっている。
「心を落ち着ける薬です。強くすると眠ってしまわないか不安なので、気休め程度ですけど」
よく効いた。
火の巨人の胸に再び投じられる石を念じる。
【時間加速】を自分に使う。主観時間が水飴のように鈍化する。
降る砂が、散る火の粉が、そして重ねた手で感じるメイメイの鼓動がゆっくりになっていく。
術式を構築していく。神秘付与までは行なう必要がない。気が楽だ。
すぐに火の巨人の解体呪文が完成し、止まっていた時間が動き出す。
遠くで、火の巨人が消滅してゆくのが見えた。
気づけば、メイメイは手を離していた。どこに行ったかと思えば後ろだ。
ふざけるように覆いかぶさってきた。
「メイメイ。やったよ。まずは一勝だ……メイメイ?」
そこで、様子がおかしいことに気づく。
目が虚ろで、息が浅い。
覆いかぶさったのはふざけてではない。
倒れ込んだのだ。
その背中に、数本の矢が刺さっていた。




