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初めて知った勤め先の悪評

 勤め先を追い出されてしまった。人類屈指の技能を持っている身からすれば、生計を立てる手段は思いつかないではない。業務の中で私的に知り合いになった相手もいる。


 だが、さしあたって困るのが住居である。家は道場もろとも大風で損壊した。道場は複雑な魔法構造を持つ一方、家はそうでないので魔法で修復できたのだが、その後組織【アナスタシス】に勧められて売却し、住み込みで仕事をしていた。

 つまり、住んで寝る場所がないのだ。


 当てはある。

 僧院か、哲学ギルド(だいがく)か、知人のところに転がり込むかだ。


 そんなことを考えながら【アナスタシス】の敷地を出ると、入口のところに少女が待っていた。こちらに気づくと手を振る。


「先生! お待ちしておりました」


 助手のメイメイだ。先ほどヨルダンがクビにしたと言っていた。顔色が青白く見えるが、それは平常運転である。


「メイメイ。君は行くあてがないよな」


「先生も私なしでは人と関わる仕事なんてできませんよね」


 僕が心配を見せると、メイメイは悪戯っぽく笑って言った。この子は今やこんな顔ができるようになったのか、と過去を思い出す。


 いや、それよりも未来のことだ。

 とりあえず僧院に行こう。

 果実粥ぐらい出るし、一晩なら宿泊もできるだろう。それに、魔法校正に強いと伝えれば、貴重な祈祷術式を見せてもらえる可能性もある。


「よき聖休日を。お狐様のご加護がありますよう」


 出迎えてくれたのは祈祷員の女性だった。簡易な神官貫頭衣を着ている。


「お狐様の平安あれ。実は住み込みで働いていたところを追い出されて、我々二人は宿がありません。一晩でいいので泊めていただけますか。私は魔法術式に関して専門知識があります。お役に立てることがあれば遠慮なくおっしゃってください」


「わかりました。もちろんご宿泊いただけます。神への奉仕をお望みと神官にお伝えしてよろしいでしょうか」


 そうして迎え入れられた、かのように思われた。


「住み込みで働いた先は【アナスタシス】だと、そうおっしゃいましたかな?」


 応接室で神官と話をしていると、組織の名前を出した途端、友好的な雰囲気が消えた。


「非常に申し訳ありません。我々はあなた方を受け入れることはできません。教義と現在の聖王で見解が異なっているのですが、少なくとも当院では不法ギルドの方は泊めることができません」


 僕たちがいた組織、【アナスタシス】は不法ギルドだそうだった。不法ギルドとは貴族や教団の後ろ盾を得ていないギルドのうち、流れの者や荒くれ者が集まっているものを指す。

 初めて聞く情報だが、【アナスタシス】が悪どいことをやっているというのには心当たりがある。地上げにあたって私兵を用いたり、地税の徴税人と通じて税を横流しさせたりなどというのは話に聞いた。ワル自慢の類と思って、あまり信じていなかったが。

 さらには、ここにいるメイメイも「悪どいこと」の結果と言える。「実験」を知った時は研究者にありがちな暴走と思ったが、組織が腐っていたというのがより良い説明のようだ。


 ともかく、僧院では受け入れてもらえないということだった。

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