メラーたちの当惑
「ボルフと毒娘だ! いいねェー! 踏み潰してやろうよォ!」
「死体も回収しましょう!」
「研究が進みますよ!」
メラー師が笑い、二人の研究員、貴族の出のベルクと【空蝉】使いのケンが同調する。
「ア……ア……」
多重魔法陣の上に、レージャ婆が手足をバラバラにした上で寝かされていた。
彼女の魔法を強引に奪って、火の巨人の動力としているのだ。
前々回動かしたときまでは「苦しいぞい」「死なせてほしいぞい」などと喚く余裕があった。前回も「苦」「死」ぐらい喋れていた。
「ウーム。そろそろ長めの休みを取る必要があるかねェ。出力を保っての連続使用は五回が限界かねェ」
もうだいぶ動かした。巨人の感覚機能を図に変換して様子を見ている。ボルフは魔力の剣を振るう。あれは本にあった。何度も発狂しそうになりながら読んだ。
実体を切ることができず、魔法だけを切る剣だ。重量は無視でき、理論上は数万聖歩まで伸ばすことができる。実用的にはメラー師が自前の魔力の他にレージャ婆の魔力も変換して五四聖歩といったところだった。それをボルフは一〇〇〇聖歩にし、後退しながら火の巨人を切りつけている。
「すごい魔力だ! あれはほしい……」
ケンが興奮する。
「そのためにも確実に殺さねばな」
ベルクは冷静だ。
状況は悪くない。剣に切られても、火の巨人は動作を一瞬遅らせるだけだ。
術式を流動させているのだ。禁書にあった技術である。
「ボルフがこれを知らないとは思えないねェ……隠し玉があるのか……毒娘の方はどうかな?」
「あれはボルフが毒を弱めたはずです。人を殺すのを嫌ってもいる。そう難敵ではないでしょう」
騎士団第二隊隊長に預けた魔道具を通して、戦況を把握しようとした。ケンが眉根を寄せる。
「おい。おかしいぞ。魔道具が狂ったのか?」
「狂いはないねェ。これが起こっていることなんだろうねェ……」
死者数はゼロだった。
しかし毒娘は依然活動している。捕獲も殺害もできていない。傷はつけているが、すぐに再生する。
そして、騎士の二割が地に伏していた。
「昏睡毒。毒娘計画で使った毒たちに、弱めてその結果を生むものはない。皮膚への接触で嘔吐や吐血、血などが目や口に入れば死、といったところだった」
ベルクが分析する。
「自身の毒の強さを操っている? 確かに、組み合わせて強さを調整すれば昏睡させることもできるが」
「ヒーヒヒヒ! 面白いねェー! 腐っても最高傑作だ! 生け捕りにしたいが難しいだろうねェ……」
「そんなこと言っている場合ですか!? 騎士は闘志を失いつつあります! そもそもこれは彼らにとって大義も何もない戦いでした。火の巨人を援護したと公になれば失職間違いなしです! 撤退に入ってますよ!」
ケンがまくし立てる。
「俗人っていうのはよくわからん理由で動くよねェ……騎士は捨て置くか。火の巨人は毒娘に向けるかねェ……」
そのとき、地面が揺れた。
「なんだ!? 火の巨人……には異常はない。表面を撫でられたくらいで、地霊たちは活性化しない。これは一体」
巨人の感覚情報の図を見て、さらに驚愕する。山が動いていた。
違う。それは、火の巨人をも凌ぐ大きさの、土の巨人なのだった。




