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組織の刺客ドブレとネーイ

 組織の二人の実力者、ドブレとネーイが刺客として僧院へ差し向けられた。

 魔法で攻めて失敗したので、今度は武闘派の二人だ。


 さて、平和を説く印象から、最近では神官は弱いと考えられることもある。

 歴史を紐解いた者は、ふつうそうは考えない。


 世俗勢力が大きな力をつけた【王の獅子吼】の時代以前は、諸教団こそが主要な支配層だった。

 王侯貴族の権威も、もとを正せば神に認められたものというのが表向きで、そして神の言葉というのは実質的には諸教団の言葉だった。


 歴史を紐解いた者は、神官は弱いなどと考えない。

 そして現在の神官を知る者は、神官は強いと理解している。


 僧院が持つ独自の戦闘力は解体されたことになっている。

 確かに、いくつかの規制がかけられて新しい強力な武器を持つことなどはできない。


 しかし、戦闘のための知識と技能が急に失われる訳ではない。

 例えば一般に魔法に属すると考えられる、当事者は魔法ではないと主張することもある、術式には規制をかけることができなかった。


 さらに神殿や僧院の深奥で戦闘技術が受け継がれ続けていたとしても、王侯貴族は関与できない。

 そして実際に受け継がれている。


 強い理由には、一人一人のやる気という要素もある。

 現在、普通の神官や祈祷員は、時がくれば命さえ顧みることなく戦うのを当たり前だと思っている。より大きな価値を信じているのだ。

 命令されていやいや戦う者とは覚悟が違う。生活のために戦う者よりも、さらに極まっている。


 もちろん覚悟がない者でも強く殴れば覚悟がある者を殺せるのが戦争ではある。しかし、人を殺すための技術が同等か劣る状況で、覚悟がなく恐怖する者が覚悟があり恐怖しない者を殺せることは少ない。


 まとめると、神官は強く恐ろしいのだ。

 組織【アナスタシス】もそれは把握している。ボルフと戦って勝つことは期待していないが、高位神官を数人殺害するには十分な戦力だと判断していた。


「いるんだろォ! ボルフがここによォ!」


「差し出さないなら痛い目に遭ってもらうよ!?」


「帰れ。帰らないなら痛い目に遭うのはお前だ」


 一方のガルハは、魔法の才能を持ちながら、僧院屈指の武闘派でもあった。

 精神の修養のため、一定の体系に基づいて運動力を鍛え、自身を把握することを目指す。

 人体を壊すことに特化した武術とはまた違う、武道である。

 それゆえ、戦いで勝つのに向いているとは言えない。

 人体を壊すのを得意とするドブレやネーイとぶつかれば、相性はよくない。

 普通はそうだ。


 譲るようにドブレが下がり、ネーイは前に出て短刀を抜く。短刀はわずかに濡れている。毒だ。

 ネーイが振りかざした短刀が、振り下ろされることはなかった。

 ガルハの手が接触するより「前」に、ネーイは浮遊を活かした活劇のように勢いよく弾き飛ばされる。

 大柄なドブレにぶつかり、ドブレを二歩、三歩と後ずさりさせた。

 受け止めたドブレはネーイが意識を失っているのを確認した。


「ホーやるじゃないか。遠当てって訳だ」


 体を動かし、打撃や締め付けで攻撃する技術がぶつかり合うとする。一方が対人を想定して技を磨き、他方がそうでないとすれば、対人を想定しない側は勝てないのが当たり前だ。


 だが、それは「ぶつかり合えば」の話である。

 相手の攻撃を受けることなく、自分の攻撃は当てることができるとすれば、負けない。当たり前だ。その技術を、ガルハは持ち合わせていた。


 一方のドブレはその場で、自身の武術体系における体の基本的な動きをなぞる。

 そして、ガルハに向かって拳を突き出す。

 おかしなことだ。腕の長さよりもずっと長い距離が開いているのだ。

 しかしガルハは危機を察知し、防御姿勢をとる。


「ぐっ」


 ガルハは殴られたような衝撃を受け、後ずさった。


「どうだ? 俺の遠当ては」


 それから、何度か打撃を交わす。その度にガルハは押されていく。人体を破壊するためでない技術が、人体を破壊するための技術とぶつかり合えば、負ける。

 相性が悪い。


 ガルハに恐怖はない。最期の瞬間まで、ないだろう。この相手にいかに有効打を与えるかを冷静に算段する。

 魔法攻撃を交じえるが、ドブレは拳で受ける。

 尋常ではない。遠当ての技はある種の魔法に属し、魔法攻撃に対応できる。それはガルハにもわかるが、自分の魔法の威力を受け止めるような遠当て使いがいるとは思わなかった。

 ドブレは、ガルハにとって遠当て使いとして格上だった。


 その時、僧院の奥から足音が近づく。つぶやき声もだ。


「この三二行をミリ構文で圧縮、三つの分毒呪文の位置を死滅呪文の中に変更、直前で既出の語句は省略……」


 その男は、術式を捏ねるに当たって「没入」と自分で呼ぶ状態に入るのを常とする。外界の情報を断ち、これまで覚えてきた呪文の海の中に精神を投じるのだ。だから、術式を視覚化する魔法陣を必要としない。

 しかし今は魔法陣を掌中に展開していた。外界も感じているようだ。


「出たか。会いたくなかったが、その様子じゃ俺でも勝てるかもな」


 ドブレは予期せぬ勝機を見出しほくそ笑む。しかし言った直後、言い知れない違和感を覚えた。自分が今言った「勝てる」という言葉を、自分で全く信じられないような感覚だ。


「参照を補充、変数ミー字の引数は三から二へ……中断」


 男は言葉を切ってから、ドブレを見据える。


「片手間で悪いな。もしかしたら」


 ドブレは足が震えるのを感じた。心が奮い立つのか。

 違う。

 逆だ。

 目の前の相手が、恐ろしくて仕方がない。


「手加減できないかもしれない」


 これから始まるのは戦闘ではない。

 抵抗を許さない制裁、あるいは蹂躙だ。

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