表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/42

組織の【五振りの剣】

「フォッフォフォ……成功したぞい! 家の敷地丸ごと焦土だぞい!」


 無数の鎖に繋がれた老婆が楽しそうに笑う。

 彼女こそは【五振りの剣】の中で最大出力を発揮できる切り札、レージャ婆である。

 辺境の森や村を派手に焼き払って指名手配されていたが、【アナスタシス】が捕らえた。

 彼女は、地図上で場所を指定すれば、見えない場所でも爆撃することができる。

 普段は厳重に封印しており、たまに使うときも部分的にしか解放しないのだが、今回は完全解放した。


 いくら至高の魔術師ボルフといえどひとたまりもあるまい。

 彼の本領である術式の書き換えを警戒し、認識の外で編んでおいた魔法を一瞬で解放した。どうやら成功したようだ。いざというときレージャ婆を抑えるため集まった【五振りの剣】の残り四人とヨルダンは胸を撫で下ろした。


 その直後、レージャ婆が口から血を吐いた。


「ゴフッ……」


「どうしました婆さん、年甲斐もなく無茶しすぎましたか?」


 ヨルダンが軽口を叩く。喋った拍子に口からよだれが垂れてしまう。みっともない、と思って拭うと、手にべっとりと血が付いていた。


「え」


「じゅ、呪詛返しだぞい」


 ヒューヒューと音を立てて息を切らしながらレージャ婆が言う。爆撃した先から逆に反撃を受けた。実行したレージャ婆に加え、命じたヨルダンにも影響が及んだ。


「彼は、ボルフは死んでいないということか……」


 信じられない、と思いつつヨルダンは認めざるを得なかった。魔力を探知すれば、確かにボルフがいるようだ。


「がはっ」


 逆探知を受け、さらに血を吐く。目からも血が流れる。これ以上は危険だ。


「ともかく……ともかく、レージャ婆を再び封印して次の計画を……」


 ヨルダンがレージャ婆の方を見ると、そこには誰もいなかった。鎖が全て解かれている。逃がしたか。とんでもない失態だ。確実に仕留めるべき目標は生きていて、危険人物を野に放ってしまった。


「やれやれ、レージャ婆が失敗し逃亡したか」


 出し抜けに【五振りの剣】のドブレが言う。


「彼女は出力が高いだけで、我々の中でも最も小物ですからね」


 ゾーラが続ける。


「元が犯罪者だし、五振りの剣の面汚しだね」


 ネーイが罵る。もう一人のマラウは喋らない。

 失敗した同僚を罵るのは薄情に見える。しかし、このように「あいつは特別弱かっただけ」と主張しておかなければ、予算を削られかねないのだ。


「なるほど。では五振りの剣の真価を問わせてもらおう」


 ヨルダンは不機嫌そうに言った。

 【五振りの剣】は内心では、あんな化け物と戦うなんて真っ平ごめんだと思っている。

 ヨルダンもそれはわかっている。わかった上で無茶を振るのだ。


「ドブレ。行け。ボルフの首をとってこい」


 ドブレはヨルダンと方針が対立することが多かった。ヨルダンは、ボルフを放っておいて力をつけるのが最適だと理解している。その上でこの期に乗じてドブレを始末しようというのだ。


「俺一人では荷が勝つ。万全を期して、ネーイを連れて行こう。面汚しではない五振りの剣として立派に戦ってくれるはずだ」


 ドブレは敵対派閥のネーイを巻き添えにしようとした。いざとなれば自分だけ逃げる。

 【アナスタシス】は落ち目だ。

 武器は大量に失う。

 危険薬物の依存性も嗜好品より少し上程度まで低まっている。 

 作り出す魔法商品はかつて貴族にも受けがよかったのが、ここ数日品質が落ちていると文句をつけられる。


 落ち目であるにもかかわらず、内々で足の引っ張り合いをしていた。

 あるいは、落ち目であるからこそ、なのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ