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メイメイ

 僧院で刺客を撃退して、六日が経った。爆裂魔法の後の霊波汚染も落ち着き、セリナ宅を再建できた。芸人ペルペやセリナがあちこちへ行って物を売ったり名を売ったりしている間、僕はメイメイが毒を制御する練習を見てやっていた。

 踊り子ハルクが報せを持ってきたのはそんなときだった。


「火の巨人?」


「東の方で、森や荘園を焼いているらしいんだ。現れたり消えたりしながら、こっちに向かってきている」


 光り輝く炎でできた体の巨人が暴れるのだという。僕は目を閉じて考える。

 【五振りの剣】には僕が知らない者が一人いた。

 【アナスタシス】の草創期に放火魔を捕らえたという話がある。

 この家を爆破したのは高度な術式を遠隔から発動できる魔法使いだった。

 生きているはずだが、それ以降攻撃を仕掛けてくることがない。

 しかしそれが同一人物だとして、火の巨人を操るというのは少ししっくりこなかった。あの魔法を使った術師はもっと大味な術を好むはずだ。巨人操作という繊細な作業をするだろうか。


「それともう一つ。魔法使いの偵察者が、【アナスタシス】の内部の情報を明かした。裏の求人から、志望者を装って中に入ったんだとよ」


 ハルクが魔法記録の写しを魔法陣の形で出す。


「よくこんなものを手に入れたな。普通なら警吏たちが独占するはずだろ」


 僕は文字列に変換し、目を通す。暗記し、脳内で解読する。


「いつも思うけど、よく術式を文字列で理解できるよな。俺はそれ読めないから、どういう話か教えてくれよ」


「知っていてすでに伝えた情報が多いな。人員はずいぶん少ない。離脱とか粛清というよりはどこかに出動しているらしい。時々の報告からは、誰かを探しているようだったという。そして一番大事なことだ。試験中にメラー師が逃亡した。二人の研究員とともに、禁書と呼ばれる本を持って転移魔法で逃げたという」


 少しわかってきた。

 禁書とは僕の蔵書だろう。常人が読めば発狂する。メラー師の手に渡ったというのはまずい。狂人が手にしていい技術ではない。


「俺は、火の巨人の件と関係があるんじゃないかと思う。いや、根拠はないんだけどさ」


 妖精族の直感というのはバカにできない。それに、今回は僕も同意だ。


「レージャ婆、という人ではないでしょうか」


 メイメイが口を挟む。


「知っているのか」


「組織で一番の魔法を使えると聞きました。火が燃え広がるのが何より大好きな人だとも。それで組織で一番厳しく監視されてるって」


 レージャ婆にこの家を爆破させたが、それに乗じて逃げられる。捜索に人員が割かれたところで、メラー師も逃げる。二人は落ち合ったか出くわしたか、とにかく合流して破壊活動を行なっている。


「止めるか」


 その晩、皆で集まって作戦を練った。


 ハルクとペルペは渉外のためこちらに留まる。そしてセリナと僕の二人で出ることにした。


「私は!? 私は、いては邪魔ですか!?」


「メイメイ、君は助手として頼りになる。けど、戦いの場にはついてくるな」


「この頃は人と関わるのもペルペさんやセリナさんがやっていますよね!? 私助手の仕事できていません! それに、私は体が傷ついても再生します! 毒があると知っている相手は寄り付きません! だから先生の盾になれます!」


 必死に食らいつく。何をそんなに……と考えて、思い至る。メイメイは、僕に必要とされたかったはずだ。僕はそれに応えていなかった。

 今さら何を言っても届かないかもしれない。それでも、盾になろうというのは承服できない。


「君は確かに自分の傷を治せる。でも痛みは激しいはずだ。それは許容できない」


「先生、私は先生のためなら痛いのなんて平気ですよ? そもそも以前は全身が痛むのが普通でした。先生は私の想いを信じてくれないんですか? 私は、先生の役に立ちたい。そばにいたい。放って行かないで」


「君にとってつらい仕事かもしれないが、立派な助手は留守番だって務めるものだぞ」


 欺瞞だ。話題をすり替えて、無理やり納得させる。


「戻るときまで練習して、毒をなくせるようになったら、ご褒美があるから」


 さらに餌で釣ろうというのだ。最低だ。

 メイメイはこの場は引き下がった。

 今後はしっかり配慮していかないといけない。


「あのさボルフ。明日の朝、話があるから。早起きしておいてね」


 セリナが無感情に言う。責められて当然だ。僕はセリナと目を合わせられなかった。


 翌朝早く、セリナは大きな鞄を見せてきた。


「じゃーん! 鞄だよ!」


 見ればわかる。しかし、なんなんだろう。メイメイのことじゃないのか?


「本を持ち帰るならこういうものが要ると思ったんだよね。紙って重いけど、これなら軽々持ち運べるよ!」


「本なんて、魔法を使えば」


「あまり何もかも魔法に頼って自分でやるのも健康的じゃないぞ! こういういわば外注って大事なんだ」


 セリナは真剣に僕を見る。


「ちゃんと周りの人にも頼るんだ。それは周りの人のためにもなるから。わかった?」


「わかり、ました」


 そうしてその話は終わった。


 メラー師の転移実験林はすでに検分し、転移先は特定済みだ。メルベルク領という封地だった。火の巨人が現れた場所に近い。僕たちの想定を裏付けていた。

 転移魔法を使い、火の巨人の出現予想位置の近くに移動する。


 セリナと二人で行動するなんて、いつぶりだろうか。


「さて、じゃあ作戦を始めるよ! この三人でね!」


 ところがセリナは大鞄を開けながらそう言う。


「来ちゃいました」


 メイメイが入っていた。

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