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ペルペとの対話、そして

 屋外に出ると、メイメイとペルペが手遊びをしていた。もちろん互いに手袋をして、毒に配慮した上でだ。入る前に「ペルペと手遊びでもしてな」と言うと「子どもじゃないんですよ。中毒の危険を冒してまでなぜそのような遊びを」と言っていたが、普通に楽しそうだ。


「ああ、お疲れボルフ」


 さすがは芸人というか、子どもを含めた人に好かれるのが得意なのだろう。


「ははは、メイメイちゃんはかわいいね」


 その彼は何気なく言ったのだろう。メイメイも「ちゃん付けしないでください」と言うだけだったが、僕は複雑な思いを覚えていた。


「ああ、ごめんね。さん付けがいい? それとも敬称なし?」


 ペルペは僕の様子を訝しみつつ、何気ない風に遊び続けた。


 ……その夜、セリナにメイメイを任せて、ペルペは真剣な眼差しで尋ねる。


「ねえ、メイメイさんって……何か、あるの?」


 そう、ペルペには話していなかった。


「毒娘って知ってるか。大昔の」


「えっと、同衾すると死ぬっていう暗殺者だよね。背中に毒を塗って舐めるように仕向けるんだっけ」


 実際はそうであったと言われる。だが、同衾すると死ぬという部分が強調して伝えられていた。


「そうだな。狂える学者メラーはその伝承を蘇らせようとした。人間の体を改造して毒性を持たせることで」


「そんな……じゃあメイメイさんが!? あの手袋もそのため!? 確かに人体は毒に強いけど、比較的強いという話で、せいぜいネギを食べられるとかいうぐらいだ。自分が毒を持っても、自家中毒で死ぬんじゃ」


「ああ。計画の中ではメイメイの前に何人か死なせていたらしい」


 話していて気分が悪くなる。

 メイメイも無理をして生かされていた。


「いくつも無理を通し、メイメイは作られた。理想的な毒娘として」


 毒娘には、ある重要な素質が求められる。殺害の条件を満たすためその素質が求められるのだ。


「だから、メイメイさんは容姿が整ってる……いや、整えられていたのか」


「最高の顔形。完璧な美少女。堅固な戦士の心をも揺らがし寝床へ誘う。あれは、『製作者』の悪意でできているんだ」


 静まり返る。

 もう一つ、どうしようもない事実があった。

 これも話しておかなければならないと思った。

 それを口にする。


「僕は、メイメイの毒を弱めてやっている。今は粘膜接触しない限り死には至らない。本人も毒の苦しみは感じないようだ。でも実は、しようと思って実験を重ねれば、メイメイの毒を反転させて人体に有益なものにもできる。人体を大きく弄る魔法がどう出るか怖いのもあるが、しない理由がわかるか」


「共寝すると健康になる少女が何に『使える』かなんて明白だから?」


「そうだな。メイメイの利用価値が高まり危険性が薄れたら、僕は守りきれないかもしれない。いわばそういう僕の力不足とワガママだ。もう一つある」


 ペルペは目を伏せた。ほとんど察したように見えた。


「僕はメイメイを魅力的に思っている。メイメイが僕に好意を抱いているというのも分かっている。そして、十分に触れ合えなくて寂しがることがあることも。それなのに僕は、この状況をよしとしているんだ。悪意でできた見た目の魅力に溺れずにすむと。……いや、違うな。愛し合う二人ではなく、先生と助手という体を保って安心している。浅ましいことだ。メイメイがどれほど心痛めていることか。それに、自分が毒で動物などを傷つけるということを、どれほど嫌っていることか」


 最低だ。言葉にしてみれば、僕は最低の駄々をこねているのだった。

 ところがペルペは言う。


「違う」


 その口調は、呪文を綴るのに似ていた。

 ペルペ・ロールが、合意のもとボルフ・ベイルフをここに語り直す。


『ボルフ・ベイルフがメイメイの毒を消さないのは、自分のためではない。

 少なくとも、自分のためだけではない。

 彼は、毒のおかげで、メイメイと距離を縮めずにすむという利益を得ていると主張する。

 だが【実は】、メイメイは自力で毒を操り薬を操ることができる。

 その可能性が大きい。

 メイメイが食事を楽しんでいるのはその証拠だ。

 毒の唾液と混じればすべてが同じ味になる。

 意図せずに唾液の毒を抑えているのだ。

 そして、毒と薬とは同じものだ。

 体に生じる結果を、人間が良いもの悪いものと区別しているに過ぎない。

 ならば毒を操れて薬を操れないことはない。

 その可能性をボルフ・ベイルフは見抜いていた。

 ペルペ・ロールが気づいたほどなのだから。

 かつて計画されたほど苦しい思いをせずに、メイメイは自衛力を持ったまま安全になることができる。

 そしてボルフ・ベイルフとメイメイの運命的な口づけによって、幸せな結末は定められる』


 ペルペが一息に語った。

 そうだった。記憶の中から、食事を嫌っていたメイメイが食の楽しさを知ったエピソードが蘇る。そのとき、唾液の毒を抑える術を得はじめていたのだ。


「ありがとう、ペルペ。なんでこんなことを忘れていたんだろうな。それに僕は卑屈になり過ぎていた」


「うんうん。でもメイメイさんにはちゃんと伝えなよ。愛してるって。そこは庇いきれないな」


 そうだ。すぐにでもメイメイに言おうか。

 叙情的な雰囲気作りなんて待てない。

 戦いを前にしての求愛の不吉さも関係ない。


 決意したその時だった。

 セリナ宅の真上に、多重魔法陣が展開される。

 街を一つ吹き飛ばすほどの威力の爆裂魔法が、この家に効果範囲を絞っている。

 術式は構築済みでプロテクトも固い。介入は間に合わない。


 そして、地上に太陽が出現したような炎がセリナ宅を呑み込んだ。

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