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僧院再訪

 セリナ宅が消滅し、セリナは都市周縁部にある育ちの家に、ペルペは一座の天幕に移った。ちなみにそれぞれ防御策は講じてある。


「なんか、追い出されてすぐを思い出すな」


 僕とメイメイは二人で住居を探しに出た。最初と同じだ。

 違うのは、今の僕は【闇に堕ちた天才】ではなく【闇を払う天才】らしいということだ。

 例の商人を頼ることもできる。僧院も、あるいは今なら断らないかもしれない。

 それとも、規則は規則として断られるだろうか。


「祈祷術式はぜひ見たいからな。僧院に行くか」


「食べ物も出るんですよね」


「果実粥はあまりうまくないと思うぞ」


 そうして僧院に来た。


「お狐様のご加護がありますよう」


 祈祷員の女性が入り口で迎えてくれる。


「お狐様の豊穣あれ。実は家が崩壊しまして、仮にここに泊めていただけませんか。私は魔法術式に関して専門知識があります」


「わかりました。もちろんご宿泊いただけます。神への奉仕をお望みと神官にお伝えしてよろしいでしょうか」


 ここまでは定型文だ。

 応接室に通される。


「確かに記録にありますね。犯罪集団からの足抜けの宿泊を断ったと。そしてあなたは現在はその組織と対立している」


 神官はしばし考える。この情報だと、無理そうだろうか。犯罪集団と対立するからといって、犯罪者でないということにはならない。実際、犯罪集団同士の対立などいくらでも存在する。


「教義と現在の聖王で見解が異なっており、規則には書かれていないのですが、慣例としては泊めないことになっています。しかし、魔法術式か……」


「何かお困りのことでもあるのでしょうか。私が信用できず、泊めていただけないとしても、私の技術は信頼できるかもしれませんよ。進んで手伝いましょう」


 神官は黙考を続ける。察しはついた。問題があるのは秘匿された祈祷術式だろう。外部に流出するのは避けたいはずだ。特に犯罪者に明かすなどできるはずもない。名前を明かせば少しは信用を得られるだろうか。僧院を頼る者は原則的に素性を明かす必要がないとされるので、名乗っていなかった。


「申し遅れましたが、私はボルフ・ベイルフです。クルグ・トランス博士の薫陶を受けています。知らずにとはいえ悪に加担したのですが、抜けてからは魔道具などを売っています。真っ当な商売です」


「クルグ学派のボルフ・ベイルフ! 至高の魔術師ですか。念のため、偽りがないか確かめさせてもらいます。祈祷員、お呼びしてほしい人がいる……」


 立ち会っていた祈祷員が人を呼びに行った。魔法を使えばどういう人物が来るかわかるが、失礼にあたるのでやめておく。


 しばらくすると、部屋に三人の人が入って来た。一人は祈祷員だ。一人は、装束から察するに高位の神官と思われる。紅白という吉祥なる色の取り合わせだ。もっとわかりやすい証拠として、頭頂に狐の耳が生えている。詳細は不明だが、高位の神官になるとお狐様の加護により耳か尻尾かその両方が生える人がいるのだ。


「私は神官ガルハ。求めに応じ参った」


「お時間いただきありがとうございます。恩寵あれ」


 ガルハと名乗った神官は僕の方に視線をやって、先の神官に言った。


「その者か。正直私の力量を超えている。疑うだけ無駄だろう」


「ガルハさんにもわからない!? そのようなことが……」


「至高の魔術師を名乗っているのだろう。それでおかしな点もない。信用して良い」


「そうですか……それではボルフさん、あなたを泊めることは可能です。そして手伝っていただけるなら我々の」


「その件は私から説明しよう。そして、至高の魔術師に会いたいという者がいた。本人か判断する根拠の一つにはなり得る」


 そうだ。部屋に入って来たのは三人いた。一人は祈祷員、一人はガルハさん、そしてもう一人は、見知った顔だった。


「よう。久しぶりだなボルフ」


 小柄で中性的な体躯に、薄布を重ねたような装束を纏い、金属の飾りを複数つけている。体に豊かで気持ちの良さそうな毛が生えているのは獣神の眷属を思わせる。

 しかし最も目を引く特徴が、そうではないと告げる。背中から生えた蛾の羽だ。

 彼は妖精人なのだ。


「ハルク」


 古い学友と、思いがけない再会を果たしたのだった。

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