ハルクとの話
「技芸の神から言葉を受け取ったか?」
神から言葉を受け取るというのは、啓示を直接受け取ることとは限らない。
誰かが神から啓示を受け取り、その代弁者となって言葉を発したのを聞く、というのが普通の「神から言葉を受け取る」ことだ。
神の言葉と言っても、何か特別強い力があるわけではない。人間の言葉、もっと言うと代弁者となった人の言葉を聞いたのと変わらない。
その人が「手をさしだせ」と言って従うような関係と状況なら、神を代弁して「手をさしだせ」と言われても従う。従わないような関係と状況なら、神を代弁して言われても従わない。
そのようなものだ。だから、僕が今自分の心身を魔法で観察しても、神から言葉を受け取ったかどうかは分からない。
最近話した人の中に、技芸の神を代弁するような人はいたか。
「……ペルペ? 仲間に魔法使いの芸人がいるんだけど」
魔法芸人ペルペには先だってやや不思議な言葉をかけて元気づけられた。
「心当たりがあるのか! ま、悪意があるような感じじゃないが」
とりあえず言われたことを暗号化して伝えた。暗号化したのは、長いのと、メイメイに聞かれたくないからだ。
「あー、あー、なるほどね。そっか、ボルフはその女の子が大好きなんだな」
ハルクはメイメイの方に目を向けて楽しそうに笑う。
「えっ!? なんですか? 先生、ペルペさんと何の話したんですか!?」
「僕はメイメイにさっさと愛してるって伝えろ、って言われたんだよ」
「なっ……それはもっといい時に伝え直すんじゃなかったんですか!? 今言います!?」
「それよりも、言っていた毒を操る技術だが、ハルクが何か知っていそうなんだ」
からかい、それから話を逸らす。こちらも十分重要な話題だ。
「本当ですか!?」
「本当さ。俺はこの羽から粉を散らす。以前それはいつも人体に害をなした。そのうち頑張って薬を出せるようになったんだけど、それじゃダメだって先代に言われてさ。薬を出せるようになったのに比べたら、無効化は簡単だったよ」
「それ、教えてください! 頑張ってのあたり詳しく!」
当然メイメイは食らいついた。ハルクとしても武勇伝に類することを語るのは嫌ではないようで、それに昔から僕が困っていると知れば進んで力になってくれた。
「ああ。そうだな……まずは自分が出す毒の強さを目に見えるようにする。それを見て上がれ〜とか下がれ〜とか念じていると、そのうち上げたり下げたりできる」
「え? 本当にそんなことですか? 私、魔法とか教わったことないんですけど、できるんでしょうか……」
メイメイには怪しい話に聞こえたようだ。確かに、念じただけで何とかなるなんて、魔法でもなしには起きそうもないと思うかもしれない。
「その話は本当で、魔法も関係ないと思うよ」
僕は口を挟んだ。量を感じるようにしてからそれを操る感覚を掴むというのは、毒ではないが、やったことがある。僕が感じた限り魔法の要素はない。
「言われてみれば、僕も通った道だ。思い至らなかったのが悔しいよ。試しにやってみてもいいんじゃないか。毒の強さを測るのは僕が手伝えるから」
「そうですね。先生がそう仰るなら、仮に騙されているとしても平気です」
その時だった。
「いるんだろォ! ボルフがここによォ!」
「差し出さないなら痛い目に遭ってもらうよ!?」
入口の方から威圧的な声が聞こえる。出ようとすると、神官たちから声が上がった。
「座っていてください」「出る必要はない」「ここはガルハさんが相手をするそうです」
相手は【五振りの剣】の二人だ。荒事に慣れている。しかし、あの才気あるガルハさんが負けるところも想像できなかった。
「メイメイ。どう思う」
「私に判断を投げますか。そうですね、関係ない人はできる限り巻き込みたくありません。私が毒を御する訓練は後でもいい。でも、今私のために術式を作ってもらえると、嬉しい……」
「そっか」
「いや、今のは忘れてください! 戦いが先です! わがまま言いました!」
メイメイはそう言うが、僕はどちらも譲るつもりはなかった。メイメイの手伝いというのは、主に毒の強さを測る術式を構築することだ。
「問題ないよ」
僕は身支度をして入口の方へ歩む。不満を押し殺して微笑もうとするメイメイに声をかけた。
「メイメイのことは後回しにしない。悪党は倒す。術式は構築する。同時にやってやる。すぐに戻って、すぐに毒操作の練習をしよう」




